第32話 Moto3 スペイン・アラゴン
※この小説は「レーサー」「レーサー2 女性ライダーMoto3挑戦」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、また新しいページで再開した次第です。
2年ぶりのアラゴンである。2年前のヨーロッパタレントカップでは中盤までトップを走り、後半コースに入った砂に滑り、10位に終わってしまったサーキットである。中低速コーナーが多いコースで私としては好きな部類のサーキットだ。
2年前はテント泊だったが、澄江さんの手配でちゃんとホテルに泊まることができた。スペイン東部の荒涼としたところにあるホテルで、まるでリゾートだ。
金曜日のフリープラクティス。2度目は雨に降られた。よってFP1のタイムで予選が決まった。私は1分58秒台を出していたので、Q2に進出できた。エイミーとジムフランクも同じであるが、日本人トリオは思うようにタイムがでずにQ1にまわっている。
土曜日の予選。Q1スタート。なかなかピットからでようとしない。皆、スリップについて走りたいと思っているのだ。このサーキットはストレートが1000m近くあるので、スリップについた方がタイムをだしやすい。
残り8分くらいでマシンが出始めた。すると山下のマシンから白煙がでた。彼はすぐに気がついて、コースサイドにマシンを止めたが、予選ノータイムになってしまった。後で聞くと、昨日からエンジントラブルがあったということだ。
Q1は大荒れだった。転倒者が5人もでた。午前中の雨の影響が残っているのかもしれない。雨で舗装の間にあった砂が浮いてきたのかもしれない。2年ぶりの開催なので、路面を再舗装したというが、なにかグリップしないという訴えをするライダーが多かった。
Q1の結果は2分台で推移し、日本人では古山が2位でQ2進出を果たしていた。
そしてQ2。やはり様子見のライダーが多い。私は混雑する前にピットアウトした。ポールはねらわない。へたにアタックして、こけたら何の意味もない。FPのタイムを出せればオンの字だ。
スタートしてすぐに左の第1コーナー。右の第2・第3と続き、そこから上る。上りきった第4コーナーで左ターン。すぐにまたもや左コーナー。ここからは下りが続く。右の6・7・8コーナーが続き、今度は9・10・11・12と高速の左コーナーが続く。12コーナーのブレーキングが勝負どころだ。13・14と下りの右コーナー。シケインの左の15コーナーを抜けると1000m近い下りのストレート。見晴らしがいいところで、レースでなければ気持ちいいが、そんな余裕はない。やや上りの左の16・17コーナーを抜けてメインストレートへ。右コーナーが10、左コーナーが7のサーキットだ。
私は無難な走りを決めて1分58秒222を出した。FPより0.1秒速いのでこれで終わりにした。ポールはアレンソ。前回の優勝でのっている。ランキングもトップになっている。2位はジム・フランク、3位はロエダ。地元スペイン人が強い。4位にはエイミーが入っている。今回もジム・フランクのスリップを使いタイムを出していた。5位に私が入った。本当は中央よりも左右どちらかのグリッドにつきたかった。日本人トリオは古山が13位、鈴本が18位、山下はノータイムなので最後尾の24位である。
予選を終えてホテルに戻ると、澄江さんがビッグニュースをもってきた。
「岩上さんが、今年で引退だって」
日本人ライダーの中心的存在であるMotoGPライダーの岩上がとうとう引退する。代わりというわけではないが、Moto2の大倉がMotoGPに昇格する。世代交代の時期なのかもしれない。岩上は長くH社マシンライダーのサブ的存在だった。エースマルケルがH社からD社に移籍してからはH社をささえる存在だったが、精彩を欠いたのも事実だ。来シーズンからはテストライダーになるという。鈴鹿8耐にも出るかもしれない。そういう意味では新天地で活躍してほしいものだと思う。
決勝日。またもや雨あがりとなった。気温23度、路面温度25度と比較的低い温度のコンディションだ。コースのところどころにウェットパッチ(水たまり)がある。ラインを外したら、即転倒になりかねない。
監督のジュン川口も
「今日はラインを外すな。第2集団でもいいから、トップについていけ。桃佳の走りはこのコースに合っている。必ず後半にチャンスがやってくる」
と檄をとばしてくれた。彼はプレッシャーを与える名人である。
17周のレースが始まった。
スタートは無難にでた。左右にいるので、無理をせず前のジム・フランクについていく。第1コーナーも集団にのまれながらも無事に抜けた。ポールのアレンソがペースよく抜けでる。ジム・フランクは少し離れてついている。様子見の走りだ。その後ろにエイミーがいる。そしてスペイン人のロエダが続き、私はその後ろにいる。
3周目、後方から猛烈なスピードでせまってくるマシンがいた。赤白のマシンだ。古山だ。予選13位から驚異の走りであがってきた。コーナーごとに1台ずつ抜くような走りで、とうとうジム・フランクの前にでた。様子見の走りをしていたジム・フランクも目が覚めたのか本気で走り始めた。が、左高速コーナーを終えた12コーナーでオーバーラン。順位を落としてしまった。
5周目、相変わらずアレンソが単独首位。2位集団を古山が引っ張る。エイミー・ロエダ・私がついていく。
10周目、古山のペースが落ちている。左高速コーナーでタイヤが悲鳴をあげているようだ。今まで無理をして走ってきたツケがきたのかもしれない。
12周目、2位がロエダに代わった。エイミーと私が続く。抜かれた古山はペースを落とした。ロエダとトップのアレンソとのタイム差が縮んできた。
14周目、ロエダがアレンソに追いついた。トップ集団はエイミーと私も含めて4台となる。
15周目、ロエダが一気にアレンソを抜く。アレンソは抜き返せない。タイヤが厳しいようだ。
16周目、エイミーがアレンソを1コーナーのブレーキングで抜く。次は私の番だ。10コーナーでアレンソのスリップにつく。彼のタイヤからタイヤカスがとんでくる。相当ダメージをおっている。よくぞこの状態で走っているものだ。そして勝負の第12コーナー。アレンソがアウトにふくらんだので、インに入って抜く。
17周目ファイナルラップ。エイミーはロエダにせまる。どっちが勝っても初優勝だ。私はマシン3台分離れてついていく。前の2台がミスをしたら抜くつもりだった。だが、二人はラインを変えずに走り続ける。そのままフィニッシュラインを越えた。ロエダはウィニングランでマシンを止めて、観客にアピールしている。地元での優勝は格別なのだろう。
表彰式でもロエダの一人舞台だった。スペイン国歌がながれたときには彼は涙を浮かべているようだった。エイミーは前回転倒して私に負けているので、今回は私に勝って誇らしげな顔をしている。でも、話しかけてはこない。今は同じチームだが、来年ライバルチームに移籍するので、親し気に接する気はないようだ。最近は澄江さんのマネジメントも断って、個人マネージャーを雇っているということだ。チーム内でも私担当のメカとエイミー担当のメカはほとんど会話をしないという。監督のジュン川口も頭を痛めているようだ。
次戦は1週間後のサンマリノ。ザルツブルグには帰らずにイタリアに向かう。ミサノのコースは初めてだ。それもその後のレースがキャンセルになったせいで2週間後にはまたもやミサノで開催される。同一サーキットで連続2回するのは珍しい。10月の日本GPに向けて調子をあげておきたいと思っている。
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