証言
(以下、未整理の記録)
カラドは比較的裕福な家で育てられた。派手ではないが不自由のない暮らし。周囲の人々も優しく幸せな日々を送っていた。
その日は県知事が休暇を利用して御斗田島にやって来るということで、歓迎のためにホテルのロビーにいた。観光客は島の人間の美しさを期待する。こうして時々カラドが客をもてなすことは珍しくはなかった。
事件は一瞬のうちに起きた。灯油缶を持ってホテルに入ってきたひとりの男が自らに中身を掛けると火をつけた。火だるまになった男は県知事に覆い被さるように倒れ、カラドも巻き込まれた。
火はあっという間に燃え広がりロビーをほぼまるごと焼いた。経験したことのない熱さと息苦しさの中何とか這って火のない所を探した所までは覚えている。次に意識がハッキリしてきた時には見知らぬ部屋に横になっていた。
カラドを家事の現場から連れ出し火傷を治療したのは身体の大きな中年男性だった。彼はカラドにほとんど声を掛けなかった。カラドは彼を命の恩人だと思ったが、決して善人ではなかった。治療の甲斐あって一命を取り留めたカラドの身体を見て彼は「くそっ」と悪態をついた。
「こんな不細工になっちゃ使いもんになんねーな。死なせときゃ良かった」
カラドはこの時点ではまだ鏡などで自分の姿を確認していなかったが、彼の言葉でもう自分は美しくはないことがよくわかった。
さらに運の悪いことに、このタイミングでカラドは二次性徴を迎え発情が起こった。身体が熱くなり身体の奥から突き刺されるように下半身が痛んだ。布団に染みができるほど体液が溢れて強いにおいがした。身体が重苦しくなり動けないカラドを男は自分勝手に犯した。
「おまえはもう美しくない」「誰もおまえがカラドだなんて気が付かない」「みんなおまえは死んだものと思っている。誰もおまえを探さない」
あらゆる言葉でカラドを縛り付けた男は身の周りの世話をさせ、好きな時に好きなだけレイプした。初めてレイプされてから約三ヶ月後、身体が張り裂けそうな痛みとともにカラドは小動物のような小さな赤ん坊を産んだ。
最初の赤ん坊は一日も経たないうちに短すぎる生涯を終えた。その後も男はレイプを辞めなかった。カラドは発情期にセックスをすると身体の痛みや苦しさが幾分か治まるのを感じていた。発情の苦しみから抜け出したい一心で男を受け入れた。
あの火事からどれくらいの年月が経ったのだろうか。ある日男は「身体が痛い」と言って寝込んだ。カラドは食事と排泄の世話しかできなかった。一ヶ月後男は苦しみながら息を引き取った。
カラドはこの姿になってから男以外の人間と接触していなかった。どこの誰に頼るべきかもわからず、かといって自分で遺体を運ぶこともできず男の肉は腐っていった。
においに気が付いた近所の住人が家の戸を叩いた。不審に思った住人がさらに人を呼び家の前が騒がしくなった。
美しくなくなった自分に価値はない。誰も自分がカラドだなんて気が付かない。発情期が来ればまた誰かに犯される。助けを求めるという選択肢はなかった。窓から抜け出した。その後は二度と家に戻らなかった。
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