悪の科学者が最終兵器で世界征服しようとしたら異世界で最終兵器が勇者になった話
アヌビス兄さん
序章・最終兵器は勇者様
第1話 『Get in shape!』 (ヒノキ・ゲシュタルト)
「ふっふっふ、あっはっはっ!」
白衣を着て、茶がかった肩までの黒髪の少女が高笑いを上げていた。
否、馬鹿笑いかもしれない。
白衣の裾を引っ張る所から彼女の身長は低い。されど、反比例し彼女が笑う声程態度は大きかった。
「あっ、博士出来たんすかー?」
咥え煙草の金髪の男、年の頃は二十代前半と言った所だろう。その男がやる気のない表情でその少女に尋ねていた。
この男もまた白衣を着ている事から何らかの研究者であった。
「あぁ、出来たのだよ。この世界を蹂躙する程の力を持った最終兵器がね!」
この少女は所謂、
少女の目の前に百七十センチ程の大きさの何かに布がかけられており、その布に少女は手をかける。
「見たまえ! カスト君、世界を我々の物とする力の形を!」
カストと呼ばれたやる気のない男は、少女と少女の横にある布に隠された兵器を見ていた。
「天才科学者である私、ヒノキ・ゲシュタルトが三年の歳月を持って生み出した!……名前なんだっけ? 君に依頼してたんだよな? 名前!」
少女……もとい悪の科学者の名はヒノキ・ゲシュタルトと言った。
数年前までその高い技術と深い知識を認められ、地球連邦の兵器開発の最高責任者であったが、あまりにも火力過多な物や非人道的な兵器を生み出しすぎ、注意を無視し続けた結果、地球連邦をクビになった経歴を持つ。
その後、様々な組織から勧誘を受けるも、それら全てを拒否していた。
ヒノキは自分を追いやった地球連邦に復讐を果たし、いかに自分の兵器が優れているかを世界に示そうと思っていた。
とにかく、ヒノキは自分の言う事。考えに、間違いは全くないと思っている。
そして、自分のする事に一切の悪意を感じない。
人間的に一部欠落した人間であった。
それ故に、彼女について来る者はいなかった。
「あー、四門の大気型ビーム兵器を持ってるので、悪魔の光。デビルレイと名付けましたが……」
カストがヒノキと共にいる理由はここがカストの就職先だからであった。
有名な大学を出たものの、中々就職口が決まらずにフラフラしていた所、怪しげな張り紙にアルバイト募集の要項を見た。
そこには『一緒に世界を変えませんか?』と恐ろしく汚い字で書かれていた。カストは向かった先で一人べらべらと喋るヒノキに何故か気に入られ、ここに雇われるに至っている。
「デビルレイ? なんてダサい名前だ! 君は仕事は卒なくこなすが、中々芸術センスが伴わないな。いや、それが悪いと言っているわけではない。我々技術屋は正常に動く物さえ作ればいい。しかし、私はそれだけではつまらんと思うのだよ? ユーモアさ。かの邪智暴虐な旧ナチスの独裁者も絵画を好んだと言うしね」
「はぁ……」
カストは曖昧な返事をするが、それを聞き流すかのようにヒノキは話を続けた。
「うむ、まぁそれが君のセンスだと言うのであればしかたがあるまい。君に命名を任せたのは私だからな。そこを気に入らないから変更するというのは二度手間だ。また、私の監督能力が低い事になる。そんな事はない。私よりも優れた人間なんてこの世にはいないのだから。故に、君のつけた名前を今回は採用する。苦笑してしまうセンスだがな。君の何でもこなせる気質は私は嫌いではないが、たまには余暇を使って芸術面も伸ばしてくれたまえ。まぁ、苦手な分野を伸ばすより、得意な分野を伸ばす方が遙かに効率がいいのだが、しかしだ。私と共に働ける名誉ある仕事をしているカスト君には私に少しでも近づけるように精進して欲しいのだよ。まぁそうだな。この兵器を私なら、連邦ホイホイZとでも名付けるな。おっ、即興にしては素晴らしいネーミングだな。連邦ホイホイ。捨てがたい。実に捨てがたしネーミングだが、今回はやめておこう。さて君の言うデビルレイのお披露目だよ」
よくまぁ喋るなとカストは二本目の煙草に火を付けた。ヒノキ・ゲシュタルト研究所は昨今珍しい作業場で喫煙OKもカストが就職を決めるに至った理由でもある。
ヒノキが思いっきり布を引っ張ると、そこには銀色の髪を持つ容姿端麗な少年の姿があった。
「さて、古代の芸術家は全裸の成人男性の像を作った。私は思うね。世で一番美しいのは
スポットライトに当てられた銀色の髪をした少年、肌は白く、瞳は閉じており、背中には複数のケーブルが繋がれていた。
「この見た目とは裏腹に、大気を取り込んで半永久的に機動する肺機関型エンジン、ガイスト機関を搭載している。私の作った連邦の無人兵器のゴキブ……名前通らなかったっけ? 正式名称はシュヴァルツ・チャクラム。あれを仮想敵とした場合。八十八%の確率で編隊三十機を十五分で殲滅出来る。そして連邦の連合艦隊を引っ張り出す。混乱に乗じて私達は宇宙の制空権を奪う!」
悪の科学者ヒノキ・ゲシュタルトの大いなる野望が始まろうとしていた。
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