夏祭り

 夏祭りに行くという神馬氏に同行した。東西を結ぶこの島では一番大きい道路沿いに屋台が並ぶ賑やかなイベントだ。


 島の北側に小さな祠はあるが、この夏祭りは祭礼を伴ったものではないようだ。夏祭り会場を案内してくれたドゥンさん曰く「信仰としては本土と同じ。でももしかしたらドライな所はあるかもしれません」とのことだ。


「祠はあるけどお祭りはしませんね。掃除は近所の人がしていると思います。誰かが亡くなったら本土の葬儀会社に頼みます。この島にお寺はないので。お墓もありますがお彼岸やお盆にちゃんとお参りに行く人はそんなにいないんじゃないかな」


 屋台は島の商店だけでなく本土の飲食店からも出店されていた。繁華街の風俗店も屋台を出していて、ボーイが普段の仕事とはあまり関係なさそうな焼きそばなどを作っている。


 いつもはのんびりとした空気の流れる御斗田島だが、この日ばかりは活気に溢れている。色とりどりの浴衣姿で、この島では明らかに浮いた容姿の神馬氏ですら霞む。


 神馬氏は人ごみの中すれ違う人々に肩をぶつけながら進む。「ごめんごめん」「おっと、済まないね」と言いながらも気を付ける様子は見せない。老若男女構わず突進してぶつかっていくので見ている方はヒヤヒヤした。


 彼はサービス精神が旺盛なのか、筆者とドゥンさんにいろいろな食べ物を奢ってくれた。そしてしきりに「美味いかい」と訊いてきた。何か見透かされているような、変な気分だ。

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