第2話 『go out of Brave……』 (最終兵器の消失)
饒舌に語るヒノキの話を聞きながらカストは再び新しい煙草に火をつけた。ヒノキはこの研究所に数多の兵器を保有している。
それらはあまりにも異常な火力と能力を有しており、あるいは地球連邦とやり合う事が出来るかもしれないと考えていた。
とはいえ完全なテロ行為であり、犯罪の片棒を担がされる事は困るなと、カストは一応聞いてみた。
「博士、ホントにやるんすか? 捕まりますよ? あるいは処刑とか?」
ヒノキはあからさまにつまらなさそうな表情をして言った。
「全くどうしたんだね? 誰かが汚れ役をしないといけないんだよ。このつまらない世界は私が変える。いいかい? 戦とは勝った方が正義なんだ。そして、そうするだけの準備と理由を私は整えてきた。異論は認めない」
聞いてみた自分が馬鹿だとカストは思った。
もし、自分が何もしなくてもヒノキは勝手に事を起こす事だろう。彼女は言った事を実行しなかった事がない。
「さて、デビルレイが機動出来る迄、もうしばらく時間がかかりそうだね。いやぁ、ここまで来るのに随分時間がかかったものだよ」
ヒノキは嬉々として大量の原稿用紙を纏めて机に軽くトントンと打ち付けて整えていた。
「博士、それは?」
よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに、満面の笑顔でヒノキはその原稿用紙を抱きしめた。これが学校であれば文学少女が執筆した自作小説だったかもしれない。
「これは、私が三ヶ月の歳月をかけて書き込んだ。連邦に対する
「はぁ……」
何処にも心躍るポイントはなかったが、ヒノキにとっては重要な所なのだろうとカストは納得。
ヒノキはこのような歪んだ考えと、それを実行しうる技能と知識を有している。様々な組織の勧誘は元より、衝突も絶え間ない。彼女の収入源はテロリストへの武器の横流し、もちろんヒノキが作った兵器は強力すぎる為、地球連邦を脅かしかねない。
それをするのは自分の仕事だと、あえてパワーバランスを考えた武器を売っていた。
そして、武器を売った後にヒノキはいつもこう言った。
「彼らは愚かで武器を作る事が出来ないから、与えられた武器を使うしかない。それは地球連邦の引いた法の中で生きる事となんら変わらない。そんな者達が世界を変える? おこがましいにも程がある。神が作った世界を人の力で変える為には神を越えるしかない。それが出来るのは世界でもこの私、ヒノキ・ゲシュタルトだけだよ」
この考えに賛同した組織もあった。
ある意味では世界を裏から動かしている研究者の組織からの勧誘。
しかしヒノキは丁重に断った。
「君達の力は何だ? 金か? 数の力か? 無能な研究者が揃いも揃って、私と同じ場所に立とうと? なんという愚かな人間だよ。地球連邦を落とした暁には君達とも遊んであげよう」
もちろん、失礼なヒノキの態度にその組織は激怒し、ヒノキの命は狙われた。
だが、同時にその組織の持つ施設の数十カ所が爆破された。
そしてその組織にヒノキはこう言った。
「教えてやろう。私の心臓が止まれば、この惑星を消滅させる旧世代の光が満ちるだろう」
嘘かホントかは全く分からないが、それ以降、ヒノキへの接触はピタリと止まった。ヒノキの力はその圧倒的な影響力だった。
世界的に指名手配になってもおかしくない行動の数々だが、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに皆、見て見ぬフリをしていた。
それが故に小さなヒノキの身体から溢れんばかりに肥大化してしまった邪な考え、今まさにそれが溢れ出し、実行されようとしていた。
世界を巻き混み、憎悪が憎悪を、悲しみがまた憎悪を生み出すそんな世界が始まる……はずであった。
「それでは、デビルレイの起動と行こうか?」
ヒノキは綺麗な顔をしたデビルレイの頬をプニプニと抓った。
「これはただの人工皮膚じゃないよ。ある程度のダメージなら自己修復する。相手の火力、出力、構成を即座に分析して、それに応じた戦いが出来る頭脳。そしてまだまだ秘密の装備があるんだよ? 私の野望を叶える最終兵器、デビルレイ、起動!」
そうヒノキが叫んだ瞬間。デビルがその場から消えた。
そう、シュンと消えたのである。それにはカストが目を見開いて感嘆の声を上げた。
「これは凄い!」
ヒノキの言うその隠された能力の一つと思いカストはヒノキの方を見ると、大量に冷や汗を流しているヒノキの姿があった。
そう、明らかな同様を見せていた。
「博士?」
「うん、多分特殊能力だよ。うん、きっと。自ら成長する兵器だからさ。うん」
そう一人でブツブツと呟きながら、ヒノキは奥に消えて行った。
戻って来たと思うとポットとマグカップを持ってデスクに座った。そしてインスタントのコーヒーを入れる。
「カスト君、君も飲むかい?」
突然の行動に理解出来なかったが、カストは雰囲気に飲まれて頷いた。
「えぇ、頂きます」
ヒノキはカストにもコーヒーを入れ、自分のマグカップを両手で持つとそれを飲んだ。目を瞑り、何か物思いにふけるように天井を見上げてヒノキは言った。
「何処いっちまったんだろうな? アイツ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます