幻の“国王候補”

 繁華街で取材をしていると数人から「カラド」という名の王の子どもについての情報を得ることができた。


 都市伝説的に語られているのかと思い後ほどドゥンさんに確認した所、カラドはかつて実在した国王候補なのだという。


 情報をまとめるとこうだ。カラドは生きていれば現在は三十代。幼い頃から賢く、見た目も性格も王によく似ていた。背が伸びるにつれてカラドは王と瓜ふたつの姿に成長していった。次の王は彼だと誰もが信じて疑わなかった。


 事件が起きたのは今から十五年ほど前。港近くのホテルが島外の人間によって放火された。死傷者十数名の大惨事となり、たまたまホテルのロビーに居合わせたカラドも火事に巻き込まれた。


 カラドの遺体は見つかっていない。それ故に、「もし彼が生きていれば」と考える島民も少なからずいるようだ。


 ドゥンさんは言う。


「カラドがいれば彼が王に選ばれるに違いない。私もカラドなら何の心配もなくこの島を任せられると思っています。最後にカラドを見たのはまだ彼が十代の頃だったが、その時から王の素質があった。もし生きているなら今からでもいい、すぐ名乗り出て欲しい」


 そう語った後、ドゥンさんは諦めた様子で「まあ、こんな小さな島で隠れて暮らすことなんてできないでしょうがね」と言った。


 現在の国王候補は若い順に十代のチギと二十代のアヴノ、四十代のカゲキの三人だ。国王候補が十年に一度のペースで生まれることを考えると三十代の国王候補がいても良いのではないか、とは前々から疑問に思っていた。空白の世代に国王候補は確かに存在していたのだ。


 幻の国王候補。どんな人物だったのかもっとよく知りたくなり本土の図書館に問い合わせた。観光客を巻き込んだ放火事件であれば記事が残っているかもしれない。


 調査の結果、確かに御斗田島でホテル火災は実際に起こったようで、当時の地域紙に小さく記事が載っていた。が、「一名が行方不明」とあるだけでそれが国王候補であったかはわからなかった。


 前項「はじめに」でも述べたとおり、御斗田島の歴史を克明に記した文献は存在しない。それは意図的に隠しているというよりは、固有の種を守るために閉鎖的な文化を維持した結果こうなってしまったという印象だ。国王はこの現状に危機感を覚え、筆者に「島のすみからすみまでくまなく見て全てを記述して欲しい」と依頼したのだろう。


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