第14話 最終兵器にモンスターごときが勝てるわけがない!
レイは守るべきカルナの事を考えていた。
それはただの自分の主、命令されるがままに従う関係だったが、アドバンスモードで一緒にいると、守るという考え方が少し変わっていた。
いつもどんな時もカルナの事を考えていた。
彼女がランカがいなくなり悲しんでいた時、既に国内にランカがいない事は分かっていたが上空から全体のサーチをかけた。
彼女が笑っている姿を見るとエネルギーの充填が最大になるようなそんな満たされた感覚だった。
だから、レイは彼女が笑えるように自分が出来る事のアンサーを出した。 ヒノキが生み出した成長する兵器、その人工的に生み出された心が成長しはじめたのである。
「俺は、今程俺を生み出してくれたヒノキ博士に感謝した事はない。お館様を狙う者は全て抹殺する」
レイの瞬間最高速度はマッハにして7、標準でもマッハ3の速度で飛行していた。視野の中に三体の翼を持った人と鳥の合いの子のような生物が滑空しているのを捉えた。レイはその生物がセイレーンに向かっているガーゴイルであると水晶に映っていた姿から照合し適合させた。
「また。地球には存在しない生物だな。お前達がガーゴイルだな?」
ガーゴイル達は人の姿をして宙に浮いているレイに驚愕しながらも答えた。
「そうだ。我ら大空の支配者。神魔獣様の復活を望む者だ」
「神魔獣、お前達魔物の王と聞いているが、相違ないか?」
ガーゴイル達は顔を見合わせると頷いた。
「いかにもそうだ。お前は空を飛んでいるが、我々の眷属か何かか?」
レイはガーゴイル達を見据えて言った。
「俺はセイレーンの王、お館様に機動された最終兵器・デビルレイだ。お館様を狙う貴様等を抹殺しにきた」
レイのその台詞と同時にレイの目の前にいたガーゴイルはレイに向かって火炎の息吹を放った。
咄嗟の事によけきれなかったレイは業火に包まれた。
それを見た他のガーゴイルが呟く。
「愚かな。大空の支配者と言われた我らに刃向かうとは、もしカルナ王が我らの言う事を聞かなければセイレーンもこのような姿になるだろう」
業火が消え去ったそこには丸い何かに守られたレイの姿があった。
レイのオートガードが発動していた。
「ランカとの模擬戦でこの世界のエネルギー反応は記憶済みだ。どういう理論で貴様等がそのエネルギーを発生させているか理解出来ないが、ただ一つ言える事は、その程度の炎ではこの俺を破壊する事は出来ない」
無傷のレイを見てガーゴイル達は驚き、そして冷静に編隊を組んだ。前面と両サイドから三角形の形でレイを挟んでいた。
「翼を持たずに羽ばたく者よ。貴様は一体何者だ?」
「言ったハズだ。貴様等を抹殺する者だ」
ガーゴイルが同時に三方向から業火の息吹を放つがレイはそれをさらに上空に上がり回避した。随分高い所まで上がりガーゴイル達を見下ろしていると一匹のガーゴイルがレイと同じ高さに上がってきた。
「ほう、生物にしては中々やるな」
レイの余裕の表情を見てガーゴイルは叫んだ。
「貴様、この私を見下すか! その言葉後悔させてやる」
ガーゴイルは鎖を取り出すと、それをレイの腕に巻き付けた。そしてレイを引っ張って上昇する。ガーゴイルの息が真っ白に染まる中、レイは微動だにしなかった。
「ふっふっふ、寒さで声もでなかろう? 身動きもいずれ取れなくなる。そして、ここで私が鎖を外せばどうなる?」
饒舌に語るガーゴイルにレイは質問した。
「そんなに白い息で、寒いのか?」
「あぁ、寒いさ。だがお前がぐちゃぐちゃになる姿を想像すれば我慢出来るというものよ」
レイはガーゴイルと同じ目線に浮かび上がり停止すると言った。
「そんなに我慢しなくてもいい。寒ければ暖かい所にいけばな」
そう言うと次はレイがガーゴイルを引っ張り上昇した。上空にいけば気温が下がる。すぐに零度よりも気温が下がる。そして、それを越えてさらに上昇すれば気温は恐ろしく高熱となる。最初は何か叫んでいたガーゴイルだったが、既に意識はなく。熱にやられて翼が燃え落ち、その身体も炎につつまれた。レイが持つ鎖からも外れ。どんどん下へと燃え落ちていく。それに続くようにレイもまた降下した。呆然と燃え尽きていく仲間を見ている二匹のガーゴイルを捉える。
「あと二匹」
「貴様、我が同胞を殺した罪、ただでは済まさん」
ガーゴイルが鋭い爪を出してレイに向かって突進した。レイは少し動くとそれを回避する。何度もガーゴイルはレイへの突進を繰り返した。
「何故だ? 何故当たらない。ならばこれならどうだ!」
ガーゴイルが耳がいたくなるようなくぐもった声で何かの呪文を詠唱すると真っ黒な雷雲が辺りに浮遊していた。そしてガーゴイルはレイに指さすと叫んだ。
