第13話 お待たせ! 異世界サイドだよ!
城に戻るとカルナは自分の部屋でずっとそわそわしていた。
「ランカが、ランカが何処にもいない! ランカどこぉ!」
慌てふためくカルナにイリアナが叫んだ。
「カルナ王、落ち着いて下さい。王である貴女のその姿を見ると皆不安になります」
イリアナに諌められ、しぶしぶ椅子に座るが、落ち着きなくそわそわしていた。
「勇者様が空からお探し頂けると言っております。きっとすぐに見つかるでしょう」
そう、レイがランカを探す為に上空からサーチをかけていた。
レイの中にあるランカのデータを照合し、セイレーンの隅々まで探していた。
降下し、カルナ達のいる城内に戻ったレイの発言にカルナは涙が出そうになった。
「ランカと思わしき反応が見つからない。俺のサーチ範囲にはいない。この国にはいない可能性が高いな」
この国にランカがいないというレイの言葉に顔を両手で覆うと涙を流した。
「ランカぁ……」
「お館様が望むなら、ランカを捜索に行く」
イリアナがそれには反対した。
「勇者様、貴方がいなくなるとこの国を守る事が困難になります。ランカがいなくなった事は私も心苦しい所ではありますが、どうかお待ち下さい」
そう言うイリアナを見つめるとレイは静かに言った。
「イリアナ、命令するのはお館様だ。さぁ」
「えっ、きゃあ!」
レイはカルナを御姫様抱っこし、その涙を拭いた。
「お館様には涙は似合わない。笑え」
成長する兵器、デビルレイの人工知能は乙女悩殺型一式というその女性好みの男へと成長していく物であった。
レイはカルナの理想の騎士、自分には優しく、そして強い男という絵本の王子に近い者になっていた。
そんな事は知らないカルナはさらにレイに惹かれて行った。
レイに笑顔を見せると首を横に振った。
「勇者様、ありがとうございます。でもイリアナの言う通りです。ランカは私の大切な友ですが、私はこの国の王。国と友を天秤にかけた時、それは国を守らねばなりません」
レイは目を瞑り、ルートを巡らせた。この場合の返答。
「そうか、分かった。俺はお館様に従うだけだ」
「ランカの行方を捜すのは優秀な兵を何人か出しましょう」
イリアナはそう言うと、部屋を出て行った。イリアナがいなくなり、カルナは自分のベットに腰をかけるとレイに話した。
「私とランカは生まれた時からの友人なんです。私はこの国の王の子として、カルナは森で捨てられた子供として、私の父である先代の王が森でランカを拾ったんです。共に育てられたのはランカがクオータだったからだと言われています。小さな農村だとクオータの存在は迫害の対象になる事が多いんです。私達力を持ったクオータが国を治めている事や、力を持ったクオータの略奪なんかが横行している地域なんかもありますから、当然かもしれませんが」
「力の使い方を間違えれば誰でも道を外れる。そこに普通の人間かクオータかという事は関係ない。それは俺も同じだ。力がより強ければそれは恐怖の対象になるだろう」
カルナを慰めるようなレイの言葉に微笑むと、カルナは話を続けた。
「そうですね。私はクオータでこの国で育ったから物心つくまで私達が恐れられている事を知りませんでした。ランカは人間と殆ど縁のないフェンリルという特殊な種族のクオータでした。父は生まれてまもない私とランカを同じ城内で育ててくれて、私達は姉妹のようでした。父が亡くなり私が突如王にならなければならなくなった時、ランカは私の従者となりました。文武を学び、私を守ってくれるとそう言っていました。私は、私の存在が彼女の幸せを奪っていると思い。ランカではない従者をつけてあげればと思ってました」
「それが俺か」
カルナは頷いた。
「それがこんな結果になってしまうなんて思いませんでした。いつも私の傍にいてくれたランカ、きっと今あの子泣いてます」
抱きかかえていたカルナを下ろす。
「大丈夫だ。ランカは俺と闘うような心の強い女だ。必ずお館様の元に戻ってくる。俺が出来る事はランカが戻ってきた時、こことお館様が何ら変わらないまま守り続けるだけだ」
「勇者様」
「デビルレイと呼べ。お館様」
