御斗田島について
御斗田島は、太平洋に浮かぶ面積約三平方キロメートルの小さな離島だ。東端と西端にそれぞれ港を持ち、それらを結ぶように県道が走っている。東側の港周辺には民宿や公共浴場等観光客向けの施設が揃っている。
県道沿いには商店や役場、“王”の居住地が並んでいる。県道から少し離れた場所には繁華街があり、そこからさらに南へ行くと平らな土地に畑が広がっている。そこから小中学校を眺めることができる。
島の北側は木々が深い。灯台や神社、遊歩道もあるが住民は他の場所に比べれば少ない。切り立った崖も多いエリアなので島民でも森の深い所まで立ち寄ることはあまりないようだ。
人口は約一〇〇〇人。島民の約四割が“王”から生まれた子どもである。王は単為生殖を可能とするオメガで二〇〇年は生きるという。王の産んだ子どもは“国王候補”を除いて全てが生殖機能を持たない。とはいえ生殖器も性欲もあるようだ。単為生殖で生まれた子どものため見た目は王と同じ。だが当然、育った環境によって体型や性格は違ってくる。
御斗田島の経済を支えるのが観光業であるが、それは王が容姿端麗であることに由来する。瞳は右目がクリムゾンレッド、左目が金色に美しく輝き体型も完璧な比率で驚くほどに整っている。
四割の島民は王のクローンなので多少の体型の違いなどはあるにせよ基本的には皆美しい。そんな人々をひと目見ようと観光客が絶えないのだ。ここ十年は世界的にも気候変動が注目されているが、それでも本土に比べれば気候が穏やかなのも魅力で、長期滞在の客も多い。
さらに特徴的なのは彼らの名前だ。国王候補を除き王の子どもには名前が四種類しか存在しない。生まれた季節によって「スアン」「ヘー」「トゥ」「ドゥン」のいずれかの名前が与えられる仕組みだ。ちなみに国王候補には王から直々に名を与えられる。
国王候補は十年に一度のペースで生まれる。生殖機能を有したオメガで発情期もある。現在生存が確認されている国王候補は年齢の順に「カゲキ」「アヴノ」「チギ」の三名である。
以上が御斗田島とその住民の概要である。
さて、次項に移る前に、取材にあたって王から提示された条件をここに書き記しておく。
ひとつは、撮影をしないこと。これは観光客にも厳しく制限されていて、場合によっては条例違反になることもある。音声の録音は許可された。
もうひとつは、島民とセックスをしないこと。じつは、御斗田島民の性交は禁止されていない。生殖機能を有する国王候補も同じだ。だが不必要な交雑を避けるために避妊は絶対だし、発情期のある国王候補には役場から抑制剤が支給されている。今回筆者がセックスを禁止されたのは、恐らくアルファが国王を選ぶ際に何らかの妨げになるかもしれないという懸念だろう。
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