「ドーナドルフィ!」
全ての雷雲からレイに向けて雷の閃光が襲った。雷を放つと雷雲は少し小さくなり、その雷雲が全て消え去るのを待ってレイに視線を向けた。
「純粋な雷のエネルギー、確かに俺を倒す選択としては悪くなかった。だが、さっきの炎と全く同じだな。俺を倒すには力不足だ」
ガーゴイルの至高の雷を持ってしても目の前の敵には傷一つつけられなかった。ガーゴイルは憤慨して突進した。
「ちくしょう! 貴様は何者だぁああ」
レイにガーゴイルの爪がレイに届く瞬間、レイの腕から光の刃が現れた。そして、ガーゴイルを頭から真っ二つに切り裂いた。
身体が半分に別れたガーゴイルは何が起きたのか分からないまま浮力を失い地面へと落ちていく。
「都市破壊砲、出力10%、発射!」
レイの腕から次は光が放たれると半分に割れ地上へと落ちていくガーゴイルを焼き尽くした。
最後に残ったガーゴイルは一部始終を見て、理解した。
目の前の敵は自分の知識に余る存在である事を、そして本能がガーゴイルを逃走という一番安全な手段を取った。冷静に逃走するガーゴイルを見つめてレイは計測した。
「生物が時速700k/hを越えている。地球に存在した隼の降下速度を優に上回る。この世界は地球でないと断定。そして最後の一匹には聞きたい事がある。逃がさない」
ガーゴイルは戦闘では敵わないと悟ったが、逃げ切れるとそう確信していた。自分よりも速く移動出来る者を見た事がなかった。
スピカに戻り、報告をして立て直す必要があると思っていた。そして、隣に自分に並走している何かは自分の勘違いだと思っていた。
自分の同胞は強力な力をもつ人間のような者に殺された。もし、自分について来れる者がいるとしたら予想出来る者はただ一人だった。心を落ち着かせて横を見る。
「やっと気がついたか」
「ひぃい! 貴様、どうして私について来れる?」
「お前が遅くて、それに俺が追いつけただけだ」
ガーゴイルはピタりと止まった。
「どうしてそれだけの力があって私を殺さない?」
「お前には聞きたい事がある。神魔獣とは何だ?」
ガーゴイルはレイの言う事に対して答えた。
「神魔獣様は魔物の王と言っているが、神魔獣アームドゲドン様はこの世界の神だ。我々魔物を滅ぼせる力をお前は持っているが、神魔獣様は魔法によって生まれた存在と言われている。滅ぼせると思うな。魔術を完全に無効化するスキルを持っている神魔獣様をな」
レイはガーゴイルの発言と城で聞いた神魔獣の情報を一致させた。
「お前達も実の所、神魔獣という存在については何も知らないんだな」
レイはガーゴイルの頭に向けて自分の腕を前に出した。ガーゴイルは突然の事にレイに質問した。
「何を?」
「言ったハズだ。俺はお前達を抹殺する。お前からはこれ以上有益な情報が得られないと判断した。死ね」
何かの呪文を早口に唱えようとしていたが、それは慟哭へと変わって行った。三匹のガーゴイルを殲滅し、周りを見渡した。周囲に他の生物反応がない事を確認すると、セイレーンの位置をサーチし飛んだ。
一時間もかからない内に港が見え、レイの事を待っていたカルナの姿を見つけた。カルナの元で降下をし、目の前で着地した。
「お館様、ガーゴイル三匹の殲滅は完了した。お館様は誰にも渡さない」
カルナはレイを抱きしめた。
「ありがとうございます。セイレーンを守ってくれて」
カルナ達はソウマの巨大水晶でレイの戦いを見ていた。ガーゴイルと人々の戦いは今まで幾度となくあったが、その全てが大量の犠牲を出すものだった。
それをたった一人で三体のガーゴイルを一瞬で消し炭にした。
魔物の群れを焼き尽くし、海をも焼いた光と、そしてガーゴイルを真っ二つにした光の剣。
勇者の力があれば魔物達に打ち勝つ事が出来る。
城で見ていた者達の心を読んだかのようにレイは言った。
「スピカという所にいる神魔獣を殲滅する。それがこのセイレーンとカルナを守る最速の手段だと考える」
スピカの進軍、軍事国家バルカンが失敗した事。カルナが狙われた以上、討って出るしかなかった。外交を行っているアコが前に出ると話した。
「バルカンの使者に勇者様の事を話しました所、バルカンの王が興味を持たれ、その力が本物であればスピカ進軍に力を貸して頂けると仰っております」
レイの力とバルカンとセイレーンの合わさった力ならばスピカの強力な魔物達にも屈せず神魔獣を再び深い眠りにつかせる事が出来るとアコは語った。
「それは本当ですか? アコ」
「はい、是非バルカンの王が謁見をしたいと」
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