第15話 異世界のお話はマジメだなー

 カルナとしても強力なバルカンが共に闘ってくれる事は心強かった。レイを見ると優しく微笑んでいる。それを見てカルナは頷いた。



「分かりました。バルカンの王と会いましょう。アコ、話をつけてください。バルカンへ向かう準備を行います」



 アコは深く頭を下げると、バルカンと連絡を取る為にその場を離れた。レイは新しい地域の名前が出た事で聞いた。



「バルカンとはどんな所だ?」



 ケルトスが頭を下げて言った。



「私がバルカンについては話しましょう。スピカ山脈と因縁深い国です」

「魔物が増殖しているという地域だな?」

「さようで」



 スピカに関しては各国 、現状を保留している中、バルカンは何度も準備を整え、進行を繰り返している。

 スピカ山脈に最も近い所に国を持つ宿命か魔物の襲来が日常であった。 その為、極力な魔術道具の開発や強力な魔術士の育成が盛んになっていた。開発された道具を他国に販売し、収入としていた。

 バルカンの開発する道具は強い魔物に効果的であり、魔物との交戦が少ない国はバルカンの道具が必須であった。そして、常に魔物の脅威と隣り合わせのバルカンは四方を魔力の障壁と金属の壁で覆われた要塞都市と化していた。

 そんなバルカンの王は自国の平和を望み、スピカ山脈の魔物の殲滅を悲願としていた。

 またスピンワールドで常に戦場に身を置くバルカンの王は短命であった。サラマンダという火を操る竜の一族の末裔であり、スピンワールドでも最強の力を誇る生物のクオータが治めていても現状維持がやっとである事がスピカ山脈の魔物の力の強大さが伺えた。

 どんな王なのかカルナが考えを張り巡らせていた所、アコが水晶球を持ってきた。



「カルナ王、お話をした所、バルカンの王、ハティオ王が自らセイレーンに起こしいただけるとの事です」



 それには六英達も驚愕した。敵国ではないが、同盟国でもない国に乗り込んで来る王など聞いた事がなかった。

 セイレーンは豊富な資源に満ちあふれている為、それを狙っての可能性も否めなかった。

 バルカンとセイレーンは遠く離れていた。速い船でも七日以上はかかる。バルカンの王を持て成す準備と警戒する準備を同時に行いたかったが、小さな飛竜に乗った少女とその少女の従者のような二人が城に現れた。

 少女は挑戦的な赤い瞳に赤い髪の毛をしていた。気品があふれるその少女。



「ここがセイレーンか、良い国じゃな? シスカ」



 シスカと呼ばれた従者の女は鋭い顔をしていたが、赤茶の髪に美しい顔をしていた。



「はい、空気がとても綺麗です」



 兵が剣を向けて叫んだ。



「何奴?」



 その言葉に従者のシスカが兵をにらみつけた。



「ここにおられる方こそ、バルカンの王、ハティオ殿下であらせられるぞ! 剣を見せるとは何事かぁ!」



 ハティオと呼ばれた少女はそのシスカと呼んだ従者に手を向けると言った。



「よいよい、無礼を働いたのは我らだ。鎧を持って降りるとしよう」



 二人は飛竜から降りると、少女が口笛を鳴らし飛竜はどこかへと去って行った。

 まっすぐに前を見て、全員を見て行くハティオ、カルナと目が合うと、カルナの前へと歩んだ。



「挨拶が遅れた。許して欲しい。そして、国内への無断侵入も許してくれると嬉しい。私がバルカンの王、ハティオだ」



 片膝をついて手を差し出した。



「ハティオ様!」

「おぉ、あのバルカンの王が……」



 六英達は口々にそう言った。スピンワールドで片膝をつくという事は、相手へ自分が下であると、国家間では最大の敬意の表現であった。それを見て、カルナは自分も片膝をつきハティオの手を繋いだ。



「ハティオ王、この度のご足労、なんの迎えも出せず申し訳ありません。私がこのセイレーンを治めるカルナです」



 今にも誰かを襲いそうな程気だっていたシスカがその様子を見て落ち着きを取り戻していた。

 ハティオとカルナは見つめ合うと何かをわかり合ったように手を離した。



「セイレーンの王がこんなに若く美しいとは、外の国には出るものだな」

「ふふっ、どうしてこんなに早くセイレーンに?」



 頭をかくとハティオは笑った。



「スピカ進軍で随分兵を疲弊させてしまったから、慰安旅行をかねて温泉に来ておったんじゃ。セイレーンの近くの源泉は傷によいと聞いておるしな」



 そう言ってハティオは楽しそうに笑った。

 そんなハティオにイリアナは頭を下げると話した。



「私はセイレーンの六英の長イリアナと申します。ハティオ王、一体スピカではどのような事があったのでしょうか?」



 ハティオが話そうとした時、ハティオの前にシスカは立つと言った。



「私はハティオ殿下の護衛。黒騎士のシスカです。そのお話は私がします」



 シスカによると進軍は随分うまく行っていたとの事だった。バルカンで開発された魔術の道具の成果もよく、八合目にさしかかった所、それが現れたと言う。



「恐ろしい魔物が現れたのです。あれは魔物と呼べるのかすら分かりません。アームドガーディアンと名乗っておりました。神魔獣を守る守護者と、そしてそれらは魔術が全く通用しなかった。私がハティオ殿下からお借りしている魔法の鎧で何とか食い止めて兵達を逃がした」



 その時の事を思い出すとシスカは苦しそうに語った。



「まぁそうそう、わし等は完全に敗北したんじゃ」



 逆に軽々とそう言うハティオ。



「わし等が破れるという事は、他の国々でもあれらには敵わん。それ以上の何かがなければな。わしは元来戦いなんて好きじゃない。そんな事より他国と商売しておる方が楽しい。しかし、バルカンの王族として生まれたわしはどうしてもスピカからの驚異を取り除かねばならん。そこで耳にしたのが海を焼き、魔物の群れを一瞬で殲滅したセイレーンの勇者じゃ、その力が本物であれば手を貸して欲しい。しかし、まだそれが本当の話と信じたわけではないがな」



 突如ハティオの瞳が鋭くなった。その瞳をまっすぐ見つめてカルナは言った。



「私たちの勇者様の力は本物です」

「なら、バルカンの秘宝、魔法の鎧よりも強いと言えるかの?」



 ハティオの見た先のシスカが持っている鎧。この世界では見た事のない形状の鎧と槍のような物を大事そうに抱えていた。



「あれは海を焼くとまでは言わんが、大地が溶ける程の力を持っておる。そして勇者殿とは何処おるんじゃ?」



 カルナの前にレイが立った。



「お主が勇者殿か、確かに見た事のない鎧に包まれておるの。魔法の鎧を着たシスカを倒す事が出来るか?」



 レイはシスカを見て言った。



「造作ない」



 その言葉にシスカは怒りの表情を見せた。



「血の気が多くていいのぉ、では二人を戦わせる事に問題はないな?」

「ちょっと待って」



 カルナの発言にハティオは面白そうに言った。



「なんじゃカルナ王? 自国の勇者が信用ならんのか?」



 カルナは首を横に振ると言った。



「レイ様、どうかシスカ様を殺さないように」



 シスカは瞳孔が開く程目を開く。カルナに飛びかかりそうなシスカの前に出ると、ハティオは言った。



「だそうじゃシスカ? 勇者様の力は相当なようじゃが。やめておくかの?」

「いえ、それ程の力と言うのであれば、私は死にたくありません。殺すつもりで行きます」



 そう言ってシスカは抱えていた鎧を身につけ始めた。

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