チギ
チギは一番若い国王候補だ。まだ二次性徴も迎えていない、発情期も未経験のオメガである。島民に話を聞いても大半が「まだ王には早いのではないか」という意見を口にした。
自分の娘がチギと同級生だという移住者の女性は「チギ君は娘のお友達、という印象しかない」と苦笑する。
「とても活発で優しくて、友達の多い子だと聞いています。うちの娘は一年生の頃学校に行きたがらなくてなかなか私から離れなかったんですけど、チギ君が一緒に学校行こうって手を引いて連れ出してくれたりして。いい子なんですよ、ほんと。でもだからって王様になって欲しいとは思いません」
児童クラブの職員をしている女性は、放課後チギの面倒を見ているそうだ。「すごくいい子ですよ」と他の島民同様に語った。
「学校から児童館に来たらすぐに宿題を始めて。字も丁寧で綺麗です。書き初めで金賞をもらったって話も聞きましたね。将来は王様だねって話もしたことはあるけれど、もう少し大人になってからの方がいいですよねえ」
一方、「チギにすぐ王になって欲しい」と言った三十代の男性もいた。
「僕は早いうちから王になってもらった方がいいと思うんですよ。カゲキは性格良くてもあんなにゴツくなっちゃ、ねえ。アヴノは綺麗だけど遊びすぎじゃないですか。どっちも王の自覚足りてないというか。子どものうちから王様って呼ばれてた方が御斗田島の王らしい大人に育つんじゃないですか」
チギがまだ幼いということもあって、島民の意見はどこかはっきりしないものが多かった。
事前に保護者の了承を得てから、放課後児童クラブにいるチギに会いに行った。整った顔立ちと他の子どもより頭ひとつ分高い身長は流石は国王候補、といった感じだが、友達とボードゲームで遊ぶ様子は年相応のあどけなさが残る。
児童館の一室を借りてチギから直接話を聞いた。国王候補としての自分については「よくわからないです」と言った。
「カゲキもアヴノも大人だから、僕よりあのふたりの方がいいんじゃないかなーって思ってます」
カゲキやアヴノのような意欲は見せなかった。それでも「王になったらしたいことは?」と問い掛けると「御斗田島を子どもがいっぱいいる賑やかな場所にしたい」と答えた。
「今は移住してきた人も子どもを産んじゃいけないルールになってる。王様の子どもならまだわかるんだけど、なんで余所から来た人同士の子どもも駄目なんだろうって。僕は友達も弟も妹もいっぱいいる方が楽しいと思うから、そのルールを変えたいです。あと王様の家に住んだら庭をいつでも誰が来てもいいようにする。みんなが遊べる公園みたいにしたい」
子どもらしい意見だが、しっかりした考えを持っていてそれをきちんと言葉にできる所には国王候補らしさを感じた。王の選抜があと五年遅ければ、チギは島民に期待される立派な候補者となっていただろう。
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