第28話

そして、二人目の令嬢が来たのは、一人目が来てから五日後の事だった。

一人目は母方の親戚だったが、今度は父方、つまりは公爵家側の親戚の様だった。

家令に聞いたら、結婚式にすら招待されないほどの、遥か遠い親戚・・・だとか。


一人目とは違い、黒髪に妖艶な体つきのセレムと同年代位の美女だった。


まぁ・・・ボンキュッボンじゃん!ドレスも、すごっ!高級娼婦みたい!


足をこれ見よがしに組み替えれば、大胆なスリットから艶めかしい太ももが顔を出し、露出した肩にかかる長い黒髪を真っ赤なマニキュアが塗られた指で後ろに流すその仕草は・・・・


ギャー!ワンレンボディコン!!トレンディードラマ!!リアルだわ!


スンとした表情ではあるが、脳内はかなり騒がしいファラトゥール。

彼女の前世は、昭和の人間である。目の前の女性の装いは、まさにバブル。

田舎育ちの彼女は、バブル時代に東京に行った事が無いのでテレビの中でしか見たことは無いのだが、まさか転生して、しかも異世界でナマで見る事になろうとは。


人生って、わからないものね・・・


と、感慨に耽っていた。


そんなファラトゥールの心情など当然わかるはずもない黒髪美女。ファラトゥールが何も言わない事を怯えていると勘違いし、真っ赤な唇は歪んだ笑みを浮かべた。

「私、セレム様と大変親しくさせていただいてますの」と、ファラトゥールの予想通り、体の関係を臭わせ始めた。


「実は奥様と結婚する前から親しくさせていただいてましたの」だとか「ずっと懇意にしてもらっているんですのよ」だとか「彼はいつも優しく大事にしてくれるんですの」だとか、つい先日も会ったのだとか。

ペラペラしゃべり始める黒髪美女。決定的に体の関係がありますよ、とは言わない。全てどちらにでも取れる様に濁しながら、蔑んでくる。

此処でセレムと肉体関係があり、今も続いているのだとはっきり言ってしまえば虚偽となるからだ。

因みに彼女は男爵令嬢とのこと。下手な事を言って公爵家の顔に泥を塗ってしまえば、どんな罰が下るのか。


お家の取り潰し?

それくらいの罪よね。家令も会った記憶がないという事は、ヤツは彼女と会った事ないだろうし、会っていたとしても多分覚えてないと思うわ。

だってヤツが一番嫌いそうなタイプなんだもん。

豪胆よね・・・・そんだけ私が舐められてるんだろうけど。


ファラトゥールは美しい容姿をしている。

茶色い髪とはいうが、限りなく赤に近い茶色で日の光のもとでは綺麗な赤銅色に輝く。

その瞳もセイリオス国の王家にしか継がれない「セイリオスのエメラルド」と呼ばれており、透明感のある緑。

着飾れば誰もが振りむく美女であるのに、ファラトゥールは敢えて地味に装っていた。勿論、高貴感は損なわれていない。

だが、意外と見てくれに騙されてくれる人が沢山いる事をファラトゥールは知っている。

先日乗り込んできた伯爵令嬢もそうだし、目の前の彼女もその一人。

だからこそ、相手の本質が分かり遠慮なく叩き潰せるのだ。先日の伯爵令嬢は、叩き潰す前に逃げていったのだが・・・・

さて、どうしたものか・・・ここまで言うのであれば肉体関係はあるのかと、はっきり聞いてもいいかもしれない・・・と思案しながら彼女を鑑定しある事に気付く。


あらやだ、マジ?自分で気づいてるのかしら・・・・

気付いて此処に来たんなら、もはやギルティしかないわね。


「一つ質問しても?」

ようやく口を開いたファラトゥールに、黒髪美女は何故か勝ち誇ったような笑みを浮かべ「どうぞ」と上から目線で顎をしゃくった。

「あなたのお腹の子供は、我が夫の子供ですの?」

「・・・・・は?」

何を言われたのかわからなかったのか、表情が固まっている。


うん、知らなかったようね。


恐らく、鑑定魔法を使えるファラトゥールにしかわからない事実。

「ですから、あなたのお腹の子ですわ。私の夫の子なのかと聞いておりますの」

ステータスには勿論、父親の名前も出てる。

「なっ!何を言っているの!私は妊娠なんてしてないわ!!」

「あら、おかしいわね。ではここではっきりさせましょうか」

「な、何を・・・・」

「あなたが妊娠しているのかをです。そして腹の子の父親が我が夫なのかを」

「・・・・え」

「だって、結婚前からのお付き合いなのでしょう?先日も会ったとか。わざわざ砦まで会いに行かれたのでしょうね」

「ファラ様、砦の騎士に確認をとりましょうか」

此処で家令が援護射撃したものだから、黒髪美女の顔色が変わる。

「そうね。それと主治医に妊娠検査薬を用意してもらって」

「かしこまりました」

そう言って家令は傍にいた使用人達に指示を飛ばし始めた。


焦ったのは黒髪美女。

所詮は、世間知らずの王女だと思っていた。公爵との関係を臭わせ、色々難癖をつけ金をせしめるつもりでいた。あわよくば愛人にでもなれれば上出来と。それが何故か本人の意図から大きく外れ、大事になりそうになり、頭の中が真っ白になる。

「お待ちください!私ごときの為に公爵家の方々の手を煩わせる事はできません!妊娠の件は私の主治医に診てもらいますので!」

「あら、遠慮なさらなくてもいいのよ。旦那様と深い関係のある方の妊娠ですもの。こちらとしても把握しておかなくてはいけませんから」

そう言ってニッコリ微笑めば、顔面蒼白になった黒髪美女が「どうかお構いなく!!急用を思い出しましたので!」と、脱兎のごとく屋敷から出ていった。


あらあら・・・と、今にも転びそうなほどの勢いの黒髪美女を見送りながら時間を確かめれば、彼女の滞在時間も小一時間だった。


家令達の援護射撃に礼を言い、セレムに送り付けるレポートを、まだまだあんなのが来るのかしら・・・と、重々しい溜息を吐きながら書き始めるファラトゥールなのだった。

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