第30話 Moto3 シルバーストーン

※この小説は「レーサー」「レーサー2 女性ライダーMoto3挑戦」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、また新しいページで再開した次第です。前段を読んでいない方は「カクヨム 飛鳥竜二」で検索していただき、読んでいただければと思います。


 3週間のサマーブレイクを経て、MotoGPサーカスはイギリスへやってきていた。いよいよ後半戦の開始である。

 シルバーストーンは昨年E-GP3で走り、3位入賞を果たしたところだ。もっともタイヤ選択の勝利だったが、18あるコーナーは体に染みついている。どちらかというと中低速コーナーが多い。混戦が予想された。

 予選はTR社のジム・フランクの調子がいい。さすが実家がサーキットの近くというホームコースだ。サーキットを熟知している。エイミーもジムにくっついて走り、好タイムを出している。

 その結果、ポールポジションはジム・フランクがとった。2分9秒270のタイムだ。2位にはオルララが入った。ジムの0.1秒遅れだ。3位には伏兵のケルソン。ジムとは0.5秒差。でも、ケルソンはまだ表彰台にのったことはない。初のフロントロウで緊張しているのがありありだった。2列目にはエイミー、山下、そして私が入った。ジムとは0.9秒遅れだ。好調だった古山は練習中の転倒で、ケガをして不参加となっている。どうやら手術が必要なようだ。だから今回は山下に引っ張ってもらった予選となった。

 決勝日、気温は19度。路面温度33度。イギリスは何か肌寒い。日本だと秋の始まりの感じだ。でも、私にとっては過ごしやすい。南ヨーロッパの暑さよりはよほど過ごしやすい。ホテルでもエアコンなしでぐっすり眠ることができた。

 レーススタート。集団で第1コーナーに突っ込む。ホールショットはポールのジムだ。地元のレースで負けられないという意識が強いのだろう。朝、目を合わせる機会があったが、いつものにこやかな表情はなく。厳しい顔をしていた。トップ集団はアクシデントなく第1コーナーを抜けた。そこからは左・右・左と細かいコーナーが続く。なかなか抜けない。私は7位に落ちたが、トップ集団にくらいついている。トップ集団には山下や鈴本も入っている。

 5周目、アクシデント発生。裏ストレート後の15コーナーでケルソンが転倒。そこにオルララが巻き込まれてしまった。あまりにも近くにいてよけきれなかったようだ。

 10周目、トップ集団は6台になっている。直線では6台が横に並ぶ。まさに接戦だ。トップは依然ジム・フランク、続いてアレンソ・山下・エイミー・鈴本そして私が続く。残り5周。

 12周目、ジムが少し前に出る。アレンソがついていけない。タイヤがたれているみたいだ。前半で無理をしていた影響かもしれない。山下が2位に上がった。

 13周目、裏ストレートでエイミーがアレンソのスリップにつき、15コーナーでインに入った。彼女のライディングは確実に成長している。

 14周目、鈴本のスリップにつくことができた。私も15コーナーで抜くことができた。前にはアレンソがいる。

 15周目、ファイナルラップ。前を走っているアレンソはタイヤがぶれている。だいぶ酷使したようだ。私のタイヤはまだ余裕がある。裏ストレートでぴったりと後ろにつく。だが15コーナーではインをおさえられた。それでもアレンソにくらいつく。16・17コーナーは左・右というシケインだ。そして最終コーナー、すぐにフィニッシュラインがやってくる。立ち上がり勝負だ。おもいっきりアクセルを開ける。タイヤがうなる。その結果、タイヤひとつ分アレンソに勝つことができた。表彰台は逃したが、優勝候補のアレンソに勝てたことは大きな喜びだった。

 ピットにもどってからも、スタッフたちから祝福された。「Good job !」の連発だった。でもスタッフの半数は表彰台に向かっている。エイミーが3位に入ったからだ。嬉しいことだが、私にとってはまたもやエイミーの後塵を拝したことが、少し悔しかった。

 監督のジュン川口がやってきて

「桃佳、よかったぞ。タイヤを温存して後半にかけたのはいい選択だったと思う。あのアレンソに勝ったのは評価できるぞ。オーナーのハインツも誉めていたよ」

「そうですか、ありがとうございます」

「それと大きなニュースがある」

「何ですか?」

「エイミーがチームを離れる」

「やはり、そんな感じがしてました。最近、私を避けている感じがして・・行き先はTR社ですか?」

「そうだ。ジム・フランクがMoto2に上がることになった。それで、ジムがエイミーの移籍を切望したということだ」

「二人は仲がいいですからね」

「表彰台でもハグしあっていたよ」

「まぁ、ハグはあたり前ですけどね」

「それで、エイミーの後釜だが・・」

「だれが来るんですか?」

「決定ではないが、日本から米谷を呼ぼうと思っている」

「麻美さんが来るんですか。J-GP3で上位にいるとは聞いていました」

「桃佳にとってはいいライバルになると思うぞ」

「手ごわいライバルですよ」

 という会話を交わして、私は気持ちを新たにした。次戦は2週間後のオーストリアGP。ホームコースなので表彰台ねらいの走りをしたいと思っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る