第8話 世界よ。これが俺TUEEEEE

「それでは、模擬戦、開始!」


 ケルトスは二人から離れた。その瞬間、ランカの瞳が開眼する。


「いあぁあああああ!」


 巨大な槍、刃の部分を布で覆ってあり殺傷能力は皆無だったが、その巨体さから相当な重量があるハズだった。

 それをランカは軽々と振るいレイに攻撃を開始した。


「ほぉ、その身体データからは考えられないスピードとパワーだな。だが、それでは俺には届かない」

「なんだとぉ!」


 ランカの攻撃を軽々と避け、払い。

 見ている側からも模擬戦ではなく。

 訓練にしか見えなかった。

 レイの指導を受けているランカ、それ程までに二人の力量の差を誰もが感じていた。


「あれが勇者様、実力の半分も出していないと見受けられる。凄い」


 六英からもその様子を見ていた他の兵からも感嘆の声が漏れる。既に勝負があったとイリアナが止めに入ろうとした時、ランカが槍を捨てた。手を組み呪文を唱える。一体何が起きようとしているのかカルナにも分からなかった。レイは余裕の表情を見せていたが怪訝そうな表情を作って言った。


「ランカからエネルギー反応、何だこれは?」


 ランカの瞳が青く染まり、髪の毛が白く染まる。そしてその頭から耳が生える。


「変異した。信じられん。地球の生物に該当するものなし、ストーン・ヘイト財団の生物兵器……該当なし」

「アオォォォォオン!」


 雄叫びを上げると冷静さを取り戻したようにランカは話し出した。


「勇者様、貴方の力は認めます。それでも私は負けられないんです! この姿になった私を止めれますか?」


 レイの視界からランカが消え。確認した時にはレイの身体は吹き飛ばされていた。クオータであるランカは自らの力に縛りを入れていた。それを解き放った時、元々のフェンリルの血が色濃く出てしまう。差別を恐れクオータの力を封印する術をかけられていた。それをランカは解き放ち、純血のフェンリルに近い戦闘能力を有してレイに対峙した。

 むくりとレイは立ち上がると自分の身体についた砂をパンパンと叩き落とした。


「止められるか? その質問の意味が理解出来ない」

「私の速さと力について来れるかと聞いているのです!」


 ランカは風のようなスピードでレイに詰め寄る。

 見ていた者は一瞬ランカを見失っていた。

 再びレイが吹き飛ばされると思っていた所、ランカは空を殴っていた。


「――なっ!」

「答えは可能だ。ランカ、お前の能力を再登録させてもらった。俺の仮想敵にシュバルツ・チャクラムという無人機がある」


 ランカはレイの言葉の意味が分からずに叫んだ。


「何を!」

「まぁ、聞け。言葉の意味が通じない事くらい既に承知だ。そのシュヴァルツ・チャクラムより俺は数十倍速い。そしてお前はシュヴァルツチャクラムより数十倍遅い。言っている意味が分かるか? 既にお前のスペックでは俺には勝てない」


