第7話 最終兵器の異世界召喚は間違っているのだろうか?
レイが上空に飛び立ち、数時間後にレイはカルナ達の元に戻って来た。
「地球上の座標で一致する場所無し。海に面した大陸、海抜は四百メートル。地形のインプット完了、降下する。サテライト、ゲシュタルト研究所、共に反応なし、ジャミング反応なし、サテライト、ゲシュタルトとの通信外距離にいる可能性大、お館様の警護に戻る」
大きな音と共にゆっくりと降りてくるレイに驚愕しながらも、カルナはレイの元に駆け寄った。
「勇者様、空を飛ぶ事が出来るんですね」
「大気圏外での行動も可能となっております」
「タイキ?」
カルナにとっては当然に分からない単語が飛び出したが、勇者は異世界の人間、知らない言葉があっても何らおかしくないと思いイリアナを見たが、一番の物知りのイリアナも首を横に振った。
空も飛ぶ事が出来る勇者に城内の人間は皆、歓喜した。
イリアナは片膝をつくとレイに頭を垂れて言った。
「まずは、カルナ様の護衛という形でも構いません、どうかお力をお貸し下さい」
「了解した」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
そのやりとりに大声を出した人物がいた。カルナの従者であるランカ。
「ランカ、従者の身分で何だ!」
将軍のケルトスがランカを睨み付ける。焦った様子でランカは言った。
「カルナ様の護衛は私が……」
「ランカよ。勇者様が自らカルナ王をお守してくださると言っているのだ」
ランカにも言いたい事は分かっていた。だが、自分からカルナの警護を取ったら何も残らなくなる。
そして、勇者がどれ程の力を持っているのか自分でも試して決めたかった。
「私と勇者様、どちらが強いのでしょうか?」
「乱心したかランカ!」
「私はフェンリルの血が流れています。単騎の力はこの国でも一、二を争うハズです。その私が勇者様のお力を確認させて頂けませんでしょうか?」
レイは空を飛ぶ事は出来たが確かに実際の戦闘を行っている所はまだ見れていなかった。
ランカの言い分も一理あるとしてイリアナはレイに尋ねた。
「勇者様のお力を疑うわけではありませんが、どうでしょう? この女中、フェンリルという強力な力を持つ一族のクォータでして、勇者様のお力を拝見しとうございます」
「了解、仮想敵をランカに指定。兵装選択……兵装利用をした場合、ランカが死亡する確率百パーセント、兵装利用不可、ランカの身体データから予想される攻撃力では装甲にダメージはない。戦闘行動が可能であれば言ってもらいたい」
既に闘うつもりでいるレイに慌ててイリアナは言った。
「もうこんな夜更けです。お疲れもしているでしょう。明日、太陽が一番高い所に立った時に模擬戦闘を行いたいと存じます」
「了解。戦闘モード解除」
ランカは頭を下げるとその場を後にした。カルナはレイに近寄ると言った。
「勇者様、ランカに怪我をさせないようにお願いします」
「了解しました」
レイを用意していた部屋に案内しようと女中の一人がレイに伝えたが、レイは拒否した。
「私の任務はお館様の警護。お館様の近辺で待機させてもらう」
それは寝室も共にするという意味とその場にいる皆がそう認識した。
「ゆ、勇者様、それは」
イリアナがレイにもの申そうとした時、カルナは顔を真っ赤にしてイリアナを制止した。
「よっ、よいのです。力をお借りするのに、代価は必要です。それが私だと言うのであれば、喜んでこの身を……」
カルナの申し出に六英達も何も言えずにカルナの寝室へと向かうカルナとレイを見送った。
カルナは俯いて顔を真っ赤にして小さな声で言った。
「あの、勇者様」
「なんでしょう?」
カルナはレイの顔をちらりと見た。
無表情であったが整った綺麗な顔と目が合う。再び俯くと言った。
「私、その初めてですから」
「初めて?」
「えぇ、ですのでその優しく」
「理解不能、お館様、具体的な説明を欲します」
頭から湯気が出そうになりながらカルナは自分の寝室の扉を開いた。
「どうぞ」
レイはカルナの寝室に一歩入り、中の様子を確認すると部屋から出た。
「勇者様、何かお気に召しませんか?」
「危険度無し。ゆっくりとお休みください。この扉の前で護衛を引き続き行います」
