第42話
チャイルディもまた、呆然とアシアスを見つめていた。
「ありえない・・・」と呟きながら。
チャイルディもスポイル同様、アシアスは名ばかりの王太子で、ただの貧乏くさい男だと馬鹿にしていた。
見初められたらどうしようか・・・なんて、身の程知らずな事まで考えて笑い者にしていた事もあった位に。
だが、目の前にいるアシアスは全くの別人と言っていいほど、逞しく美しい。
そして陰では兄と「死にぞこない」と笑い者にしていたルイナ。アシアス同様、ルイナの美しさには嫉妬する事自体が
あれだけ馬鹿にしていた二人がまるで別人のように、いや、本来の姿で目の前に現れた事に心の奥底で悔しさが湧い上がるも、それ以上にアシアスの美貌に心を奪われ恍惚と見つめてしまう。
そんなチャイルディに母イーゴゥイスがそっと耳打ちしてきた。
「見違えるほど美しいわね。あれならあなたに相応しいわ。王太子妃を狙ってもいいかもしれないわね」
「え、ええ。そうね、お母様。前に来た時も、どんなに冷たく返しても話しかけてきたし・・・私に気があるのかもしれないわ」
どこまでも都合よく、どこまでも自分本位の彼等。
アシアスとルイナが帰るまで、一言も話す事ができないとは思いもしないで。
アシアスとルイナは、当主以外の三人からの舐め回すような不愉快な視線を感じるも一切無視し、アナストと三人打ち合わせのために応接室へと移動した。
当然のように三人も後に続こうとしたが、アナストに大事な話があるからと締め出され、室内は三人だけとなった。
「はぁ・・・」
と、思わず大きな溜息を吐きながらソファーの背もたれに寄りかかるアシアスに、アナストは申し訳なさそうに頭を下げた。
「礼儀知らずの三人で、本当に申し訳ありません」
「まぁ、いつもの事だが・・・今日は一段と睨まれていた気がするなぁ」
「お兄様、あれは睨まれていたのではなく、見惚れていたのです」
「まさか。これまで礼儀的に話しかけても迷惑そうにされてたくらいだから、それは無いよ」
当主の前だというのに、言いたい放題のアシアス。
実は当主であるアナストですらあの三人に手を焼き、離縁を考えているほど夫婦と言うよりも家族間が冷え切っている状態だ。
当然の事ながら、領民にもすこぶる評判が悪い。
アシアスとアナストは何度か顔を合わせているうちに、お互いに悩みを打ち明けるようになりそして、立場を超えて親友の様な間柄になっていたのだ。
「それにしても、あのいでたちは無いと思いますわ」
ルイナが忌々し気に吐き捨てる。
「元々あの三人は、アナストに協力する気は無いんだ」
「それにしても何なんですか。まるでパーティにでも行きそうな装いでしたわ」
ジルト伯爵家の人達は皆、すぐにでも動ける様な服装だった。
だが、ここでは当主のみが作業着。他の三人はまるで茶会かパーティにでも行くように着飾り、得意満面な顔をしていた。
「いつもの事さ」と苦笑するアシアスは、本題に入る為に防音魔法を展開させた。
「おぉ、殿下!いつの間に魔法を!」
魔法を使える人は本当に珍しく、この国では見た事がない。
恐らく魔力持ちはいるだろうが、アナストはこれまで出会ったことは無かった。
「実は、大魔法使い様から教わったんだ」
そう言って、これまでの事を話した。
「なるほど・・・・では肥料や苗も馬車に積んできた以上に有ると・・・」
「あぁ。食料はルイナが持ってきている。だから、出来るだけ誰もいない場所で荷物を下ろしたいんだ」
「承知しました。倉庫にはまだ誰もおりませんので、そこに馬車以外のモノを先に下しましょう」
「そうだな。それと、アナストを信用していないわけではないが、これから話す事を口外しないよう制約魔法をかけさせて欲しい」
「わかりました」
考える間もなく快諾するアナスト。そんな彼にアシアスは、大魔法使いファーラの事も明かしたのだった。
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