第34話 Moto3 エミリア・ロマーニャ ミサノ

※この小説は「レーサー」「レーサー2 女性ライダーMoto3挑戦」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、また新しいページで再開した次第です。前段を読んでいない方は「カクヨム 飛鳥竜二」で検索していただき、読んでいただければと思います。


 2週間ぶりにまたミサノサーキットにやってきた。本来は別の国で開催予定だったのだが、現地の諸事情で開催できず、またまたミサノでの開催になったのだ。レース好きのイタリア国民は大喜びである。今年イタリアでは3回目の開催となる。エミリア・ロマーニャとはミサノサーキットがある州の名前である。

 前回のレースで、バクチをうってウエットパッチがあるのに、スリックタイヤで走り3位に入れた。おかげでコーナーのスピードは体が覚えている。天候もよくコンディションは良好だ。

 フリープラクティスで私は1分40秒台をだすことができ、余裕でQ2進出を果たしていた。山下と鈴本も好調で、私同様1分40秒台でQ2に入った。日本人勢だけでは古山だけがQ1からの出走となった。でも、走りは悪くない。Q1の4位以内には入れそうだ。

 土曜日の予選。Q1では古山がいい走りをして3位でQ2進出を果たした。そして、すぐに始まったQ2において驚異的なことが起きた。その古山がポールポジションをとったのである。フリープラクティスで19位のタイムだったライダーがポールをとるというのは聞いたことがなかった。せいぜいトップ10にはいるのが関の山なのである。彼は走れば走るほど速くなるタイプなのかもしれない。

 私は、Q2から出走して前半5分でタイヤをあたためて、残り7分でアタックを始めた。他のライダーは残り3分にかけているとみえて、だれも出てこない。なんとサーキット上には私しか走っていなかった。そこで、自己ベストの1分40秒460を出し、上位に入れると思ったので、アタックを終了した。

 残り3分、他のマシンが続々出てきた。古山がとばす。その後にランキングトップのアレンソが続く。きっと限界で走っていたのだろう。アレンソがアタック2周目の8コーナーでスリップダウンしてしまった。その前の周でトップの1分40秒453を出していたのだが、古山に抜かれそうだったので、焦ったのかもしれない。アレンソの後方にいたライダーのタイムは抹消となってしまった。古山だけがタイム有効でポール獲得となったのである。実力だけでなく運も味方したと言える。

 予選結果はポールが古山、2位がアレンソ、3位に私が入った。初のフロントロウ獲得である。ジム・フランクが4位、エイミーは5位、鈴本は15位、山下は17位とQ2のタイムは伸びなかった。

 その日の夜、マネージャーの澄江さんといっしょに夕食を食べていると、ポールの古山が近寄ってきた。

「桃佳さん、調子いいですね。初のフロントロウですよね」

 と話しかけてきたので、

「古山さんこそ、初のポールおめでとうございます」

 と返すと

「少し緊張しています。今日眠れるか心配です」

「ホットミルクを飲むと眠れるといいますよ」

「大人だったらお酒を飲むところですけどね」

「お互いにまだ未成年だから、自重しないとね」

 という他愛のない会話でリラックスすることができた。古山にしても一人でいるより、だれかと日本語で話せることが精神的には楽なのかもしれない。

 古山が去り、澄江さんが口を開いた。

「彼は、朱里さんをライバルとは思っていないようですね」

「ライバルでなくて、なんと思っているの?」

「うーん、仲間でしょうね」

「それは数少ない日本人ライダーだから無理もないと思うわよ」

 と言うと、

「うーん、それ以上の感情じゃないですか?」

「それ以上って?」

「うーん、友情以上愛情未満というところかな?」

「なに、それ?」

 私は澄江さんが何を言いたいのかよくわからなかった。澄江さんは気持ちの悪い笑みを浮かべている。


 日曜日、決勝。天気は快晴。最高のレース日和だ。

 決勝スタート。私は無難に第1コーナーに入り3位のポジションを守った。ホールショットは古山がとった。アレンソはジム・フランクとせって接触気味で第1コーナーに入りポジションを落とした。古山の後についたのは、エイミーである。

 その後は、6台でのトップ集団となった。私は3位と4位をいったりきたりしていた。古山はペースが速い。だが、コース外走行が多い。あれではタイヤを痛めるし、下手をするとペナルティをとられる。案の定、周回ごとにペースが落ちてトップ集団の後方に下がっていった。昨日、うまく眠れなかったのかもしれない。

 11周目、トップ集団は5台。アレンソ、ジム・フランク、エイミー、私、オルガダとなっている。アレンソとジム・フランクはトップを入れ替えながら走っている。

 17周目、エイミーが第2コーナーでミスをした。シケインの切り返しがうまくいかなくてオーバーランをしてしまった。それで私が3位にあがる。トップの2台とは5m離れている。

 18周目、第8コーナーで2台に追いついた。スリップについて走る。後は抜けるところを探す。

 19周目、残り2周。トップ2台のペースがあがる。バックストレッチ後の第8コーナーで2台がブレーキング競争をしかける。二人ともブレーキが遅れ、オーバーランしてしまった。なんと、ここで私がトップにでた。Moto3で初めてトップにでた。なんか体中に電気が走った。ブレーキをかけても体が浮いている感じがする。平常心にもどさねばと思ったが、右のV字コーナーである第14コーナーでリアが滑った。マシンが滑っていく。その後を私が追いかける。

(終わってしまった。これがトップを守ることの厳しさなのか)

 と思ったが、グラベルで止まったマシンはカウルが壊れ、マフラーが損傷していた。オフィシャルに安全地帯まで連れていかれたが、再スタートは無理だった。

 サービスロードを迎えのバイクにまたがり、ピットにもどった。せっかくトップに出たのに、転倒リタイアした私にスタッフはあたたかい言葉をかけてくれたが、私はうなだれるしかなかった。ピットの隅でヘルメットをつけたまま涙を流してしまっていた。

 レースはアレンソが優勝。ウィニングランでは、マシンを降り、一輪車に乗るというパフォーマンスも見せていた。2位はジム・フランク。3位にエイミーが入っている。古山はコース外走行のペナルティもあり、10位で終わった。彼もトップを守ることの厳しさを感じ取ったのかもしれない。

 1週間後にはインドネシアGP、そしてその1週間後には日本GPだ。このまま落ち込んではいられないと思うが、今日一日は静かにしておいてほしかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

レーサー2パート2 女性ライダーMoto3に挑戦 飛鳥竜二 @jaihara

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