カルナはレイの腰に手を回すと体重をレイに預けた。今までにないくらいに心臓の鼓動が高まる。
きっと世の同世代の女の子はそうしているんだろうと思いながら、カルナは目を瞑って自分の唇をレイに近づけた。
レイもカルナの身体を優しく抱きしめた。唇が重なると思われた瞬間、ドンドンとカルナの部屋の扉が叩かれた。
目を開けると見開いた目で自分を見つめるレイの顔が間近にあった。
慌てて離れると、恥ずかしさを紛らわす為にドアに向かって叫んだ。
「何ですか! 騒がしい」
それは女中の一人だった。
「申し訳ございません。王様、六英の方々がお呼びです。深刻なお話のようですが……」
「分かりました。すぐに行きます」
レイを召還した大広間へとカルナとレイは向かうと、一人の老婆が大きな水晶をに何かを映し出しており、それを六英達が見ていた。
「何をしているのです? ソウマ婆やに水晶術などさせて」
深刻そうな顔で老婆が言った。
若かりし頃は強い魔力で他国との連絡や魔物の危険察知などを行ってきたソウマ。
「カルナ様、私が今日目覚めた時に何かが近づいて来る事を察知したので、水晶術を使った所、ガーゴイルが三匹こちらに向かっております」
「ガーゴイル? そんな強力な魔物が、昨日の報復でしょうか?」
ソウマが首を振ると言った。
「ガーゴイルは知能が高く、単独で我々と争うような種族ではありません。おかしいと思って、彼らに話しかけてみました」
普通の水晶術は水晶に遠くの景色を映し出すだけだが、ソウマは水晶に映し出した相手と話す事が出来た。この国でもそんな事が出来るのはソウマくらいなものであった。
「それでガーゴイルはなんと?」
「力ある者を、カルナ王を捧げよと言っております」
「私を?」
「神魔獣復活の為に必要な存在と……」
「神魔獣って、このスピンワールドの半分を一度焼土と化したというあの? 神魔獣は異世界の勇者様によって倒されたのでは?」
セイレーンの初代王の時代に語り継がれた魔物の王と言われている神魔獣、魔術が一切通用せず。
その巨体さに各国滅びの運命を受け入れなければならないと思われた時、セイレーンの王が呼び出した。
異世界の勇者により神魔獣は滅ぼされたと言う伝説がスピンワールドにはあった。
「神魔獣はあまりにも強大、いかに異世界の勇者様といえどその身を封印する事しか出来なかったのではないかと。そして、神魔獣の復活には強い魔力が必要なのです。もし、カルナ様がそれを拒めば、ガーゴイルはセイレーンを攻撃するとそう言っておりました」
それに憤慨したのはケルトス将軍だった。
「そんな事承諾するわけないではないか! 兵を集めて戦の準備を!」
「お待ちなさい! ガーゴイルは空の支配者、上空にいる魔物を倒すには十倍の兵力が必要でしょう。何の策も無しに戦って大切な兵を失うつもりですか?」
カルナの最もな発言に黙る将軍。その時ソウマの大きな水晶の前にレイは立つと、その中の景色を見て言った。
「ソウマ、この場所はどの方角だ?」
突然そう言われたソウマは少し慌てて水晶を触る。
そして目を瞑りガーゴイル達が向かって来る方角を指した。
「この方向のずっと先でございます。船で3日、いえ2日程の距離でございましょうか」
「そうか、了解した」
レイは大広間を出るとソウマが指した方角へと向かった。
遠くを見ると広大な海が見えるだけで、ガーゴイルの姿は見えなかった。
「レイ様」
レイが振り返るとそこにはカルナの姿があった。レイはカルナの肩に手を置いた。
「お館様、大丈夫だ。俺は最終兵器、兵器以外の存在には負けない」
「ガーゴイルはとても強い力を持ってます。どうかお気をつけて」
その瞬間、ほんの少しだが、レイは微笑んでいた。始めて見るレイのそんな表情にカルナは赤面した。
今まで感じなかったレイの感情のような物を感じ取った気がした。
優しく、自分を想ってくれるレイ。
そんなレイが浮かび上がり、空を翔る姿を見えなくなるまで見つめていた。
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