 言葉の意味は分からないが、最後の自分ではレイに勝てないという言葉に口の端から血が出るくらい噛みしめた。


「分かりました。なら、広域魔術ならどうです!」


 呪文を詠唱するランカを見てケルトスは慌てて魔導騎士がいる所まで避難する。

 そしてランカを見たレイが反応する。


「さらにランカよりエネルギー反応感知」


 レイのデータベースには引っかからないランカのエネルギー反応に対してレイは完全防御をアンサーとして導き出していた。


「氷の精霊よ。私に力を! クロウカシス!」


 対象を取らない広域氷結魔法、捕らえる事が出来ないレイに対して唯一ランカが対抗する事が出来る魔術であった。

 限られた範囲内であれば確実に相手を捕らえる事が出来る。

 これで勝負は決したとランカは思っていた。

 一気に温度が下がり霧であたりが見えなくなる。

 その霧が晴れた時、ランカの開かれた目に映った物は、丸い何かに包まれたレイの姿だった。

 ランカの放った魔術はレイには届かなかった。獣化という醜態を晒し、自身の切り札も通用しなかった。

 それでいて尚刃向かうつもりはランカにはなかった。手を上げて言った。


「私の完全な負けです」


 降参発言にケルトスは頷いて言った。


「勝者は勇者様、これにて模擬戦を終了する」


 ランカは瞳に涙を浮かべてその場を走り去った。


「ランカ!」


 その様子を見たカルナは後を追おうとするが、その時、港を警備している兵が慌てて報告に来た。


「ケルトス将軍、大変です!」

「どうした。そんなに慌てて」


 落ち着かない様子で荒々しい呼吸の警備兵は港を指刺して叫んだ。


「魔物が……魔物の群れがこちらにむかっております! 尋常じゃない数の! 半日もしない内に奴ら上陸してきます。何とかしなければ」

「馬鹿を言うな! セイレーンは魔物が近寄れないようになっているハズ、何かの間違いじゃないのか?」

「では、将軍ご自身の目でお確かめ下さい」


 近くにいた魔導騎士が頷き水晶を出すと、そこには魔物の群れが海を越えてきている姿が映し出されていた。警備の男が言うように尋常じゃない数であった。


「我が国の海軍力は世界一。奴らを何としてでも止めるのだ」


 レイは魔導騎士の持つ水晶を持つとそれを珍しそうに見た。


「この中の奴らが、昨夜話していた魔物という奴か?」


 レイの質問にケルトスは頷いた。


「さようで」

「このカメラの役割をする道具の中に映っている物が魔物であるなら俺の標準兵装で十分に戦える。お館様、ご命令を、今なら魔物を殲滅するという命令に対して実行出来ます」


 少し考えた後に迷いのない表情でカルナは言った。


「勇者様、私達の国を守ってください」

「了解した。現時点からお館様の警護を第二優先とする。』の駆逐を開始する」


 そう言うと、レイの背中のブースターが動き出す。ゆっくりと身体が地面を離れる。

 地上にいるカルナ達が何とかレイの姿を確認出来るくらいの高さまで上昇するとレイはあたりを見渡した。


「港側、確認。ズーム、魔物の群れ、遙か遠方40000メートルより確認。どれも該当する生物なし。兵装は長距離砲撃、都市破壊砲」


 レイが手を前に出すと手首部分が引っ込む。大気を吸収してエネルギーをチャージしていく。


「チャージ、70、80、90、ファイヤー!」


 国にいた全ての人々が空に光が走った所を見た。

 そしてその瞬間、海が割れた。

 港で出向準備をしていた戦艦の乗組員達は海に一筋の線が入ると、そのまま魔物の群れが蒸発したと答えた。

 レイの使った砲撃は対地球連邦の連合艦隊とやりあう為の武器であった。

 そんな事を知らないスピンワールドの世界の人々は超強力な魔法だとそれを認識していた。


「対海獣用の呪文でもあれ程の魔術はない。異世界の魔法なのか、それとも神の力……」


 レイは魔物の群れの打ち残しを確認するとさらに砲撃を何度か繰り返した。

 全ての魔物を殲滅すると腕を元に戻し、そのまま地上へと戻って来た。

 カルナ達がレイにかけよる。恐る恐るレイを見つめる。レイはカルナを見つめると言った。


「魔物の群れ、駆逐完了」


 兵士達からは雄叫びが、勇者様万歳と何度も叫んでいた。カルナは片膝をつく。


「勇者様、貴方は神なのですか?」

「お館様、俺は最終決戦兵器三号機、デビルレイ。ヒノキ・ゲシュタルト博士に作り出されたジェノサドロイドです」


 生み出されたという言葉のみ理解出来た人々、イリアナがレイに質問する。


「勇者様を作られた方がいるというのですか? あれ程のお力を持つ勇者様をお作りになる方、それは本当に神なのですか?」


 首をレイは横に振った。


「神という存在は人間の偶像でしかない。ヒノキ博士はお館様達と殆ど変わらない人間の女だ。俺も話した事はないが、私がまだ生み出されている途中でよく力無き兵器は兵器ではないと言っていた」


 人間の女がレイを作ったという言葉がよく理解できなかったが、イリアナはヒノキに強く興味を持ってさらに質問を繰り返した。


「人が神のような力を持つ事が出来るのですか?」

「神の力という物は理解出来ないが、ヒノキ博士は膨大な知識を持っている。そして無限に近い発想力がある。それがお前達の言う神の力ともいえなくはない。科学の力とヒノキ博士は言っている」

「力無きヘイキはヘイキではない。力のない勇者は勇者ではない。ならば勇者様は誠の……ヒノキ様という大賢者様、会いたいものですな」

「すまないが、ヒノキ博士のいるゲシュタルト研究所への帰路が分からない。それは現時点では不可能だ」


 イリアナはふむと頷くと言った。


「異世界から来た勇者様は、旅の終わりに元の世界へと帰られたという。とりあえずはこの国で魔物と闘ってはいただけませんか?」

「承知している」


 宴の準備を始めると口々に話している中、ランカは一人城内にいた。

 空に閃光が走り、遠くの海が焼けた。

 光の剣、勇者様の力だと他の女中達が黄色い声を上げていた。


「海を割る程の力を持っているなら、カルナ様を守るには十分だな。私ははなから相手にすらされていなかった……ふっ馬鹿だな」


 ランカは自分がレイに負けた事でカルナを守る任から解かれる。

 そうなればランカはただの女中となる。カルナはランカをずっと使ってくれるだろうが、今まで程長く一緒にいれる事はないだろうと分かっていた。

 カルナの隣にはレイがいる。

 もう、二人っきりで森の果物を取ったり、カルナを乗せて馬を走らせる事もないだろうと、この国を離れる事を決意していた。

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