転生魔女は国盗りを望む

ひとみん

第1話

「君も知っている通り、この結婚は契約結婚だ。よって、君を妻として愛する気はない」



結婚したてほやほやの夜。

所謂、初夜。

寝室で待っていた新妻ファラトゥールに放った夫セレムの一言に、ファラトゥールは「あら、これってラノベのテンプレ科白よね」と、漠然と思った。

そして、「え?らのべってなに?てんぷれ?」と、一見無表情に見えるがかなり混乱していた。

母親の腹の中に居た時に大魔法使いだった記憶が甦った時でさえ、こんなに混乱はしなかったのに。


私って、今世の前に二回も生きてたんだ・・・・


地味に衝撃を受けているファラトゥール。何やら夫となった男が、くどくどと語っているがさっぱり耳に入ってこなかった。


そう、彼女は前世の記憶持ちだ。

彼女の一度目の人生は五百年前に生きた、大魔法使いファーラ。

本日発覚した二度目の人生は、この世界とは違う日本という文明の発達した世界で、ちょっと勘の鋭いだけの一般女性だった。

今世はファーラだった時と同じ世界で、セイリオス国の第二王女ファラトゥール・セイリオスとして生きている。


そして本日、隣国でもあるアトラス国のセレム・レインフォード公爵と結婚したのだ。

この結婚は同盟国同士の関係を強化すると共に、それぞれの国境に接するガルーラ国を牽制する意図を持っていた。


元々、歴代のガルーラ国王は強欲で自尊心が強い人間達だった。より領土を拡大したいが為に、度々、周辺国へとちょっかいをかけていた。

それがここ数年、その頻度が劇的に増えていったのだ。

その中でも頻繁に被害を受けているのが、ガルーラ国を囲むようにある、セイリオス国とアトラス国、グルリア国。

この三国は、肥沃な土地に加え資源もまた豊か。

それに反しガルーラ国は植物に適さない土地が多く、取り立てて土地固有の産出物がない。

また、唯一食物が育つ土地に一極集中型の都市づくりをした所為か、僻地へ行けば行くほど土地は痩せていき、貧困率が高かった。

痩せた土地でも、土壌改良やその土地に適した作物を植えれば、ここまで食糧難がひどくなることは無かったのだが。


そう、ガルーラ国王が他国を狙うのは、首都でさえも食料が入手困難になったからなのだ。


ガルーラ国は縦長の形をしていた。

高い山脈側に都市をおき、深い森がぐるりと囲っている。

森を挟んで右にアトラス国、左にグルリア国。そして山脈と反対側にセイリオス国がある。


ガルーラ国は、王都から離れれば離れるほど手付かずの土地は広がり、スラムの様な村がいくつか点在している。

国を囲むように広がる森は「不可侵の森」と呼ばれ、一度はいると生きて出る事がないと言われていた。

実際、何人もの冒険者や興味本位の人間が森に入り、戻ってきた者はいない、と言われている。

だが、まるで妖精にでも悪戯されたかのように、呆然とした様子で森の入り口に立っていたというのが本当らしい。

ただ、本当に帰ってこない人達もいるようで、子供たちが興味本位で森に入らないよう、わざとという事にしているらしい。

実際、ガルーラ国王もこの森を通ってその向こうにあるアトラス国やグルリア国へと侵攻しようとしたが、無駄に戦力を失うだけだったという。


土壌改良も何も対策をせず、唯一肥沃な土地でもある王都で生産する食料のみで何とかなると、これまでの国王は安易に考えていた。

そもそも、狭い王都での収穫だけで全国民を養うなど無理があるのだ。将来、人口が増えればそれだけ栄えている王都に人が集まるのだから。

不思議な事に、広いこの国で作物が育つ土地はごく僅か。

それを聞きつけ人が集まってくる。そうなれば居住地区を広げなくてはいけない。

現在はそんな労力も資金もない。


そんな理由もあり、他国を狙い始めたのだ。今更、金をかけて土壌改良したとして、それが上手くいく保証もないし何年かかるのかもわからない。

ならば、豊かな土地を奪ってしまった方が早いと、ガルーラ国王は考えた。


