第34話

セレムを家令に託し部屋に戻ったファラトゥールは、さっそくアトラス国王へと要望書を書き始めた。


内容は先ほどまで頭の中で思い描いていた事を、そのまま。


まずは、国交を開始した国には三番目と四番目の令嬢を送って、辺境伯には一番目令嬢を。

二番目令嬢にはニセ愛妻家のもとへ。

一番目令嬢の事は、王家に調べてもらおうかとも思ったけど・・・・意外と家令は調べ終わってるかもな・・・かなり優秀だからね。

私の土地を取り戻したら、引き抜きたいわ。


「ライラ、貴女ジェイドから何か預かってないかしら」

「はい。先ほど部屋を出る時にこれを」

と言って、封筒を持ってきた。入っていたのは案の定、一人目令嬢の身辺調査の結果だった。


ジェイドったら、素敵!特別手当弾まないといけないわね!


少し厚めの報告書を読んでいくうちに、ファラトゥールの表情が徐々に険しくなっていく。

その内容は前世で読んでいた、継母が子供を虐める小説の内容がそのまま現実で実行されたかのような、そんな醜い内容だった。


簡単に言えば、元愛人の義母と義妹、そして実父に令嬢は虐待されていた。

令嬢の母と父は典型的な政略結婚で、若い頃から父には恋人がおりそれが今の義母となる。父親は、令嬢の母が亡くなるとひと月も経たずして、愛人を招き入れたのだ。

あの顔に塗りたくったおしろいも、義母と義妹の嫌がらせ。彼女はわかっていてそれに従っていたのだろう。


そうよね・・・前世と違い、この世は女性一人で生きていくには、大変だもの。

でも、二十一歳にもなって未婚なんて。好色爺あたりにでも高く売りつけそうな気もするけど・・・・


読み進めていくうちに、こいつ等クズだ・・・と、ついつい漏らしてしまった。

令嬢の義妹は体が弱く子供を産めそうになかった。だが、当主は前妻の子ではなく心から愛する人の子に継がせたい。これまで日陰の身だった愛する人たちに、全てを渡したいと思っていたのだ。

だが、愛する我が子は体が弱い。医師からも、妊娠出産に耐えられるかわからないと言われていた。

愛する我が子を犠牲にするくらいなら、親戚から養子を貰い継がせることも考えていたのだが、悪魔のような義母の一言に父親は目から鱗を落したのだった。


「あの女の娘に子を産ませればいいのです。腹立たしいですが、あの娘もあなたの血を引いています。結婚などさせずに、必要なだけ子を産ませ不要になれば娼館あたりにでも売りつければいいのです。大した金額にもならないでしょうけれど、この家の為にはなるでしょう」


病弱令嬢は半年後、成人の十八歳になる。そうすれば、彼女は婿をとりその夫が妻ではない姉と子作りをする。

ただ家の為に、自分を虐げ続ける家族の為に、ただ子を産む為に。

そしてその病弱令嬢の婚約者と言うのが、金持ちで有名な貴族ではあるが、黒い噂も絶えない貴族でもあった。


あぁ・・・これは急がないとまずいわね・・・・


ファラトゥールは要望書と共に、家令が調べてくれた報告書を同封し、すぐさまアトラス国王へと送った。

家令には、先程以上の金額を特別手当として出そうと心に決めながら。





セレムが帰ってきているからと言って、ファラトゥールの生活に何の支障もない。

昼食も夕食も別々なのだから。当然顔を合わせる事も無いし、彼が何をしていようと、興味すらない。

ただ、彼が滞在しているのに式神ファラトゥールを置いて出掛けるのはな・・・と、警戒してしまう。

ないとは思うが、突然この部屋に来られても式神ファラトゥールで対処できる事ならばいいが、出来なければまずい事になってしまう。


ここの所、いらない事に時間をとられて、あちらの事はアシアス達に任せっきりなのよね・・・

情報精査も私が行けない時は頼んでるけど、内容がかなり腹立たしいからアシアスが先走らないか不安なんだよね。

ルイナがいるから大丈夫だとは思うけど・・・


思っていた以上にガルーラ国の中枢は腐っていて、同じ王族として腹立たしくも情けないという思いが込み上げてくる。

他国のファラトゥールですらそう思うのだから、自国のアシアスはそれ以上の思いを抱いているはずだ。

だが、これからどう行動するかの指針が決まりそうでもあり、そこら辺も詳しく打ち合わせしたかったのだが・・・


全く、余計なことばっかでイライラする!

早く土地を取り戻したいのにぃ!!


アシアスとルイナに連絡を入れて、本日は公爵邸にいる事にした。

美しいオレンジ色の蝶の式神を二人に向かわせて。

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