第33話 Moto3 サンマリノ ミサノ
※この小説は「レーサー」「レーサー2 女性ライダーMoto3挑戦」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、また新しいページで再開した次第です。前段を読んでいない方は「カクヨム 飛鳥竜二」で検索していただき、読んでいただければと思います。
アラゴンから1週間後、イタリア北部のミサノサーキットにやってきた。私にとっては初めてのサーキットだ。サンマリノは小国なので、サーキットはない。近くのミサノサーキットを使って、サンマリノGPとうたっている。かつて1国1GPの原則があり、レース好きのイタリア人が2度見たいということで、サンマリノの国名を借用したというのが発端らしい。サンマリノにしても国名をアピールできるいいチャンスと言える。
予選はQ1からとなった。最近はQ2からの出走が多かったが、やはり未経験のサーキットは攻めどころがつかめない。慣れたと思ったころにフリープラクティスが終わってしまっていた。
サーキットの長さはおよそ4200m。GPの中では短い方のサーキットだ。スタートしてすぐに右・左とシケイン状のコーナーが続く。第3コーナーはゆるい右の90度コーナー、そして最初の勝負どころである右の第4コーナー。ここで転倒するケースが結構多い。すぐに右の第5コーナーと左の第6コーナーがやってくる。マシンの切り替えが難しい。そしてバックストレート。といってもやや左に曲がっている。次にV字の左第8コーナー。ここも勝負どころだ。そこからは右のヘアピン。9コーナーと10コーナーと右コーナーが続き、ここからは大きなR(半径)の右コーナーが続く。11・12・13コーナーの先にきつい右の14コーナーがある。右コーナーが多いので、タイヤには厳しいサーキットだ。15と16は左コーナー、その後がメインストレートだ。最終コーナーから100mほどでフィニッシュラインがある。最後の接戦で決まる可能性もある。ほぼ全体がフラットという珍しいサーキットだ。
私は単独で走って1分41秒942をだし、なんとかQ2に進出できた。古山は私より0.1秒速いタイムでQ2に進んだ。
Q2は古山について走ったが、ついていくのがやっとだった。結果、1分41秒337で予選14位。古山は1分41秒204で予選9位。山下が1分41秒307で私の前に入った。ポールはアレンソで1分40秒505でダントツのトップ。もはや王者の貫禄だ。年間ランキングでも一人だけとびぬけている。2位のジム・フランクとは100点近い差がある。シルバーストーンでアレンソに勝ったことがあるのが不思議なくらいだ。
決勝は微妙な天気になった。ハーフウェットというか、雨が降ったりやんだりをくりかえしている。傘をさすほどではないが、手をかざすと雨を感じる。路面は完全に濡れている。レーダーを見るとやみそうな雰囲気だが、確実ではない。監督のジュン川口が寄ってきて
「エイミーはウェットで走ると言っている。桃佳はどうする?」
そこで私は一呼吸おいてから
「初めてのサーキットだし、他のマシンと同じ条件では上位にいけません。予選の結果もよくなかったし、今回はチャレンジしたいです」
「スリックでいくということか?」
「はい。前半はついていけないと思いますが、ラインが乾いてくれば後半はペースを上げられると思います」
「それでもラインが狭ければ抜くのは困難だぞ」
「ストレートで抜きます」
「そうか、やってみるか。次戦もミサノだし、経験を積むにはいい選択かもしれんな。負けたら負けたで、それも経験だ。ただし、こけたらお尻ぺんぺんだぞ」
「それ、セクハラ・パワハラですから」
「本気でするわけがないだろ」
という会話の結果、私はスリックで走ることになった。
決勝グリッドに立って、驚いたのはライバルの古山もスリックタイヤをはいていたことである。彼も雨はやむと予想したのだろう。予選9位と彼にとっては不本意なポジションだったからかもしれない。
レースは予選2位のジム・フランクのリードで始まった。スタート直後はレインカーテンがたち、前が見えない。ぼんやりとテールライトが見えるだけだ。第1コーナーはぶつからないことだけを考えてターンした。順位をいくつか落とした。そこからは前のマシンについていくことだけを考えて走った。前にいるのは山下だ。おそらく15・6番手あたりだと思う。
