第38話 Moto3 タイ
※この小説は「レーサー」「レーサー2 女性ライダーMoto3挑戦」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、また新しいページで再開した次第です。前段を読んでいない方は「カクヨム 飛鳥竜二」で検索していただき、読んでいただければと思います。
3週連続の2週目、寒いオーストラリアから常夏のタイにやってきた。時差は少ないが、体調管理は厳しい。金曜日のフリープラクティスの際の路面温度は51度にもなっている。生暖かい風を感じる。
チャーン・インターナショナルサーキットは首都バンコクから300mほど離れたところにある。観光する余裕はないので、直接サーキット入りをした。マネージャーの澄江さんはこの暑さに少しまいっている。体がヨーロッパに合っていると自分で言っている。
フリー走行では古山が絶好調だ。1分40秒台のトップタイムをだしている。私もそれについて走ったので、いいタイムを出せ、Q2にすすむことができた。日本人ライダーでQ1スタートは鈴本だけだ。
土曜日の予選。気温は30度。雨季から乾季に入ろうとしている時期なので過ごしやすいと地元の人たちは言っているが、ヨーロッパの人間からすれば高温多湿であるのは変わりない。熱中症対策でスポーツドリンクを飲むことが多くなる。
路面温度は40度。昨日よりは10度低い。今日は雲がかかっているので、少し陽射しが弱いからだろう。
15分の予選Q2。まずはマシンをあたためるために3周走る。コンディションは昨日同様悪くない。少し休んで残り3分ででていく。だが、半分以上のマシンがでてこない。後で聞くと、トップタイムをだしている2台がなかなかでようとせず、それについていこうとした他のマシンが出遅れたということだ。その2台の中にはチャンピオンを決めたアレンソもいた。もうポールをねらうつもりはないのだ。残り1分40秒で出てきたが、半数近い10台ほどが最後のタイムアタックができなかった。
私は古山の走りについていった。このコースはほぼ平坦なので走りやすい。第1コーナーは右の90度コーナー。決勝では幾多のドラマを生むコーナーだ。そこからストレート。中間にゆるいシケインがある。3コーナーは右のヘアピン。まるでMOTEGIと同じ感覚だ。そこからまたストレート。次の4コーナーの左90度が勝負どころだ。初の左コーナーなので、ここで転倒するマシンも少なくない。ここからは中速コーナーが続く、左の5・6コーナー、右の7・8・9そしてシケインの左10コーナー、シケイン出口の右11コーナー。最後に勝負どころ90度の右12コーナーが待っている。曲がるとすぐにフィニッシュラインが待っている。
前半の高速第1セクターのスピードののりがいい。後半の連続コーナーはなかなか抜きどころがない。このサーキットは高速重視のマシンが有利だ。
私のタイムは1分40秒980。予選6位のポジションを得た。2列目のイン側。私の好きなポジションだ。ポールはラストアタックをしたケルソン。初のポールで喜んでいる。続いてジム・フランク。3位に最初にトップタイムを出していたピクルス。4位に古山、5位にはラストアタックをしなかったアレンソがいる。チャンピオンを決めた余裕なのだろう。ちなみに山下は12位、鈴本は20位だった。
日曜日、決勝。雨あがりのコンディションとなった。気温24度、路面温度27度と昨日までとは大きく違う。それで周回数を2周減らし、12周で争われることとなった。その分サイティングラップが10分とられ、コース状況を確認できる。まずはゆっくりと1周走り、ピットレーンにもどり2周目のサイティングを行う。レコードラインは乾き始めている。これならばスリックタイヤでいけると思った。
決勝スタート。コースがドライならば1コーナーでインにとびこむところだが、そこはまだ濡れている。第1集団に飲み込まれるようにして1コーナーを抜けた。レコードラインしか乾いていないので、無理はできない。第1集団の後方で様子を見ることにした。トップはケルソンとアレンソが争っている。その後にジム・フランク、古山、ピクルスが続く。
4周目、雨が降ってきた合図のレッドクロス旗が振られる。トップの2台がペースを落とす。そこを古山がすかさず抜いていく。小雨は感じたが、長くは続かなかった。ラインは問題なく乾いている。皆、このままでいくことにしたようだ。
8周目、残り5周でアレンソがトップにでる。チャンピオンを決定したが、年間最多勝をねらっているようだ。かのレジェンドであるルッシが作った記録を塗り替える気だ。そこにケルソンとジム・フランクがからむ。
10周目、9コーナーでピクルスがスリップダウンしていった。まだ若い。
12周目ファイナルラップ、トップ争いは4台にしぼられた。私は少し離れて単独走になってしまった。古山がアタックした。最終コーナーで古山がアウトにふくらむ。そこに後方から追い上げたジム・フランクがからむ。古山の前輪がジム・フランクのリアに接触。あと10mというところで古山はスリップダウンしてしまった。
結果、アレンソが僅差でトップ。2位はケルソン、3位にジム・フランクとなった。接触に関してはジム・フランクがレコードラインということでペナルティにはならなかった。私は4位に食い込んだ。思うようなレースはできなかったが、前回のオーストラリアでのポイント圏外を思えば上出来だった。チームスタッフからも
「Good job 」
とねぎらいの言葉をもらうことができた。エイミーは体調不良で下位に沈み、早々にピットを後にしていた。居場所がないという感じでかわいそうにも思った。
Moto2のレースで、中倉が2位に入り年間チャンピオンを決めた。ふだんクールの中倉が涙を流してウィニングランをしている。パフォーマンスも楽しいものだった。そしてピットロードに来た時、出迎えた中に岩上がいて、彼とハイタッチしていた。来シーズンMotoGPに昇格する大倉への岩上からのバトンタッチのように思われて、私の目がうるんだ。それに、もしかしたら私もこの世界に入るかと思ったら身震いしてしまった。
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