第40話 テスト
※この小説は「レーサー」「レーサー2 女性ライダーMoto3挑戦」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、また新しいページで再開した次第です。前段を読んでいない方は「カクヨム 飛鳥竜二」で検索していただき、読んでいただければと思います。
マレーシアからザルツブルグに戻って、次の最終戦の準備をしている時に、監督のジュン川口から呼び出しがきた。
「どうだ、桃佳、調子はもどったみたいだな」
「はい、何とかペースはつかめるようになりました」
「それで、MotoGPへの昇格の件、どう考えている?」
「やはりそのことでしたか? まだ、はっきり決まっていません」
「締め切りまで、後1週間だぞ。何を悩んでいる?」
「悩んでいるというか、自信がもてないんです。私にMotoGPのマシンが乗りこなせるのかどうか・・・」
「だろうな。それで提案だが、明日テストをしてみないか?」
「テスト?」
「実際にマシンに乗ってみるんだよ。明日、サーキットをCLOSEにしてある。どうだ、乗るか?」
「テストならやってみます」
「そうこなくちゃな」
ということで、翌日MotoGPマシンに乗ることになった。
テスト当日、晴天の中ピットには2台のマシンがおいてあった。Moto2マシンとMotoGPマシンである。監督のジュン川口が口を開く。
「これから2台のマシンに乗ってもらう。まずはMoto2のマシンだ。次にMotoGPマシンだ。Moto2マシンはKT社製がないので、他のチームから借りてきたものだ。壊すなよ。GPマシンはうちのサブのマシンだ。レースでは予備のマシンとして用意してある。セッティングはハインツのマシンと同じにしてある。壊してもいいぞ」
「そう言われても、転倒はしたくありません」
「だよな。無理しない程度に攻めてみろ」
ということで、Moto2マシンにまたいでみる。Moto3マシンよりは大きいが、別に大きすぎる感じはしなかった。走り出すと、Moto3より安定している感がする。加速がいい分、むしろ乗りやすくさえ感じる。
3周走って、アタックタイムに入る。コースの攻め方は熟知している。4周目はラインを見定める。そして5周目に本気でアタックだ。自分で納得できた走りができた。ピットにもどってきて、タイムを聞く。
「1分34秒265だ。Moto2の予選タイムの10番手と同じタイムだ。初めて乗って、このタイムをだせるとはすごいな」
「乗りやすかったですから」
「それじゃ、一休みしたらGPマシンだぞ」
ということで、10分の休憩をとって、GPマシンにさわる。
スタンドからマシンがはずされる。ピットクルーがささえてくれているが、私にマシンが預けられた。
「重さを体感してみろ。8の字できるか?」
ということで、リッターバイクを初めて押してみた。なんとか前にすすめることはできた。
「桃佳、腕だけでマシンを動かそうとするな。腰をマシンに寄せて動かすんだぞ」
とジュン川口が叫んでいる。
それで腰をマシンにおしつけておすが、やはり重いのには変わりない。左に曲がるのはなんとかできたが、右に曲げるのが難しい。ゆっくりゆっくりおすしかなかった。やっと8の字を書き終えると、
「今までにこんなに遅い8の字は見たことがないな。でも仕方ないか」
とジュン川口が言うと、他のピットスタッフも笑いながらうなずいていた。
エンジンをかけてスタートさせる。エンジンストールさせないようにアクセルをふかしてギアをつなぐ。まるで教習所と同じだ。だが、走り出すとマシンの重さを感じなくなった。直線安定性はMoto3やMoto2よりはるかにいい。ストレートでアクセルを開けると爆発したような加速を見せる。ゾクゾクする。コーナーでは早めにブレーキをかけ、マシンを倒す。まだGPライダーのようには曲がれないが、タイヤがすいつくようにコーナリングができる。なんか楽しくなってきた。でも、2コーナーのシケインでミスをした。切り返しでゼブラにのりあげてスリップダウンしてしまったのだ。スピードはでていなかったので、マシンの損傷は少なかったが、一人でマシンを起こすことはできなかった。コースに設置してあるモニターカメラで気づいたピットスタッフがオフィシャルカーでやってきてくれて、マシンの点検をしてくれた。カウルに傷はついていたが、走りには特に問題はなかった。それで再始動させて、コース復帰をはたす。
そこから3周走ってマシンに異常がないことを確かめてアタックにはいる。マシンの倒し込みはGPライダーほどではないが、切り返しはうまくいった。2周アタックしてピットにもどり、タイムを聞いてみる。
「初めてにしては悪くない。1分29秒650。このマシンは今年1分29秒165で走っている。その0.5秒落ちなら立派なもんだ」
「予選タイムと比べたら?」
「そうだな。ビリ2ぐらいかな。たしか1分29秒8が予選最下位だったと思う」
「ビリ2か、微妙なところだね」
「ぜいたく言うなよ。桃佳には最初からトップグループタイムを期待していない。周回遅れにならなければオンの字だ」
「そうだと思うけど・・・」
やはり後方集団で走るのはしのびない。MotoGPの件の返事は最終戦の木曜日にすることになった。それまでに結論をださなければならない。
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