第44話
ファラトゥールは、アトラス国のジャーク侯爵が捕まれば、必然的にガルーラ国の名前も出てくると思っている。
密告書には当然の事ながら、ガルーラ国のバラン公爵の事も元締めとして書いた。
だからと言って、バラン公爵がすぐに捕まるわけではない。そこからは外交問題へと発展していくのだ。早期解決はかなり難しいだろう。
一日でも早く解決したいファラトゥールは、ガルーラ国王にも直接密告書を送っていた。
式神ファイブが集めた情報では、ガルーラ国王はバラン公爵を信頼している訳でもなければ、国王が望んでその役職につけたわけではない事が分かったからだ。
金回りが王家よりも良く、豪華な暮らしをしている事はわかっていた。
ただ、何かよくない商売をして儲けている事はわかっているようだったが、ガードが厳しく核心に迫る事が出来ない。
権利欲が強く、王太子であるアシアスと己の娘とを結婚させようと、強引に迫っている事もわかっていた。
正直な所、バラン公爵の手の者に周りを固められ迂闊に動けないというのが現実だ。
本来であれば、国王はバランを排除したいんだよね。
金貸業で次々貴族を自分の派閥に取り込んで宰相になっているから、国王が進めたい政策にも茶々を入れられるし。
まぁ、正直な所ガルーラ国王がまともな人間だったってのが驚きだったけど。
本来なら、息子でもあるアシアスの土壌改良にも賛成だった。だが、バラン公爵達に邪魔をされ、却下された。
裕福になると商品である人間が少なくなってしまうからという、下種な考えで。
国王はどちらかと言えば穏健派で、バラン公爵が過激派なのだ。
隣国への侵攻もバラン公爵の提案であり、実行指揮を執っている。
ガルーラ国王はバラン公爵とその子飼いの貴族達に権力を徐々に削られて、お飾りの国王に成り下がっていた
アシアスは実の父親とは言え、母である王妃が亡くなってからは、ほぼ没交流である。
だから父親である国王の姿は、巷で囁かれる程度の事くらいにしかわからない。十歳頃から公式な場でしかまともに話しをした事も無いのだから。
強欲で傲慢な国王
現実を何も見ていない国王
悲しいかな、それがアシアスの父親でもある国王に対する評価だった。
この人達って、絶対的に会話不足なんだよね。だから、お互い孤立しちゃってバランに利用されて、何もできなくなってるんだよ。
ガルーラ国王への密告書は、式神が届けてるから、警戒はするだろうけど絶対に乗ってくるはず。
仕事ができない貴族の下にいる優秀な人材の囲い込みも、ほぼ完了しているし。
一回、国王側の人間達と会議したほういいかもね。というか、本当国王の味方、少ねぇっ!
ファラトゥールは、商品となる人間のダミーとして忍ばせている式神からの報告書をパラパラと捲っていると、お使い式神の小鳥が手紙を咥えてやってきた。
それは勿論、ガルーラ国王から密会了承の返事。
「以外に早い返事だったわね」
それだけ焦っているのだろうと、今晩はどうかと詳細を書いて式神の渡した。
昼過ぎ、リウム伯爵領から帰ってきたアシアスとルイナに今晩、国王と会う事を話した。
「情報整理手伝ってもらってたからわかってると思うけど、ガルーラ国王は馬鹿じゃないわ」
いつもはファラトゥールを挟むように座る二人だが、今日は大事な話があるからと対面に座っており、グッと眉をよせるアシアスを、ルイナは心配そうに仰ぎ見た。
ルイナは生まれてから一度も、私的に父親と会ったことは無い。全て公的な場でだけで、言葉を交わしたのも数えるほど。
寂しさや悲しさはあったが、自分が産まれた経緯を知っていたので、何も言えなかった。
当時の側室の一人が媚薬を使い、国王と既成事実を作ろうとしたのだが、薬を盛られ逃げた先で運悪くルイナの母親と遭遇してしまったのだ。
単に相手が変わっただけで、側室の思惑は意外な形で他者で達成された。だが、巻き込まれた方はいい迷惑だ。巻き込まれたが故に、殺されてしまったのだから。
母親を殺され一人になっても、父親である国王は手を差し伸べてくれることは無かった。
ルイナにとっての家族は、兄であるアシアスだけ。国王は父親と言う名の他人だと思っている。
その所為か、母が殺されても父親である国王を恨むほど思入れがあるわけでもない。
だから、アシアスとは違い国王と手を組むこと自体に抵抗は無いのだ。それがこの国の為になるのであれば。
だが、アシアスが父親を嫌っている事は、言葉の端端に滲み出ていて理解していた。
「アシアスはどうしたい?私が今晩国王に会うのはね、私の事情で一日でも早くガルーラ国の問題を片付けたいからなの。アトラス国にも密書は送ったけど、早期解決は見込まれないのよね。
国同士になると当然時間がかかるし、時間がかかればかかるほど風化が進み、事件自体に新鮮味が失われていく。その前に片付けたいの」
ファラトゥールの言葉にアシアスは、少し考えた後に何かを決心したかのように顔を上げる。そして胸に秘めていた言葉を口にした。
「ファーラ様は何故、そこまで急いでいるのですか?事件の被害者たちの為・・・だけではないですよね」
きっとその答えの中に、アシアスが最も知りたい真実があるはずだと思っているから。
転生魔女は国盗りを望む ひとみん @kuzukohime
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。転生魔女は国盗りを望むの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます