第2話

「我が国王陛下より、殿下が何不自由なく暮らせるよう・・・・・色々と、賜っている」


なんだ、まだ喋ってたのか・・・・くどいな。

しかも、何だ?あの間は・・・一体何を賜ってるんだか・・・・金か?


「とにかく、俺にはかかわらないで欲しい。殿下は自由に暮らしてください」


つまりは、国王から私を押し付けられた慰謝料的なお金貰ってるから、自由になにしてもいいよ。自分に纏わりつかなければ・・・ってとこかしら。


押し付けられたのはこっちなのに・・・と、ファラトゥールは興味なさげに鼻で笑うと、セレムを呆れたように見つめた。

彼が入ってきてから未だ一言も言葉を発しないファラトゥールに、ショックを受けているのだろうと勘違いしているのが見て取れる。


セレムは黒髪に澄んだ青い瞳をしている。顔立ちはセイリオス国民と大して変わらない。

ただ、とても整った容姿から、セイリオス国内でも若い令嬢達の話題に上るほどは人気があった。


多分その事を言ってるんだろうな。

俺に惚れるなよ・・・的な?

これまでの事は知らないけど、全ての令嬢が自分に惚れるなどと自惚れも甚だしいわね。


ファラトゥールもこの条件を飲んだ時、もっとお互いに尊重する同志のように過ごしてもいいのではと思っていた。

例え恋愛感情が無くても、友人の様な仲くらいにはなれるのではと、少しだけ期待していたのだ。

だが、この男は違うんだな・・・・と、彼女の中での彼の立ち位置がきまった。


――――無視、決定ね。


「ええ、承知しましたわ。本日が最初で最後の顔合わせという事でよろしいのかしら?あぁ、公式な場にはご一緒しなくてはいけないので、それは叶いませんわね」

残念ですわ・・・・と、今迄黙り込んでいたファラトゥールが、何の感情も見せない眼差しをセレムに向けながら、何でもない事のように言う。

てっきり自分の心無い言葉に傷ついていると思っていたセレムは、予想外の彼女の態度に面食らい返事ができなかった。

「なんなら、公爵様の目の届かない別邸にでも追い出してくれてもいいんですのよ」

「え?いや、別にそこまで・・・」

「そこまではしなくてもいいと?ですが先程、俺にはかかわるなと仰ったじゃないですか。ならば徹底的にした方がよろしいのでは?」


セレムは人が変わったかのように意見するファラトゥールに押され、言葉に詰まる。

初顔合わせの時ですら、物静かに王女らしく微笑んでいた彼女。

セイリオス国王夫妻に似た、栗色の髪に鮮やかな緑色の目。

綺麗というよりは可愛らしい容姿をしていた。

だから、彼女は物静かで穏やかな人なのだと、勝手に想像した人格を押し付けていた。

先程まで黙って自分の話を聞いていた王女が、急に反撃するかのようにしゃべり始めたのだから驚くのも無理はない。


「私はこのには納得していますの。問題解決後に離縁という瑕疵を受ける事に対しての慰謝料として、三国の国王は私の自由を認めてくれましたから。短い付き合いとはなりますが、国を守る同志として歩み寄れればと思ってました。ですが公爵様にはそんな気持ちにもならないのですね。まぁ、契約結婚ですので世間一般の夫婦のように過ごすことは無いとわかっていましたが、契約上とはいえ妻となった人に対し、独りよがりな無礼極まりない暴言。大体、契約という時点で愛してもらおうなんて、ましてや愛そうなんてこれっぽっちも思っていませんわ。それとも、全ての女性は公爵様に好意を抱くのが当然だとでも、そんな自惚れた考えを持っているわけではありませんわよね?」


そこまで一気に捲し立て、どこまでも気高く見える様ツンと顎を上げ、セレムを睥睨した。


「自惚れた考えで私に無礼な事を言ったのであれば、笑止千万。片腹痛いですわ」


その姿は、まさに一国の王女。

セレムは彼女から放たれる威圧感と気高さに打ちのめされ、己の考えに捉われ思慮の欠片もない言葉をか弱き女性に吐いたことに羞恥のあまり言葉をなくす。

だがファラトゥールの口撃は止まらない。


「大体この度の結婚は、誰しも納得などしていないでしょう。ですが王族は国の為にその身を捧げる事が義務です。そして高位貴族もまた、同じ。私の他の王族貴族令息令嬢は、私達より年下であるにも関わらず、互いに歩み寄ろうとしていました。それなのに、一番年長者である公爵様が子供のように駄々をこねて、義務を拒否するなんて・・・なんて恥ずかしいのでしょう。あなたの我儘の所為で、結局は他の二国の婚姻も希望すれば解消できる条件を付けざるを得なくなった事、知ってます?離縁前提であればこの婚姻は何の意味も持たなくなるというのに。敵国への牽制にすらならなくなるではないですか。離縁事項は極秘扱いですよ」

呆れたように溜息を吐く王女・・・いや、妻にセレムは甘んじてそれを受け入れるほかなかった。

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