第14話 アラゴンにて 修正版
第1話から第25話までは修正版です。実はPCの操作ミスで編集作業ができなくなり、パート2として再開しています。表現や文言を一部修正しています。もう一度読み直してみてください。
8月末、スペインの東部アラゴン州にあるモーターランドアラゴンにやってきた。荒涼たる大地の上にサーキットだけがポツンとある。まるで砂漠地帯の中にある新しい町という感じだ。
先週、フランスのポール・リカールで開催されたE-GP3でエイミーは3位入賞を果たしていた。ジム・フランクは2位に入ったという。2人とも絶好調だ。
木曜日にサーキット入り。今回は宿泊施設が少ないので、アカデミーメンバーはテント泊だ。エイミーは3週連続のレースになってしまうので、今回はパス。3位入賞のご褒美だそうだ。よって、女性メンバーは私のみ。テントは一人利用となった。エアーマットはしいてあるが、寝心地が悪いのは否めない。でも、我慢するしかないのだ。
金曜日はフリー走行。なかなかのテクニカルサーキットだ。第1コーナーで90度で左に曲がると、右の高速コーナーが続く。その後は左の高速コーナーが待っている。上り下りもあり、先が見えないところもある。そして、なんといっても特徴的なのは裏ストレートの長さと、その後のリバースともいえる左コーナーである。ここへの突っ込みと立ち上がりがレースの結果を左右するといっても過言ではない。私はこのコーナーでいろいろなラインを想定して走ってみた。インにマシンがいた場合と考えながら走ってみる。単独で走っている時とは明らかに違う。走ったことはないが、鈴鹿のヘアピンに似ているかもしれない。
土曜日の午前の予選。地元のマルケルアカデミーの中で速そうなマシンについて走る。結果、予選3位につけた。久しぶりに快心の走りを見せることができた。
夕方、決勝。第1コーナーを3位で無難に抜けた。後方では接触があったようだ。そこからはトップのマシンについて走る。予選の時に尻についたマルケルチームのライダーだ。まるでジム・フランク並みの走りをしている。
3周目、裏ストレートで2位のマシンに並び、16コーナーの飛び込みで前に出た。フリー走行での走りが功を奏した。そして、トップのマシンの後ろにつく。
残り2周、またもや裏ストレートでスリップストリームにつく。前のマシンが後ろにつかれるのをいやがってラインを変えたところでインに並ぶ。そしてコーナーでインをさす。向こうは理想のラインが取れずにふくらんでしまった。これでトップにでる。この時は(いける!)と思った。が、いやな風を感じた。メインストレートでマシンが振られるぐらいの風だ。
ファイナルラップ。(いける、いけるぞ)と思いながらトップを守る。コーナーごとにラインを守り、インを死守する、立ち上がりで抜かれないように、アクセルワークに神経をとがらせる。だが、裏ストレート後のリバースの左コーナーに悪魔が待っていた。マシンを倒し過ぎたのか、スリップダウンをしてしまった。マシンも自分自身もゆるやかに右に滑っていく。コーナーのオフィシャルはイエローフラッグを振っている。後続は追い抜き禁止になるので、スピードを落としてコーナーを抜けていく。私はマシンにかけより、すぐさままたがる。マシンに異常はない。オフィシャルが駆け寄ってくるが、彼らにつかまったら、セーフティゾーンに連れていかれる。砂利をまき散らしながら再スタートをした。コースにもどりレースに復帰。チェッカーを受けた。結果は10位だった。
失意のままピットにもどる。今日はテントで泊まることはなく、バスで帰る。途中のフランスでホテルに入り、明日にはザルツブルグに着く。私はずっと無口だった。なぜ、あそこでスリップダウンをしたのか、いつもと同じ姿勢で入ったはずなのに、何が悪かったのかわからなかったのだ。
火曜日は休日。でも、校長室に呼ばれた。入校以来の呼び出しである。
「アラゴンではつらかったな」
とジュン川口は珍しく日本語で語りかけてきた。
「すみません」
と、か細い声で答えるしかない。
「どうしてこけたのかわかったのか?」
「それが、納得できなくて・・自分の走りをしていたと思うし、マシンも調子よかったのですが・・」
「やはりな。あのレースの後、16コーナーに行ってみたんだ」
「えっ! ジュンさん自らですか?」
「日曜日のレースに影響するかなと思ってな。それで細かいサンドがコースに散らばっているのを見つけた。きっと風でとんできたんだな」
「そういえば、ホームストレートで強い風を感じました」
「それだな。中東とか、ああいう乾燥したサーキットではよくあることだ。これも経験だよ」
「そう言っていただくと少し気が楽になります。それに転倒の理由がわかり、次のレースに迷いなくむかえます。今日はありがとうございます」
と言って、校長室を後にしようとしたら呼び止められた。
「あっ、それからあれはいかんよ」
と、ダメ出しがでたのでドキッとして振り返ると
「スリップダウンして、すぐに起こして再スタートしたろ」
「あれがダメなんですか? マシンは何でもなかったですけど」
「それは自分の目で見ただけだろ。オフィシャルの目で見るとオイルもれが見つかることもある。現にカウルの中に入っていたサンドをコースにまき散らしていたじゃないか。オフィシャルはそのチェックもしてくれるんだぞ。ペナルティじゃないけど、一種のマナー違反だな」
と言われ、そのとおりだと思った。
「わかりました。以後気をつけます」
と言ってその場を去った。初めてジュン川口にアドバイスを受け、少し嬉しかった。
次は、2週間後のイタリア・ミサノである。ルッシアカデミーの本拠地でMotoGPとの併催はこれで最期となる。その後、E-GP3との併催が2戦残っている。残り3戦、結果が求められるレースが続くことになる。
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