第18話 実家に帰らせていただきます!

「あのでっかい塀がある所まで行ければ安全だよ!」

「分かりました」



 ヒノキを抱き抱えるとランカは走った。

 既に獣の耳はなく、それでも動物のようなスピードでランカは走った。

 ランカに抱えられながらヒノキはモバイル端末を触っていた。



「地獄への片道切符だ! とっときなよ」



 痴漢撃退用とは名ばかりの、軍事兵器に匹敵する破壊力を持った光学兵器が放たれた。



「光の剣!」



 ランカがそう叫ぶ。

 ランカに抱えられていた為、うまく狙いが定まらず、車のタイヤ部分を破壊するに至っただけだったが、十分な足止めであった。

 端末の拡声器機能を使うとヒノキはそれで話した。



「どうせ、私から兵器を買ったテロリストの組織のどれかだろう? 全く、私は恩を感じられても恨まれるような事はしていないぞ! それでも、もし私に仕返しがしたいならこの坂の上のひまわり園に来るがいい。そこで話合おうじゃないか!」



 ヒノキはランカに抱えられた状態で、テロリストに手を振った。

 今まで揺られていた身体が止まった。

 後ろ向きだったヒノキは前を見ると、ひまわり園と書かれた大きな門が目に入った。



「あぁ、開門のパスがかかっているんだよね。ちょっといいかな?」



 ヒノキはランカから降りると、タッチパネルを触ってパスを入力した。するとそれはエラーを返した。



「マーマの奴、またパス変えやがったな」



 端末を繋ぐと、ヒノキが開発したハックアプリを起動した。

 米印が並ぶパスをタッチしてスライドすると、米印のパスワードが表示された。



「ふっふっふ、何のステルスもしないでパスを変えるだけなんてお馬鹿だよ。さぁ入ろう」



 開門された扉の先には、重火器を構えた大勢の人間の姿が見えた。溜息をつくと、ヒノキは両手を挙げた。



「ふぅ、チェックメイトだね。参ったよ」



 大きな旧式の突撃銃を持ち、軍事用のゴーグルをつけた人物がゴーグルを外した。

 それは年配の女性だった。その女性がニカっと笑う。

 少年のような笑みとでも表現するのが一番であろうか? そんな笑みを見せると言った。



「こんな小さな孤児院に大犯罪者が何の用だい?」



 クスクスと笑うとヒノキは言った。



「実家に帰ってきた働き者の娘にかける言葉がそれかい? マーマ」

「そんな不良娘は私は知らないね。働いてお金も入れないような娘はね」

「私が仕送りしようとしても、断るじゃないかぁ!」

「兵器売って作った汚い金なんて誰がもらえるかい」

「金に綺麗も汚いもないだろう? マーマはいつもそう言う」



 マーマとヒノキが呼んでいる人物はランカを見ると言った。



「ヒノキ、あんたの娘かい?」

「違うよ! 私の研究所の大切な名コックだよ」



 マーマはランカの手に触れると言った。



「この子はお馬鹿だから、変な事されたり言われたらすぐにでもあたしに言うんだよ? すぐにぶん殴ってあげるからね」

「いえ、私はヒノキ様によくして頂いております」



 そう言ってランカはマーマの手を両手で包んだ。



「ランカ君、ここが私の育った孤児院『ひまわり園』だよ。捨てられた私とマーマは血は繋がっていないけど、家族だ」

「とっくの昔に勘当したけどね」

「全く、ただいまを言わせてくれないねぇ」



 マーマと孤児院の職員と子供達は大声で笑った。

 ヒノキと、ランカもつられて笑った。 

 その時に、けたたましい音が響いた。最新鋭の兵器を持ったテロリスト達が門の前に集まっていた。



「ヒノキ・ゲシュタルトぉおお! 貴様から買った兵器、どれも政府の兵器より少し弱く作ってやがるだろう! いくら払ったと思ってるんだ? 死んで償え!」



 孤児院の皆が銃をテロリストに向ける中、ヒノキは手を上げて銃を降ろすようにジェスチャーした。



「いいがかりだね。君達が欲しい物を私は売っただけだよ。それを改良するかしないかは君達しだいだね。君、あれだろう? パソコンのメモリー増設とか出来ない口だね? メーカーのデフォルト状態で使ってスペックが足りなくなったらクレームを言ってるだろう? 私は何でも自分専用にカスタマイズするけどね。兵器もそうできれば、君はイラだたず、私は命を狙われず万々歳だったわけだ。全部君が悪いんじゃないのかね?」



