第39話 Moto3 マレーシア
※この小説は「レーサー」「レーサー2 女性ライダーMoto3挑戦」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、また新しいページで再開した次第です。前段を読んでいない方は「カクヨム 飛鳥竜二」で検索していただき、読んでいただければと思います。
3週連続の3週目。先週開催のタイの隣国であるマレーシアにやってきている。暑さはタイよりもつらい。まさに赤道直下の国だ。ライダースーツを着ているのが苦痛だ。男性ライダーの中には上半身ライダースーツをに脱いでいる人もいるが、女性がそれをすると汗でぬれたアンダーウェアがボディラインを強調してしまうので、私は無理をしてライダースーツを着ている。ハンディファン(手持ちの扇風機)をかけても、生温かい風がくるだけで、あまり効果はない。結局は首にまくアイスベルトが一番いいが、それも30分もたつとホットベルトになってしまう。これが世界を転戦するMotoGPのつらさなのかもしれない。
レース前、主催者から衝撃的なニュースがもたらされた。
「2週間後のバレンシアGPを中止する。先日の水害でサーキットを含むバレンシア地方が大きな被害を受けたからである。代替レースを検討中である」
というものである。TVニュースで水害のことは知っていたが、ここまで深刻だとは思っていなかった。ライダーの中には多くのスペイン人がいる。彼らが沈痛な顔をしているのがかわいそうなくらいだった。
予選はQ2から走れることになった。このサーキットは5500mもある長いコースである。多少のアップダウンはあるが、MOTEGIと比べたらフラットな感じだ。ただ4輪中心のサーキットなので、幅がやたら広い。どこを走ってもいいぐらいのコース幅だが、コーナーにはしっかりとレコードラインができている。
予選は古山について走ることにした。彼も私がうしろにつくことは承知している。会うたびに
「オレのケツを走ってろ」
と偉そうに言われている。同い年なのに先輩風をふかせているのだ。
だが、Q2ではタイムが伸びない。結局16位になってしまった。古山が15位である。鈴本は予選4位に食い込んだ。いっしょに走るライダーをミスったともいえるが、レースはやってみないとわからない。
決勝、34度の気温と50度を超す路面温度。体を冷やすことをしないとやってられない。エイミーは脱水症状をおこして棄権してしまった。アメリカ人はあきらめが早い。
6列目のアウト側からスタート。クラッチミートはバッチリ決まった。まっすぐ1コーナーに向かう。前のマシンはコース中央に寄っている。他のライダーをけん制しあっているのだ。私の前にマシンはない。クリアな状態で1コーナーに飛び込むことができた。3コーナーを抜けてストレートに入ると、トップ集団にいることができていた。そこには古山と鈴本もいる。
2周目、メインストレートではトップ集団が横に広がる。正面から見ると6台でトップ争いをしているように見えるだろう。私は古山の後ろにつく。レースは始まったばかり。まずは様子見だ。
3周目、トップ集団は7台にしぼられた。若手のケルソンがレースを引っ張る。王者アレンソはオルガダの転倒に巻き込まれそうになり、私の後ろを走っている。
4周目、古山がケルソンのうしろにつく。抜くタイミングをはかっているようだ。
7周目、古山が1コーナーでケルソンを抜く。アレンソも3位まであがってきて、2人の争いを見ている。虎視眈々とねらっている感じだ。私は山下の後ろの5位のポジションにいる。
8周目、ケルソンが1コーナーで古山を抜き返した。彼も初優勝をねらっている。だが、4コーナーでオーバーラン。転倒は免れたが、大きくポジションを落とした。
10周目、アレンソが古山を最終コーナーで抜く。ここからはアレンソの独走かと思われたが、大きく引き離すことはできない。
11周目、アレンソ・古山・山下・私・ジムフランク・ケルソンの順で一列縦隊を構成する。残り4周だ。
12周目、ジムフランクが最終コーナーでしかけてきた。私のインをとろうとして、カットインのラインをとってきた。ホワイトラインぎりぎりだ。すると、そこでスリップダウンをしていった。どうやらラインで滑ったようだ。巻き込まれずにすんでラッキー。
13周目、私が山下にしかける。コーナーのたびに抜くポーズを見せた。山下のスキを見つけた。勝負どころは一番スピードが落ちる9コーナーだ。インをおさえるあまり山下のスピードが遅すぎる。これならば立ち上がりで抜けると思った。
14周目ファイナル。8コーナーを過ぎたところで山下の左後方につく。山下はインにつかれることを嫌って、左に寄ってきた。そこですかさずアウトにでる。そこでブレーキングポイントだ。山下はインインアウトのラインをとらざるをえない。私はアウトインインのラインだ。ここで前にでなければ、次の10コーナーでインをとられる。アクセルを躊躇なくあける。山下は動揺したのか立ち上がりで失速してしまったようだ。もしかしたらギアチェンジをミスったのかもしれない。
最終コーナーで古山がアレンソにしかける。ならんでコーナーにはいっているが、インにいるアレンソ有利だ。立ち上がり勝負。古山は伸びなかった。それでも前回ゴール前で転倒したことを思えば、上出来だ。私は少し離れて3位でフィニッシュした。MOTEGI以来の表彰台ゲットを果たした。
表彰台でのシャンパンファイトはなかった。バレンシアの水害の被害者のことを思い、浮かれることはしないようにと皆で申し合わせていたからだ。用意されていたシャンパンは後でチームに配られていた。
レース終了後、うれしい知らせが入った。バレンシアの代替地として同じスペインのバルセロナ地方カタルニアが決まったということである。さすがレース大国スペイン。対応が早い。これでアジア・オセアニアラウンド終了。MOTEGIで優勝できて私としては満足すべき結果だった。その後のスペンサーJr.の会見にはまいったが・。
これで本拠地のザルツブルグにもどる。そこで私は来シーズンの決断をしなければならないのだ。3位に入ったものの浮かれる気分にはなれなかった。
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