第22話

ファーラと出会ってからの、アシアスとルイナの生活は一変した。

勿論、良い方へと。

全てが変わったあの日から、アシアス達は頻繁にファーラと連絡を取りあい地下工房で密会を重ねていた。

ルイナも地下へと行き来できるようになると、見る間に健康体になっていき「もやしはどこへ?」と目を見張るファーラに胸を張る妹を微笑ましく見ていた。

ファーラが持ち込む食料も大いに貢献しているのもあるのだが。


城内で出される食事には相変わらず、遅効性の毒が仕込まれてくるが、ファーラがくれたペンダントには毒を感知するだけではなく無効にする魔法も付与されており、これまでのように体調を崩すことは無くなった。

だが、いつもより元気でいると疑われるため、これまで通りの行動をしていたが、毎日毒を盛らていた事実に衝撃と怒りが込み上げる。



毒見役を通過してなお毒が盛られるという事は、その役は当てにはならないという事。

毒見役もきっと敵なのだろう。なので、料理長に適当な理由をつけ調理場へ行き、食材から調味料までをさりげなく確認することにした。

そして一つの調味料に、ペンダントが反応する。

「料理長、これは何という調味料なんだ?」

「あぁ、それは調味料ではなく薬草植物を乾燥させ粉状にしたものです。宮廷医長のゼノン様より、健康に良いからと両殿下のお食事に混ぜて出すように言われまして、スープに入れたりソースに入れたりしております」

粉末が入っている瓶を持つ手が微かに揺れる。

「・・・・そう。これはいつから入れてたの?」

「はい、二年前からでしょうか。その前にも種類は違う様なのですが、ゼノン様から同じようにお薬を頂いておりまして、そちらを混ぜておりました。ですがもっと良いお薬が見つかったと仰って、今のを持ってこられたのです」

「・・・・これより前に使っていた薬はまだあるかい?」

「えぇ・・・っと、薬の入れ替えの時に全部持っていかれたのですが・・・・」

ごそごそ引き出しを漁り「あった」と、小さな紙の包みを出してきた。

「薬を変えるにあたって、お体にあわなければと思い少し残していたのです」

「そうか、ありがとう。これは貰っていってもいいかい?」

「はい、かまいません」

「ところで、この薬は俺とルイナの食事だけに入ってるのか?」

「はい」

「陛下の食事には何も入っていないの?」

「えぇ。両殿下・・・特に王女殿下はお体が弱いので、それを改善するためのモノなので、陛下には必要ないと言ってました」


あぁ、国王は短命だ。毒など盛らずとも死んでいくからな・・・・

―――ムカつくな・・・・


少なくとも、ゼノンを信頼していた。

幼い頃からの付き合いだったから。いつから裏切られていたのか・・・

料理長にゼノンから初めて薬を渡された日を聞けば、アシアスが十八歳の成人を迎えた時からだった。

確かに言われてみれば、ルイナの安定していた体調に変化が見え始めたのもその頃からだった気がする。


ゼノンの後ろには、どこかの貴族がいるのだろう。

それに関しては後ほど炙り出すとして・・・


「料理長、この薬は貰っていくよ。もう、食事に入れなくてもいいから」

「さようですか?」

「あぁ、料理に入れるより直接、飲んだ方が効きそうだろ?」

「確かに・・・」

「代わりにこれを少量入れてくれないかな」

そう言いながら、懐から手に持っている瓶と同じような瓶を取り出し渡した。

「これは?」

「それは所謂、栄養剤だよ。それこそ体に良い薬草が数種類入っている。最近知り合った商人から譲ってもらってね。他国でも認知されている、有名な商品らしいんだ」

閉鎖的なこの国に住んではいれば、栄えている他国への憧れは常に持っている。

この国に出入りする商人から、他国の話を聞く事が唯一の娯楽の様な位置にある位は。

料理長はその傾向がことさら強かった。

食に対する探究心が強く、国境を問わず機会があれば知識を得ようとしているのだから。

だからこそ、他国からの輸入だという栄養剤をあっさりと受けれるのだ。

「良かったら料理長もこれを試してもいいよ」

「え?いいのですか?」

「勿論。自分で効果がわかれば使い方も広がるだろうし。他国では薬草を調味料として使ったり、薬膳料理として健康な体をつくる為に好んで食べる国もあるという。料理長はそう言うのに興味があるだろ?」

「はいっ!では、遠慮なく使わせていただきます!」

「あぁ。あ、そのかわり、この事はゼノンには内緒だよ?宮廷医としては、あまり面白くないだろうからね。幸いにも瓶も中身も似てるから、気付かれないと思うけど」

「承知しました!ゼノン様は、こちらにはほぼ来られません。薬が無くなりそうになったら教えてくれと」

「なるほどね・・・なら、これが無くなりそうになったら、俺にも教えて。ゼノンの薬と入れ替えるから」

「はい」

恭しく頭を下げる料理長に笑顔で応え、調理場を後にしたアシアス。

後で知る事となるが、毒見役は宮廷医長の子飼いだった事が分かった。


誰もいない廊下を歩くアシアスは、普段の彼からは想像もできないほどの怒りの形相を浮かべていた。

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