2周目、隊列は1列になった。後ろを走っている分には雨の影響をあまり感じなくなった。シールドにつくのは前のマシンの跳ね上げた水滴だと思う。
3周目、サインボードを見ると「P16・KEEP」とでている。やはり順位は16位だ。まずはこのペースの維持だ。
4周目、コースにはラインができた。こうなるとスリックタイヤが優位だ。でも焦るとろくなことはない。ラインを外せば濡れているのには変わりない。
5周目、サインボードを見ると「P16・NO RAIN」とでている。やはり雨はやんだ。あと少し我慢すればいける。
6周目、トップには古山がたったらしい。予選9位から飛び出したのだ。前回もそうだったが、彼は先行逃げきりをねらっているのかもしれない。
10周目、レインタイヤをはいているマシンはかわいた路面ではなく、濡れている路面を走るようになってきた。それでラインがひろがってきている。ここからが勝負だ。
11周目、メインストレートで山下を抜く。今まで先行してくれたことに感謝だ。
12周目、メインストレートで2台を抜く。これで13位。
13周目、メインストレートで1台を抜く。これで12位。その後、第4コーナーで3台がコースアウトしているのを見た。接触転倒かもしれない。これで9位にアップ。
14周目、またもやメインストレートで1台を抜く。これで8位にアップ。サインボードには「GO」とでている。ピットも行け行けだ。
15周目、トップ集団に追いついた。トップはアレンソになった。古山やジム・フランクの後ろでタイヤを温存していたみたいだ。次にジム・フランク、古山、ケルソン、ロエダ、エイミー、オルララと続いている。
16周目、オルララをメインストレートで抜く。次の標的はエイミーだ。コーナーで果敢にブロックしてくる。だが、タイヤの違いはいかんともしがたい。
17周目、エイミーをストレートで抜く。これで6位にアップ。次はロエダだ。前回アラゴンGPで優勝している。のりのりの彼だが、やはりタイヤは限界を迎えている。ストレートの伸びがない。
18周目、ロエダをストレートで抜く。前回の優勝者を抜くのは気持ちいい。次はケルソン。ルーキーだが、ここ一番の速さをもっている。だが、ちょっとプッシュすると私を気にしたのか、第8コーナーでスリップダウンしていった。まだ若い17才である。
19周目、3位の古山にくらいつく。でも、なかなか抜くタイミングがない。ねらいは次のメインストレートだ。
20周目、メインストレートで抜こうとしたら、古山はラインを変える。ぶつかりそうになったので、一瞬アクセルをもどしてしまった。その後は古山の後ろを走る。彼は前半無理をして走っていたので、タイヤは相当ダメージをおっているはずなのに、抜かせるスキを見せない。
最終コーナーを立ち上がって、最後のアタック。古山の横に並ぶ。体をマシンに沈め、ただ前だけを見て走る。横の古山は見えない。第1コーナーを抜けて、観客の歓声と順位を表示するタワーボードを見て、3位にはいったことがわかった。そこに古山がグータッチを求めてきてくれた。いいライバルに恵まれている。
表彰台にあがって、ピットにもどってくるとチームスタッフからさんざん小突かれた。予選14位から表彰台をゲットするとはだれも思っていなかったのだ。監督のジュン川口が寄ってきて、
「おめでとう。よく耐えたな。オレのお尻をペンペンしてもいいぞ」
と言って、お尻を突き出したが、
「いやだー。乙女にそんなことはさせないでください。奥さんにしてもらってください」
と返すと、皆が笑っていた。
Moto2のレースでは大倉が優勝を果たした。今季2勝目である。これでランキングトップに立った。来季MotoGPに昇格を決めているが、チャンピオンであがっていってほしいものである。それとウィニングランで日の丸を掲げていたが、この日の丸はかつての名ライダー加藤治郎が使っていた旗だということだ。多くの日本人が目に涙を浮かべていた。
次戦は2週間後のミサノ。エミリア・ロマーニャGPである。一度、ザルツブルグにもどって休養と調整だ。そして10月には日本GPが待っている。この調子でいきたいものだ。
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