第9話 とある異世界からの獣人来訪
「カルナ様、どうか健やかに、勇者様、カルナ様をお守り下さい」
城を出ようとした時、獣化しているランカの耳がピクピクと動いた。
普段よりも魔力に反応しやすいのである。
「これは……大広間の方から感じる」
城の護衛達も殆ど出払っている状態で今城を守る事が出来るのはランカだけだった。
ランカは迷わず大広間の方へと向かった。
「獲物がないのが少し閉口しますね」
目を開眼し、ランカは大広間へと入った。そこには勇者召還の儀式が執り行われた時のままであった。
「誰もいないのに、魔力の反応を感じる」
大広間をランカは注意して詮索した。
魔導の手解きをある程度学んだ事があるカルナだったが、ここに書かれている文様が一体何を意味しているのか全く分からなかった。
魔導書にも載っていないが、召還術式である事だけは目の当たりにしていた。何かが召還されようとしているなら誰かに伝えなくてはならないとランカは思った。
また勇者が召還されるのであれば喜ばしい事だが、もしこの魔法陣を介して招かざれぬ者が現れたら大変だった。
レイでも恐ろしい力を持っている。
それと同等で、レイのように友好的でない者であればこの国が滅びかねない。
ランカは魔法陣の力を止めれないかと呼応している魔方陣に自分のありったけの魔力を放った。
「止まって下さい!」
止まるどころか魔法陣は輝きを増し、その力も段々と大きくなっていた。
「しまった! 活性化させてしまった」
ランカの魔力を吸収して魔法陣はついに発動した。
目を開けていられないような閃光が辺りを包んでいた。
そして身体を各方面から圧迫されているような強い痛覚が身体に走る。
「ああぁ!」
目を開くと驚いた目でランカを見ている二人組と不思議な触手が見えた。
目が慣れてくるとそれは白く長い上着を来た少女。
自分よりもいくつか下に見えた。それと一人の男。
眠たそうな目で自分を見ている。この男はランカより年上に感じた。
「××、×××××」
少女はランカに話しかけた。
言葉は分からなかった。妙に偉そうなその少女に警戒しながらもランカはじっと見ていた。
手をポンと叩くと少女は何処かに行き、すぐに戻って来た。赤い宝石のような物がついたネックレスを持ってくると、それをランカの首にかけた。
「これで聞こえるかな? 私の作ったスーパー翻訳君だよ。言葉だけでなく。感情、ジェスチャー様々な所から分析して相手の言葉を伝えるスペシャルな道具だよ。君は誰だい?」
次は少女の言っている言葉が理解出来た。
「セイレーン王国でカルナ王の従者をしているランカです」
少女はうんうんと何度も頷いた。
「へぇ、セイレーン王国か」
少女はそう言うと男の方が次は喋った。
「何処ですそれ?」
少女に敬語で話す男を見て、従者か何かなんだろうとランカは咄嗟に思った。
「さぁ、聞いた事はないな。しかし中々の美人だねランカ」
ランカは驚愕した。セイレーンはスピンワールドでは第三の大国であり、どんな小さな集落でも知らないわけが無かった。
「セイレーンを知らないですって! 一体ここは何処の国なんです?」
「えっ、日本? だよね? カスト君」
「一応そのハズですけど」
ニホンニホンと触手が連呼していた。
ランカはニホンなんて国は聞いた事がなかった。
スピンワールドのまだ知らぬ遠くの国に来てしまったのだと思ったランカに少女は不思議な丸形の筒を渡した。
「これは?」
「ビール、とりあえず飲もう」
少女達が器用に筒の栓を外すと、そこから泡が景気よくあふれ出した。
それを美味そうに少女が飲み干すのを見て、ランカの喉がなった。
「で、では頂きます」
見よう見まねで栓を開けるとランカは口の中で爆発する不思議な酒を飲んだ。
「これは……苦みがまた旨味を引き出していますね。なんという飲み物ですか?」
始めて飲む酒、ランカは普段ワイン等のお酒も殆ど飲む事はなかった。
それでも今ここで飲んでいる酒がセイレーンにはない類の物である事だけは分かっていた。
陽気にこの酒を飲む少女の雰囲気に流されてランカも飲んだ。
レイに模擬戦で敗北して自暴自棄になっていた精神状態も後押しして渡されるがままに筒に入った酒を飲む。
「これ、これも美味しいよ」
少女は不思議な触手にチーズの乗った焼き料理を食べさせてもらっていた。
それは香ばしく美味そうな匂いがする。
頭を下げるとランカはそれを一口食べた。
口元に手を置き、咀嚼する。チーズと香辛料がよくきいており、今飲んでいる酒によくあった。
「とっても美味しいです」
「だよねー、ピザとビールとか無敵すぎるっしょ」
少女の方は相変わらず陽気だったが、酒の入った筒を舐めるように飲んでいる男の方がランカに質問した。
「貴女はこの本の事知ってますか?」
手元には大広間に描いてあった魔法陣が沢山描かれていた。
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