八月八日月曜日
「樋口さんが内緒にしてくれるなら」とカラドが島の北側の林に僕を連れて行った。
「あの人も可哀想な人だった。自分があの家に暮らしている間、死体が腐って臭くなるまで誰も家に来なかった。郵便屋さんも家から少し離れた所に置いた箱に手紙とか入れてた。自分を助けたことで周りに認められたかったんだと思う」
林の中に灯りのついた家があった。「まただ」とカラドが言った。家の前にはチギがしゃがみ込んでいた。チギは「ボーレイさん、と、樋口さんだ。こんばんは」と言った。「ボーレイ」はカラドのことらしい。
「また怒られたのか。だから黙っとけって言ったのに」
「だってー」
「余計なこと言ったら怒られるんだよ」
「だってさ、僕さ」
カラドとチギは知り合いらしい。チギが「お腹空いた」と言うとカラドは「仕方ないな」と袋に入ったたまご蒸しパンを差し出した。ポケットに詰め込んでいたので潰れている。チギは「やった、ありがとう」と受け取ってその場で食べた。
「早く入れてもらえるといいな」とカラドが言った後チギと別れた。
「あの子は親に怒られるといつも家を追い出されるんだ。ご飯もちゃんと用意されないんだって」
彼が国王候補だと教えると「あの子じゃ無理じゃないか。でも王になってちゃんと世話してくれる人ができた方が幸せかもな」と言った。
波の音が聞こえるほど崖に近い林の中でカラドが立ち止まった。指の見当たらない右手も使って犬のように地面を掘った。ライトで照らすと穴の中に骨のようなものが見えた。
「最初に産んだ子ども、捨てて来いって言われて、最初は崖に落としたんだけど波で戻ってきちゃって、沖まで流れなくて。仕方ないから崖下りて拾って、ここに埋めて。それからは産まれたらここに埋めてた」
僕は何も言えなかった。カラドは続けた。
「わかってる。これは命だよ。自分が何をしたのかはちゃんとわかってるんだ。だからもうカラドとしてみんなの前には戻れない」
林を引き返す時にカラドはこうも言った。
「最初は期待してたよ。誰か探しに来てくれるんじゃないかって。でももう諦めた。期待するのも疲れるんだ。だからもういい。アルファに選んでもらって王になれるんじゃないかって期待して余計に疲れたくないんだ」
もう僕に国王の選抜についての話をして欲しくない、という意味だと解釈した。
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