“交雑”という罪
御斗田島における妊娠がどれだけの重罪なのか。ドゥンさんに伺うと彼は数十年前に起こった事件を話してくれた。
「私が生まれる前の話ですが、当時の国王候補が移住者との子どもを孕んだことがありました。あの頃はまだ王も若くて王位を退くという話も全くなかったけど、国王候補であるオメガが余所者と交雑してしまうことは大問題になりました。結果、移住者は島を追い出され国王候補はその資格を失いました。国王候補は発情期に使う抑制剤の支給や生活を保障されたりしますが、それも全て剥奪されて島の北側にひっそりと住むようになったのです」
子どもはどうなったのか、と訊ねると「五年くらい前まで島で暮らしていましたよ」と答えた。
「移住者はどうやらベータだったようで、生まれた子どももベータでした。これがオメガだったらまた問題になったでしょうね。子どもは私より少し歳上で普通に学校に通ったりしていたと思います。でもイジメや村八分的なことはあったんじゃないかな。元国王候補の親が死んだ後も同じ家に住んでいたはずです。最期は可哀想なもんでしたよ。孤独死でした。死んでからだいぶ経っていて、臭いが酷くて。遺体は見ていないからわからないけど、まああれだけ腐敗臭がするんだから、ねえ」
交雑が何故そこまで問題になるのか。ヒトは遺伝子を掛け合わせてより強い子どもを産むものだ。そんな疑問をぶつけてみるとドゥンさんはそんなこともわからないのかという表情をした。
「私達は自然環境が変わるまでは完璧な種族だったのです。美しい種を美しいまま受け継いでいくのは義務です。他の遺伝子など必要ありませんでした。今回アルファの遺伝子を受け入れるというのは王の苦渋の決断です。今でもそれに反発する島民もいます。それだけイレギュラーな状況なんですよ」
日本の固有種を守るために外来種を排除する。我々が野生の生物に対してやっていることを、御斗田島の人々は自らに課しているのだ。
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