それにより迎え撃つ三国は連携を深める為、国境を守る貴族に王族を嫁がせることにしたのだ。

アトラス国の第三王子はグルリア国の国境を守る次期当主となる辺境伯令嬢の元へ婿入り。

グルリア国の第二王女はセイリオス国の国境を守る侯爵令息の元へ嫁ぎ。

セイリオス国の第二王女でもあるファラトゥールはアトラス国の国境を守るレインフォード公爵のもとへと嫁いだのだ。


それぞれの年齢なども考え、三国で話し合いの上決められたのだが、あからさまに結婚に難色を示していたレインフォード公爵と婚姻を結ぶことになってしまったのが十八歳の誕生日を迎えたばかりの、ファラトゥールだった。

五歳年上とはいえ、他の王族と比べ年齢が近かった事が一番の理由なのだが、アトラス国の王様に直接頭を下げられてしまえば断る事も出来ない。


王族と結婚などしなくても、これまで何の問題もなかったのだから、必要ない。


というのがセレムの意見で、これまでの功績もあり彼の意見も無下にもできない。だが彼等にだけ特例は認めることはできない。

彼等だけが政略結婚をするわけではないのだから。

よってこの婚姻は、ガルーラ国の問題が解決するまでという、契約結婚となったのだ。

当然、彼等以外の四人にも同じことを伝えた。

だが、意外にも問題児以外は、互いに好感を持っているようで、婚姻をこのまま維持する事を決めたようだ。

そんな話を聞き、ファラトゥールはセレムの事を、まるで駄々をこねる子供みたいだなと・・・溜息を吐く。


そんな不満だらけの婚姻だったが、契約が満了した暁にはファラトゥールに対し自由が保障される事になった。

彼女がセレムの我儘に付き合い、その間の人生を犠牲にする代償として交渉した結果だ。

元々、ファーラとしての記憶があり、五百年前とは比べ物にはならないが魔法も使えた。結婚などせず、ファーラの時のように自由に旅に出たいと思っていたのだ。

家出でもしてしまおうか・・・と考える事もあった彼女だが、一応は王族としての自覚もあり、無責任な事も出来ずひたすら悶々としていた。

まぁ、魔法を使いこっそり王城を抜け出し、ギルドに偽名で冒険者登録をし冒険者として依頼をこなしたりしていたのは、秘密だ。

陰で好き勝手していた彼女だったが、将来ずっとこんな生活ができるとは思っていない。

何で王家になんて生まれてしまったんだか・・・・と、思っていた矢先、朗報が舞い込んできた。


隣国の公爵との契約結婚・・・・


この話を飲めば離婚後、誰に責められるわけでもなく正当な契約の元、王家から離れ自由を保障されたのだ。

簡単に言えば、王家から籍を抜いてもらうのだ。当然、両親はもとい、他の国王も反対したことは言うまでもない。

温室育ちの王女様が、市井で生きていける訳がないと誰もが思ったから。彼女の正体を知らなければ、誰もが思う事だ。

だが、大魔法使いだった時も平民だった。何の問題もない。


説得に説得を重ね、契約結婚で王家の責務を果たしたと認めてくれるという事となった。「ビバ!結婚!!」である。

ファラトゥールにとっては、まさに「棚ぼた」。離婚歴が何だというのだ。元々そう言うのは気にしない性格だ。

なので夫の無関心はまさに僥倖。何をしても何をやっても関心を持たれないという事なのだから。


そして先程の「愛さない」宣言。

それにより前世の記憶が甦り、ファーラだった時の記憶とイイ感じに融合し、魔法の精度と威力が五百年前と遜色がない位あがったのが試す前から実感できて、速攻でそれを試してみたいとそわそわしてしまうほどテンションが上がっている。


ファーラだった時よりも、色んな魔法を生み出せそうよ。

なんせ、前世は魔法がなかったから、世の中、天元突破的に妄想が溢れかえってたのよね!


「いずれは離縁となるが、殿下の事はこの公爵家の女主人として敬うよう、使用人達には話している」

ふいに夫となった男の声に、思考を遮られた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る