今から自分の操をレイに渡すつもりでいたカルナは、レイの行動に混乱した。
「えっと、勇者様は私とこれからその……」
「お館様、心拍数が異常値に達しています。お休みください」
「はい……うぅ」
レイの言葉の意味は分からないが、ニュアンスは大体理解できたカルナは恥ずかしそうに自分の部屋へと戻った。レイは目を瞑るとこの世界の言葉について整理していた。目を瞑って数時間計算を続ける。
「ベーシックモード終了。以降アドバンスモードで待機する」
レイがカルナの部屋の前で一晩を過ごし、窓の外からあ光が差し込んできていた。
朝の光、レイはそれを見ると眩しそうな表情をした。実際機械であるレイに眩しいという反応はない。
ヒノキがより人らしく機能するようにインプットしたプログラムによるものであった。
そんな表情をしていたレイが即座に身構える。
「誰だ? ここはお館様の寝室だ」
カルナの寝室に近づく何者かが姿を現した。それはカルナの従者であるランカであった。
「ランカか、何のようだ?」
ランカはレイを睨むと言った。
「カルナ様のお召し物です」
「分かった。俺が渡しておく」
そう言って手を伸ばしたレイの手を払った。
「これは私の仕事です」
「……分かった。入れ」
昨日と雰囲気が違うレイに違和感を覚えながらランカはカルナの眠る寝室に入った。
すやすやと眠るカルナに頬を緩めてカルナは服を近くに置くと優しくカルナに触れた。
「カルナ様、朝でございますよ」
「……ううん、おはようランカ」
「カルナ様、おはようございます」
「お館様、よく眠れたか?」
唐突に意識に視界に乱入してくるレイにカルナは顔を真っ赤にして言った。
「はっ、はいよく眠れました」
「それは良かった」
「その、着替えをするので少し外に出てもらえますか?」
恋する少女の目で俯いてそう言うカルナにレイは目線を合わせて言った。
「了解した」
近くでレイの顔を見て沸騰したように真っ赤な顔のカルナとそれが面白くないランカは部屋を出るレイを微妙な表情で見つめていた。
ランカはカルナの服の着替えを手伝っているとカルナはランカに尋ねた。
「ランカ、本当に勇者様と闘うの?」
「はい、私はカルナ様を守る力を勇者様が持っているか確かめたいです。私が負けるような事があれば私は喜んで今の任を降ります。負けるつもりもありませんが」
カルナの髪を優しくとき、手慣れた様子で後ろで纏めた。
「カルナ様、今日も美しゅうございます」
口の端を閉じていたカルナは強い口調で言った。
「私、ランカが怪我するの嫌だよ? 勇者様が私の警護をしてくださってもそれ以外は今まで通りだから……その闘わなくたったいいんじゃないかな?」
片膝をつくとランカは微笑んで見せた。
「もったいのぉございます。それでも確かめたいんです。私の最後のワガママです。許して下さい。カルナ」
『様』がついていない。
友としてのランカの言葉、嬉しくあり、そして決意の篭もった言葉にそれ以上カルナは何も言えなかった。
それから朝食の時もランカは普通と変わらずにカルナに給仕していた。
レイもまたカルナのすぐ後ろで無表情で立っており、それとは真逆にニコニコと笑顔の絶えないランカ。
この後にレイとランカが模擬戦とはいえ闘うと思うとカルナは気が気でなかった。
城内の訓練場ではレイとランカの模擬戦の準備が整っていた。
カルナの食事が終わる頃合いを見て、ケルトスが大きな声で叫んだ。
「勇者殿とランカは準備ができ次第、訓練場の方に、模擬戦を執り行いたい」
カルナが座るための豪華な席と、その両隣に六英が座る為の椅子が配置されていた。
まわりには大きな杖を持ち鎧を着た魔導騎士が四人並んでいた。
ランカとレイの戦いで飛び火した力をガードする為の王国屈指の騎士達であった。
ケルトスが何度も騎士達に緊急時の注意を促し、訓練場の真ん中に立った。
「それでは、勇者様とランカの模擬戦を開始したいと思う。勝負がついたと思った時点で私が止めに入る。勇者様もそれでよろしいか?」
レイは無言で頷いた。同じく、大きな獲物を持ったランカもまた無言で頷いた。
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