第3話 アルガルベサーキットにて 修正版

 第1話から第25話までは修正版です。実はPCの操作ミスで編集作業ができなくなり、パート2として再開しています。表現や文言を一部修正しています。もう一度読み直してみてください。


 3月末、MotoGPポルトガルラウンドの前座レースでヨーロッパタレントカップレースが行われる。土曜日の夕方にわずか8周のスプリントレースである。

 このレースは10代のレーサーが競う入門レースである。スペインのマルケルアカデミー、イタリアのルッシアカデミー、そしてオーストリアのハインツアカデミーの3つのレーサー養成機関に所属しているメンバーが参加できる。マルケルは現役のレジェンド。スペインの英雄だ。ルッシはかつての超有名なライダー。最近は4輪のレースに参加している。サーキットはイメージカラーのイエローで埋め尽くされる。そしてハインツはドイツ・オーストリアの英雄。一度失った父親のGrokkenブランドを買い戻して、実業家としても活躍している。

 30台のスプリントレースはある意味圧巻だ。タイムはMoto3の5秒落ち程度。マシンの整備は自分でしなければならない。ライディングテクニックだけでなく、マシンに精通していないと勝てないのだ。ここで表彰台にあがると、ヨーロッパ選手権にワイルドカードで出ることができる。E-GP3である。

 アルガルベサーキットは全長4300mほど。メインストレートは1000m近くある。長さは他のサーキットとさほど変わりはないが、ローラーサーキットと言われるほど、アップダウンが激しい。ジェットコースター並みの下りがあれば、ベルギースパのオー・ルージュ並みの先の見えない上りがある。それも登りきってすぐカーブが待っているという度胸だめしのサーキットなのである。

 私にとってはヨーロッパでの初のレース。それも専属メカのいないレースは初体験である。マシンをささえてくれたり、タイヤ交換をしてくれたりするメカはいるが、チームで5人しかいない。基本は自分でマシンの調整をしなければならない。マシンはタレントカップ共通だ。H社の250ccマシンを流用している。カウルだけはチームで工夫していいことになっている。日本で乗っていたマシンと同じエンジン・シャーシーだったので、私は扱いやすかった。でも、予選のタイムは伸びなかった。何といってもアップダウンの激しいコースに苦しんだ。日本のSUGOの最終10%勾配並みの上りが3ケ所もある。それも上ってすぐにコーナーが待っている。アクセルを一度もどさないと危なくて仕方がない。その戻しかげんが微妙だ。結局予選は30台中、20位だった。

 ピットというか、パドックにあるチームのテントにもどって汗をふく。ふつうならば、ここでチーム監督から一言あるものだが、だれも声をかけてくれない。メンバー同士の情報交換のみだ。ジュン川口はサーキットのどこかにいるらしい。どうやらVIP席で見ているという話だ。でも、アカデミーに対してはあまり口をださないということだったので、もしかしたら全く顔を見せないのかもしれない。それとも入賞したら声をかけてくれるのだろうか? 賞賛よりも厳しい叱咤の方が嬉しいと思うのだが・・・今は崖から突き落とされたライオンの子みたいな感じだった。

 夕方の決勝が始まった。ヨーロッパでの初レースで、今までにない緊張を感じる。マシンをピットレーンに持っていくだけで、心臓のドクドクという音が聞こえる。

 サイティングラップが始まり、他のマシンの動きを見ながら20番目のポジションにつく。レーサー紹介もない。全てのマシンがポジションにつくとウォームアップラン開始。遅いスタートをすると、後ろから追突される可能性がある。かといって前をしっかり見ていないと、エンジンストールしたマシンにぶつかりかねない。そこは気をつけていく。まるでレーススタートみたいな音がして、コースを1周する。後半はタイヤを温めることに専念する。スタート位置は後方なので、タイヤが温かいうちにスタートできる。ポールポジションだと、待つ時間がありタイヤが冷めてしまうことがある。

 レッドシグナルが点灯。全車のマシンのエンジン音が高まる。心臓の音が響く。レッドシグナル消灯。レーススタート!

 思いっきりアクセルを開ける。クラッチミートもうまくいった。だが、前のマシンが遅い。脇にでる。そこにまたマシンがいる。スタートダッシュとはいかなかった。第1コーナーの混乱に巻き込まれないように気をつけて走る。第3コーナーまでは下りのコーナーが続く。タイヤは充分温まっていないので、他のマシンのスピードに合わせて走る。4コーナーは上りだ。先に何があるかわからないので無理はできない。そこから上ったり下ったりが続く。息が抜けないサーキットだ。ストレートで抜こうにもエンジンが同じでは差はつかない。要はコーナリングスピードで決まる。何周か走るとコースアウトするマシンが続出する。アルガルベを初めて走るのは私だけでない。同じチームの中谷麻実も初体験だ。それでも予選10位だった。おそらくトップ集団を走っているはず。ピットのサインボードは出ていない。取り決めで残り周回数だけ出すことになっている。要は自力で走れ。というアカデミーの精神である。

 結果は15位に終わった。リタイアが5台いた。一応ポイント1を稼いだ。可もなく不可もないというところだ。中谷麻実は3位に入賞し、次回のE-GP3に参加するとのこと。同じ日本人として嬉しく思うが、反面くやしさもあった。これが高校中退をしてまでレースの世界に入るという覚悟の違いかと思った。

 なにはともあれ、次に向かってステップアップだ。

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