第14話
そうと決まれば、勧誘だ。
勝手に此処に来て、勝手に寛いでいる。つまりは無断侵入。一般的に見れば犯罪者ではあるが、自分に協力するならその罪をチャラにしてやろうと、なんとも上から目線の交渉をしようとするファラトゥール。
言う事を聞かなければ、最終的には力ずくで決める。と、脳筋らしいバカな計画も練っていた。王族教育はどこへ行ったと思うくらいバカな事を。
ファラトゥールであればそれは可能だし、誰も指摘する人がいない為、彼女は名案だとご満悦である。
したり顔で頷き、まずは自己紹介だなとフードを脱いだ。
「私はファーラ。お前が言っていた大魔法使いファーラだ」
アシアスは慇懃無礼な態度と言葉遣いの、得体の知れない目の前の女性を何故か警戒はしていなかった。
一見乱暴な言葉遣いのようにも聞こえるが、平民ではない事が言葉の端端で窺えたから。ペンダントの件では、暗殺者と見紛うほどの冷たさだったが・・・
そして、フードを脱いだ彼女に目を奪われる。
室内の柔らかな光を受けてキラキラと輝く銀髪に、瞳はペンダントと同じ鮮やかで華やかなオレンジ色のパパラチアサファイア。
大魔法使いファーラと同じだ・・・・
大魔法使いファーラは世界的に有名だった。それは五百年経った今でも。
その巧みな魔法技術や知識、魔力量。何をとっても桁違いなのだと、彼女を語る歴史書に書かれていた。
今では無きに等しい魔法。未知の力となった魔力を持つ人間自体、憧れと尊敬を一身に集めている。
五百年前とは言え、超人の様な彼女は今でも英雄のように扱われ、彼女を題材にした物語や舞台が人気を博しているのだ。
かなり、脚色され本人とはかけ離れた人格が出来上がっているようだが・・・・
そんな彼女の容姿も記載されている歴史書。彼女の瞳はとても珍しい色合いをしているのだと書かれているが、何色なのかまでは書かれていない。
歴史書とは言うが不明な事も多く、だからこそ物語や舞台で超人のように扱われているのかもしれない。
そして、歴史書では一切出てこない彼女の創作魔法。彼女が秘密主義だったこともあるが、大っぴらに使っていたとされる魔法しか伝わっていないのだが、これがまた規模が大きいものばかり。
だからこそ脚色された人物像が出来上がっていくのだ。前世で言う安倍晴明のような。
歴史書には載っていない、彼女が作り出した魔法の中には、今では普通に皆が使っている道具もある事には驚きを隠せなかった。
例えば、今では普通に存在している、姿移し・・・前世で言う所の写真であるが、五百年前に魔法で自分の姿を特殊な紙に焼き付けた、ファーラの写真が存在した。
その原本を見つけたのは勿論アシアス。この工房でである。
唯一手に取り見る事ができる机の上の報告書に挟まっていたのだ。しかも、カラーで。
ファーラの容姿に関しては、歴史書に曖昧に書かれているのみで、当然のことながら写真は存在していない。
なのに、独自の魔法で今の技術にもひけを取らないほど鮮明で美しい、数枚の写真。
ファーラ一人のもあれば、使用人と三人で写っているのもあった。
大魔法使いと言われるくらいだから、どこか怖いしかめっ面の頑固婆さんをイメージしていたアシアスだったが、写真の中の彼女に一目で心惹かれた。
五百年前の人に好意を抱いても不毛なだけなのに次第にその想いは募り、気付けばこの部屋に入り浸ってしまっていたのだ。
だが、写真と寸分たがわない美しい人が、目の前に立っている。
夢ではない。目の前で繰り広げられた魔法。恐らくこの世に存在する魔法使いでも、これだけのことができる人は存在しないだろう。
しかも、五百年前の人がここに存在すること自体が現実的ではありえない。
それでも、彼女は本物だと根拠のない確信がアシアスにはある。
只々、ファラトゥールに見惚れ呆けているアシアスに、コホンと咳を一つ。
ハッとしたようにアシアスはソファーから降り、ファラトゥールの前に跪いた。
「大魔法使いファーラ様にお会いでき、大変うれしく思います。また、許可もなくこの部屋を使用していた事に対し、謝罪いたします。大変申しわけありませんでした」
あっさりとファーラであることを受け入れ、謝罪してくるアシアス。
「・・・お前は、私がファーラだと信じるの?」
普通は疑うだろ・・・五百年前の人間だよ?今生きてるわけないじゃん。
心の中で盛大にツッコミを入れながら、疑わし気にアシアスを睨め付けた。
そんなファラトゥールの心の声が聞こえたのか、写真でファーラの姿を知っていた事を明かした。そういえば・・と写真を取り出し、ほぅ・・・と、息を吐いた。
「・・・なんて懐かしいのかしら」
使用人夫婦だけが写っている写真を見て、ファラトゥールは懐かしそうに眼を細めた。
それは何処か哀愁が入り混じる、嬉しそうで悲しそうで切なそうで・・・
アシアスはそんなファラトゥールを静かに見つめていた。
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