第41話 Moto3 最終戦 カタルニア
※この小説は「レーサー」「レーサー2 女性ライダーMoto3挑戦」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、また新しいページで再開した次第です。前段を読んでいない方は「カクヨム 飛鳥竜二」で検索していただき、読んでいただければと思います。
スペイン・バルセロナへ向かうためにミュンヘン空港にいた。直行便があるし、ザルツブルグからはウィーンに行くより便利がいい。マネージャーの澄江さんが甲斐甲斐しく世話をしてくれる。今年1年、彼女の存在は大きかった。チームマネージャーなのに個人マネージャーみたいに寄り添ってくれていた。彼女の来年の契約は未定とのこと。
「もしかしたら今回のレースで最後になるかもしれない」
と言っていた。彼女のいないレース活動は考えられなかった。
機内で澄江さんと話をした。
「澄江さん、来年契約更改できなかったらどうするんですか?」
「うーん、どうしようかな。今さらおっかけカメラマンもできないし・・・日本の雑誌社でアルバイトでもしようかな」
「私がぜひ残ってください。と言ったら残ってくれますか?」
「それはうれしいわ。ただ決めるのはオーナーと監督だけどね。ましてや桃佳さんがMotoGPに上がったら私の出番はないかもしれないね」
「そうなんですか?」
「チームマネージャーの大御所のトムがいるからね」
「私の個人マネージャーだったら・・」
「それをオーナーと監督が認めるかしら・・?」
「前に祖父から言われました。レーサーはチャンスをつかめって。マネージャーの仕事もそうですよね。澄江さんもチャンスをつかんで、今があるじゃないですか」
「たしかにそうなんだけど・・こればっかりは・・」
と澄江さんらしくないぼやけた返事がかえってきた。
そこに、祖父からメールがきた。
「桃佳、最終戦で力を出し切れ! そしてMotoGPに上がれ! そうしたら鈴鹿八耐でいっしょに走ろう」
というメッセージである。
「じいちゃんたら、まだ八耐走る気でいるよ」
と澄江に言うと、
「あの方はレジェンドですから。それに八耐は3人で走ります。あとの2人がカバーできますし・・」
「それもそうね」
と言いながら、返信のメッセージを送った。
「わかりました。ただ、ひとつ気がかりがあります。マネージャーの澄江さんです。契約更改できないかもしれません」
すると、すぐに
「マネージャーの件は、オレに任せろ。なんならオレが個人マネージャーとして雇って桃佳につけてやる」
と返信がきた。さすが日本のレジェンド佐藤眞二である。
これで、私の気持ちは決まった。
水曜日、オーナーと監督にMotoGPへの昇格の件を了承すると伝えた。二人とも安堵の顔を浮かべていた。
木曜日、プレス発表である。スペンサーJr.とともに記者会見を行った。多くのメディアが初の女性GPライダーともてはやしていたが、一部のメディアは(GPの最下位ポジション決定)と辛らつなことも書いていた。女性蔑視の風潮は男性社会のレース界ではまだ残っているのかもしれない。それだけに桃佳の反発のエネルギーが高まり、最終戦にのぞむことになった。
カタルニアのレースは5月に続いての2度目である。それ以前にも走ったことがあるので、コースレイアウトはほぼ体が覚えている。それで5月の予選タイムより速い1分46秒998を出し、予選3番手となった。アレンソがポールをとったが、すでにチャンピオンを決めているので、今回は余裕の顔だ。2番手のオルトラが地元のレースなのでやたら気合いが入っている。
決勝スタート。2番手のオルトラがアレンソに幅寄せをする。私は二人の争いに巻き込まれずにコースのインをまっすぐにすすむ。それでホールショットをとることができた。その後は、私の独走である。アレンソとオルトラが争っている間に私はリードを広げる。10周走ったところで、2位のアレンソに3秒の差をつけていた。ピットからのサインボードには「KEEP+3」とでている。アレンソは無理をしてトップをとる気はないみたいだ。オルトラとの2位争いを楽しんでいるのかもしれない。
後半は少しペースを落としてタイヤを温存した。しかし、2位との差は縮まらなかった。むしろ、いたるところで転倒しているライダーが見られた。皆、最終戦ということで無理をしていたのかもしれない。
今シーズン2勝目を勝ち取った。外国の表彰台で日本の国歌を聞くのは格別だ。涙はでなかったが、自然とガッツポーズがでた。MotoGPへの昇格に辛口を書いていたメディアも、期待できるという記事を書いていた。してやったりである。
ピットでは多くのスタッフに囲まれ、祝福された。中には胴上げをしようという者までいたが、それだけはご免とキャンピングカーに逃げ込んだ。そこにエイミーがいた。
「Congratulations Momoka . We'll be on defferent teams next year , but let's do our best . 」
(おめでとう桃佳。来年は別なチームになるけど、お互いにがんばろうね)
と言ってくれた。私は
「 Thank you Amy . I've come this far because of you . Good luck to the British team . 」
(ありがとうエイミー。あなたがいてくれたから、ここまでやってこれたわ。英国のチームに行ってもがんばってね)
と言い、握手をして別れた。エイミーの送別会がなかったのは残念だった。後で聞くとエイミーからそういう会をしないでほしいと申し出があったそうだ。
着替えてからピットにもどると、澄江さんがやってきて
「桃佳! いいニュースよ。監督が来年もやってくれと言ってくれたの。桃佳専属だって・・最高の結果だわ」
と私に抱きついてきた。二人で抱き合いながらぐるぐる回って喜んでしまった。
一度、ザルツブルグにもどり、12月は日本で過ごす。MotoGPの練習は1月からである。どんな年になるか楽しみである。
あとがき
これにて「レーサー2」は完結です。来年からはMotoGPにあがった桃佳の「レーサー3」を書く予定です。おそらく厳しい1年になると思いますが、将来の活躍を夢見て書いていきたいと思います。
ここまで読んでくださった皆さんに感謝申し上げるとともに、SUGOやMOTEGIのオフィシャル仲間、そしてレースにも参戦している加藤さんや木村さんをはじめ、アドバイスをくれたレーサーの皆さんに心から感謝申しあげます。今後ともよろしくお願いします。 飛鳥竜二
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