 ヒノキの語る話にキレたテロリストの男はヒノキに向けて最新鋭の銃を撃った。

 しかし、それはヒノキには当たらず。ヒノキの目の前の地面に焦げた後を残した。



「ちっ外したか、何が最新鋭の狙えば必ず当たる銃だ! このペテン野郎が!」



 ヒノキを守ろうとしたランカも前に出さずにヒノキはモバイル端末を操作した。



「連絡を取るんじゃねぇ!」



 銃を連打し、光線を放つが、それは先と同じくヒノキの前の地面を焼くばかりだった。



「ここまで外れる事はなかったハズだ! 何をした?」



 ヒノキは笑った。



「あっはっは、やっぱりデフォルトで使ってるんだね? 私の作った武器では私を殺せないようになってるんだよ。ようは当たらないようになってる。私を射殺したければ、マーマ達のように旧式の重火器を使うのがベストだね。さて、話合おうと確か言ったよね? 次は私の兵器の声を聞いてもらおうか? サテライト!」



 ヒノキがそう言うと、孤児院の地面から夥しい数の兵器が現れた。実弾兵器、光学兵器、数々の銃口がテロリストをロックしていた。



「さて、まだ続けるかい? 私が一声かければ、これらは容赦なく君達を蜂の巣にする。さぁどうする?」



 ヒノキはボードゲームをするように、テロリストの次の手を聞いた。テロリストのリーダーは歯を食いしばり、震える唇で言った。



「くっ、今日はこれで引く、次は命を貰うぞ。ヒノキ・ゲシュタルト」

「あげれる命はないね。売ってあげる兵器はあるけどさ」



 ヒノキを睨み付け、テロリストのリーダーは仲間を引かせると、しぶしぶ自分も『ひまわり園』を後にした。

 完全にテロリストがいなくなり、ヒノキは孤児院の兵器を全て元の場所に格納させると笑った。



「まぁ、ざっとこんなもんだよ。『ひまわり園』を狙う者用の殲滅兵器だよ」



 ヒノキの頭をマーマは殴った。



「痛っ! 何するんだよ?」

「それはこっちの台詞だ。何勝手に秘密基地みたいな武器を作っている?」

「使い方置いていくからさ」

「全くこの子は、飯喰って行くのかい?」

「うぅん、今日は帰るよ。ランカ君にこの世界でも知っている事がある事を教えたかっただけだしね。これだけ何でも手に入る世界でも人は人を捨てる。そしてそれを拾う者もいるってことさ。まぁ拾ってくれてありがとうマーマ」



 ヒノキ達は孤児院を後にすると、電車とバスではなく高速便という小型の飛行機で研究所近くまで乗って帰った。



「ふぅ、自分の家が最高に落ち着くねぇ。こうビールをきゅっと……しまった! ビールを買い忘れた」



 本末転倒。元々、ビールを買い出しに行く事が目的だったが、それをすっかり忘れてしまっていた。

 ビールが飲めない事に閉口していると、ヒノキの頬に冷たい感覚が伝わった。



「んっ?」



 それは紛れもない缶ビールだった。ビールを持っているカストに驚きながら、ヒノキは聞いた。



「カスト君、これは?」

「やけに遅いので、道草くってるだろうと、近くのスーパーでハイネケンをケース買いしときました。経費で落として下さいね」



 そう言って領収書をヒノキに渡すカイトを見てヒノキは叫んだ。



「でかしたカストくぅん、今月の給料は色をつけてあげるからな!」

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