第37話

ルイナの爆弾発言にアシアスは、「なっ!」と言ったきり、顔を真っ赤にし口をパクパクさせている。

「いいですよね?ファーラ様」

何かを期待したような眼差しを向けてくるルイナに、少し考える様な素振りを見せながらもファラトゥールは「いいよ」と言うと、両手を広げた。

「え?い、いいんですか!?」

声を裏返しながら叫ぶアシアスに「昨日、いっぱい抱っこしてくれたじゃない」と笑えば、益々顔を赤くして照れたように横を向いた。

「・・・それは・・・あまりにも、可愛すぎて・・・」

「ふふふ、ありがとう。大きくなった私では、役不足かしら?」

「そんなことはないっ!・・・・子供のファーラ様も可愛いけど、今のファーラ様の方が・・・俺は・・・好ましい、です・・・・」

「そう?ありがとう」

そう言いながら再度両手を広げれば、おずおずと近寄り少し背を丸めてファラトゥールを抱きしめた。

ファラトゥールもアシアスの背に手をまわし、恒例の体格チェックをし始める。子ファーラでもチェックしていたが、やはり生身でもチェックしたい。子供では届かなかったところまで。


おっ、私がいなくてもちゃんと鍛錬しているみたいね。イイ感じで筋肉ついてきてるわ。


さわさわと体をまさぐるファラトゥールにアシアスが、蚊の鳴く様な声で名を呼ぶ。

「あ、ごめんごめん。初めて会った時よりずいぶんと筋肉ついてきたなって」

「はい、鍛錬は欠かしてません。少しでもファーラ様に近づきたいので」

「アシアスは十分強いわよ。魔力も結構あるから、魔法も教えがいあるし」


二人が健康になっていき、改めて鑑定をすると、アシアスとルイナには魔力がある事が分かったのだ。

だからこそ、式神ファイブが集めてくる情報整理も手伝う事が出来ている。

ファラトゥールは二人に魔力がある事が分かると、少しずつ体に負担のかからない防御魔法を先に覚えさせた。

ただでさえ毒に悩まされていた二人。それに対抗するペンダントを渡したとはいえ、いつ何が起きるかはわからないのだから。


そんな会話をしながらも、未だ抱きしめあっている二人にルイナは、この光景をずっと見る事が出来たらいいのに、と心の中で秘かに願っていたのだった。



大好きなファーラを抱きしめるというご褒美イベントが終わり、見るからに残念そうに眉を下げるアシアス。

それでもぴたりと寄り添うように、ファラトゥールの隣に腰を下ろした。勿論反対側にはルイナが座っている。

ファラトゥールを挟んでアシアスとルイナが座るのは、もうお決まりのようになっていた。

広いソファーなのにぎゅうぎゅうと挟まれて座るファラトゥールは照れくささを隠すように、一つ咳をすると今後の方針を話した。


これまでの情報をまとめ、自由に動けるファラトゥールがバランの件を受け持つ事、食料関係はアシアスに任せる事を話す。

「バランがアトラス国のある貴族を窓口に、他国に人身売買してることが分かったでしょ?バランってこの国では結構堂々と悪事働いてるから、意外とその先を追いやすかったんだよね。式神を囮に潜ませてるから、捕らわれている被害者たちを保護し始めてるし、売られた子も行方が分かる限りは追って保護してる」

売られたり、これから売ろうとする商品が突然消え、売人達や顧客達がざわつき始めているが、バランの元まではまだ情報は下りてきていない。と言うのも、この現状がバレれば、彼等がどんな制裁を受けるのか・・・わが身可愛さに、自分達でこの問題を解決しようとしていた。それは、ファラトゥールにとってはとても都合の良い展開になっている事は言うまでもない。

「保護された人達は今、どちらに?」

「この国にいるわよ」

「え?大丈夫なのですか!?」

驚くアシアスとルイナに「大丈夫、大丈夫」と、自信満々に笑うファラトゥール。

「実は森の中にも三か所、屋敷があるのよ」

「えぇ?この森の中にですか?」

その屋敷は元々、ファーラの世話をしてくれていた使用人二人の為に用意した屋敷だった。

ファーラが不在、または一緒にいられない時に何らかのトラブルが起きた時の為の、地下工房とはまた別に避難所的な目的で作ったのだ。

どちらかと言えば、やっぱ夫婦水入らずの時間は大事よね、と言うファラトゥールが使用人夫婦の別邸感覚て作ったのだが。



「そうよ。森自体には結界が張られていているし、この森に入れば出られないって言う恐怖心が植え込まれているから、追手は森には入ってこないわ。というか、森の中に居るとは思わないでしょ」

「確かに・・・・保護された人達にとってはこれほど安全な所はないですね」

「まぁね。保護された人達はほぼ、この国の人達だったわ。貧しさを理由に騙されて売られた人も多かったわね・・・」

しかも年齢の幅が広く、売られた先も良くも悪くもピンキリだった。

幸いにもバランは几帳面な性格だったらしく、誰がどこにいくらで売られたという記録を残していたので、彼女彼等の足取りを追うのは意外と簡単だった。

ただ、保護された人達は皆が皆健康という訳では無かった。

当然、身体だけでは無く精神的に傷ついている人達が多い。前世の記憶があるファラトゥールは、彼等に対してのアフターケアにも心がけている。

ただ、助けただけでは駄目なのだと。

最終的に彼女彼等の帰る場所は、自分を売った貴族がいる、この国なのだから。


自分達がこの国に戻る事により、家族達に何らかの報復があるのではと、心と身体に傷を負ってもどこまでも優しい人達。

そんな彼女彼等に、ファラトゥールは力業を使った。

いずれは自分の国の国民になるのだからと。


保護した人達の家族ごと、森の屋敷で匿ったのだった。

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