第27話 Moto3 アッセン
※この小説は「レーサー」「レーサー2 女性ライダーMoto3挑戦」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、また新しいページで再開した次第です。前段を読んでいない方は「カクヨム 飛鳥竜二」で検索していただき、読んでいただければと思います。
6月下旬、3週間ぶりのレースである。私(桃佳)は昨年E-GP3で表彰台にあがっているゲンのいいサーキットでやる気まんまんだ。昨年はクルマで1000km以上走ってきたが、今回は澄江さんの手配でスキポール空港まで1時間ほど。ヨーロッパは日本の国内線感覚だ。
サーキット入りするまで時間があったので、レンタカーを借りて澄江さんの運転で世界遺産のキンデルダイクに向かった。ここには19基の風車が並んでいる。まさに圧巻だ。ちょうど風が強い日で、多くの風車が回っているのは画になる。近くにいくとブーンブーンと大きな音がする。慣れればたいしたことはないのだろうが、風車守りの人たちはここに住んでいるという。世界遺産を守るのも大変だ。
金曜日の練習走行で、私は10番手のタイムをだした。このままいけば、Q1で走らずに済む。その日は、ホテルでゆっくり休むことができた。
オランダにくると食べるのがオマールスープである。エビの色そのままのスープなのだが、生臭さはない。スプーンですくって食するのもいいが、パンにつけて食べるのもいい。それと、ムール貝のグラタンもお気に入りのメニューだ。本来は冬の食べ物で、6月にでてくるのは解凍したものだが、グラタンにするとあまり気にならない。これも食べ終わった後に、パンにスープをこすりつけるとまたおいしい。たまらなく笑顔になる。
土曜日の練習走行でも10位に入り、Q2にすすむことができた。Q1に入っても上位4台に入ればQ2にはすすめるが、セッティングの時間が限られているので、上位進出は厳しい。やはり最初からQ2に入っていた方が有利だ。
エイミーも好調で8位でQ2に進出している。ジム・フランクも5位にいる。セクター1は低速コーナーの右コーナーが続く。ここは無理しない。5コーナーは転倒が多いところだ。そしてショートストレート後の左9コーナー。ここが勝負どころだ。残り3分。皆ポジションどりでスロー走行をしている。本来はペナルティ対象だが、だれかが抜け出さないと走りだせない。先頭で引っ張るのは目標にされるのがオチである。先頭で走るのはメリットが少ない。
私はいつもどおりエイミーとのアベック走法だ。お互いに引っ張り合い、タイムをだす。それで、予選6位に入ることができた。エイミーは予選5位。ジム・フランクは予選3位。日本人の古山が調子よくて予選2位。ポールポジションは伏兵のピクルスがとった。
その日の夕方、監督のジュン川口がエイミーと私に明日の作戦を話した。
「Tomrrow it'll all be about the tires . The right corners are particularly sharp , so the right half of the tire tends to sag . Keep it down in the first half and run . The last five laps will be the deciding factor . Don't bother Pikrus with the pole position . This circuit is tough for inexperienced riders . More importantly , it's Allenso . The quulifying rounds weren't good , but he'll definietely come out on top in the finals . Don't worry too much if you get kicked out . 」
(明日はタイヤ勝負だ。特に右コーナーがきついので、タイヤの右半分がたれやすい。前半はおさえて走れ。後半5周が勝負だ。チャンスがあったら抜いていいぞ。それと、ポールのピクルスは相手にするな。このサーキットは経験のないライダーには厳しい。それよりはアレンソだ。予選はよくなかったが、決勝では必ずあがってくる。抜かれてもあまり気にするなよ)
昨年E-GP3で走った時も同じことを感じていたので、監督の言うことはもっともなことだと思った。その夜は、頭の中でシミュレーションしながら寝てしまった。
決勝日、サイティングラップでコースにウサギが飛び出してきた。先頭で走っていたジム・フランクはあやうく転倒するところだった。私はその後ろにいたが、それを見て、SNSで見た全日本のJ-GP3でトップのライダーがカモシカにぶつかったシーンを思い出した。ライダーは200kmほどのスピードでぶつかったにもかかわらず、そのままトップを守った。すごいライダーだ。そのレースは赤旗中断でそのままレース終了となった。カモシカがその後どうなったかはわからない。
レーススタート。私はトップ集団で走る。他のマシンとからまないように、アウトコースを走ったので、順位を少し下げたが、トップ集団にはついていけている。ポールのピクルスは何台かに抜かれて私の前を走っている。
残り10周となった。先頭集団は古山・ジムフランク・アレンソ・エイミー・山下・ピクルスそして私の7台となった。
残り8周、アレンソがトップにたったが、トラクションリミット違反でロングラップペナルティを受けた。
残り7周、アレンソはペナルティを消化する。集団の後ろについた。
残り6周、古山が大きくオーバーラン。ブレーキングミスだ。トップ集団から離れてしまった。
残り5周、今度は山下が5コーナーでハイサイド転倒。タイヤがたれてきたようだ。私がピクルスを9コーナーで抜くことができた。タイヤを大事にしてきたおかげだ。
残り4周、アレンソがせまってくる。9コーナーで抜かれてしまった。
残り3周、アレンソがエイミーを抜く。2位に上がった。ジム・フランクとアレンソのバトルが始まった。
ファイナルラップ。9コーナーでアレンソが前にでる。今日の彼は絶好調だ。ムジェロではこの2人がからんで、コースアウトした。またやりあっている。私は少し距離をとった。巻き込まれたら大変だ。後ろにピクルスがせまる。だが、レースは最後までわからない。最後のシケインでジム・フランクがインに突っ込んだ。シケインからフィニッシュラインまでは距離がない。マシン半分ジムが勝った。前回転倒で優勝を逃していたので、ハチャメチャに喜んでいる。マシンの上で踊っているみたいだ。
エイミーは3位に入った。連続表彰台で、これまた満面の笑顔だ。私はピクルスとの戦いに勝ち、4位に入った。連続表彰台を逃してしまった。
表彰台では派手なシャンパンシャワーだった。私はピットで見守る羽目になったが、監督のジュン川口から
「お疲れさん。上々だよ。ところで、移籍情報聞いたか?」
「マルケルさんですか?」
「来年D社のファクトリー入りだ。それだけじゃない」
「だれですか?」
「スペンサーJr.がKT社にやってくる」
「エッ! オーナーのハインツ氏は?」
「わからん。引退するかもしれん」
「引退?」
「最近、表彰台にも上がれないからな。スペンサーJr.が来ればエースを譲ることになるのは目に見えているからな」
「そうなんですか・・」
と言ったが、移籍話は私には縁のないものと思っていた。それよりも1週間後にあるドイツGPのことの方が気になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます