第4話 サイシュウヘイキとは神の言葉で勇者様
返事をせずに頷くと、カルナはそのまま気を失った。従者であるランカは美しいカルナの寝顔を見て微笑んだ。
「貴女だけは私が守ります。例え勇者が想像と違う者だとしても」
外はすっかり暗くなっていた。
空には星々が手を伸ばせば届くくらいに満ちる。そんな中で一際大きく赤い星があった。
「今日は獣星がよく輝いています。私にとっても幸運の日となるハズです」
目を開いて星に一礼すると、ランカはカルナに揺れを感じさせないように走った。行きの十分の一程の時間で城に戻ると、城門の前では六英達がカルナ達の帰りを待っていた。
「おぉ、ランカ戻ったか」
「イリアナ様、只今戻りました。王の禊ぎは終わりました故、少し王を休ませて……」
イリアナは首を横に振ると言った。
「それはダメだ。今この瞬間が最もカルナ王の力が高まっている時」
「……分かりました」
ランカはカルナの頬に触れようとしたその時、ランカの手をカルナが握り返した。
「ランカありがとう。私は大丈夫です」
城の大広間に秘術の準備は既に完了していた。
様々な文様の描かれた魔法陣が無数にあり、魔物との戦場でもこれ程の術式を必要とする物は存在しなかった。描かれた文様の真ん中に秘術書を置き、その前立つと、カルナは自分の魔力を放出した。
青白い力が目で確認出来る程の魔力量。
「デュラムキドウ・サーチ・サイシュウヘイキ」
そのスペルはセイレーン国やスピンワールドで一般的に使われている言葉ではなかった。
カルナの始祖である人魚族の言葉であると、ランカが不思議そうに見ているおり、イリアナが説明した。
「究極召還呪文。デュラムとは異世界。サーチとはこちらからの呼応を意味する。サイシュウヘイキとは神々の言葉で勇者を意味すると聞いている」
ランカは、セイレーン国の大賢者と言えるイリアナは何でも知っているなと深く頷いた。全ての魔法陣が様々な色に輝く。そしてその全てが赤い点滅に変わる。その瞬間カルナは叫んだ。
「ブッシツテンソウ・コード・ゼロゼロナナゼロ」
耳を塞ぎたくなるような凄まじい音、間近で大砲が発射された時の何倍も大きな音が大広間に響き、煙りで前が見えなくなった。
ゆっくりと煙が晴れていくと、そこにはバランスを崩したカルナと、それを抱えた銀の髪を持った少年が立っていた。
銀色の鎧に包まれ、その顔は美しく、神々しさを感じさせた。
その場にいた殆どの者がこの銀の髪をした少年が勇者だと確信していた。無機質に少年はカルナを見る。カルナは紅潮した顔で少年を見つめていた。
すると花弁のような唇を動かして少年は言った。
「弱い兵器など兵器ではない。玩具だ。が座右の銘であるヒノキ・ゲシュタルト博士より生み出された最終兵器。デビルレイ。お館様、命令を」
先ほど、イリアナが言ったサイシュウヘイキとは勇者を意味するという言葉を聞いていた者達から歓声が上がった。
「勇者様だ! 勇者様が降臨なされたぁー!」
カルナは少年を見て言った。
「デビルレイ勇者様」
「ご命令を」
再度、デビルレイはカルナの命令を待つようにそう言った。
「えっ? 命令? あっ、お願いですね! 魔物から、私達の国、いえこのスピンワールドをお守り下さい。勇者様」
目を瞑るとレイは呟いた。
「サーチ……魔物…………まもの……モンスター、モントラムなどと言われる存在しない生物を指す……お館様、エラーです。その命令は聞けません。存在しない者を倒す事は出来ません」
「そんな、勇者様」
デビルレイのその言葉の意味の殆どが分からなかったが、その場にいた全員が分かった事が一つあった。目の前の勇者は魔物を狩らないという事である。
誰よりもその発言に力を無くし、悲しそうな表情を向けるカルナを見て、ランカはデビルレイを強く睨みつけた。全員を見渡した後に、デビルレイは再びカルナに視線を戻して言った。
「破壊対象が不明確な為、この命令は保留とさせて頂きます。現状は私を起動させたお館様の身辺警護をさせて頂きます。ご不便があればなんなりと申しつけてください」
「えっ、あっはい」
周りに有無を言わさずそう決定したデビルレイに全員が何も言えないでいたが、イリアナが思い出したように言った。
「宴を、勇者様の為の宴の準備が出来上がっております」
妙な雰囲気になっているその場を変える為に六英達も頷き、各々に食堂の方へと歩いて行く。ランカがカルナを食堂へと声をかけようとした時、カルナが少し緊張した顔持ちでデビルレイに言った。
「大した持て成しが出来るか分かりませんが、勇者様、どうぞこちらへ」
「了解した」
数十メートルはあるような大理石で出来た豪華なテーブル、そこに海の幸を中心に沢山のご馳走が並んでいた。酒類も多種多彩であった。カルナは普段自分が座る席を引いてそこにデビルレイを誘導した。
「カルナ様! そこは……」
ランカが珍しく叫ぶが、カルナは首を横に振ると微笑んだ。
「いいのです。勇者様ですよ? ここに座るべきお方です」
そう言ってデビルレイをそこに座るように促すが、デビルレイは断った。
「状況判断、確認完了。その席はお館様の席である可能性、九十九パーセント。そこに座るわけには行きません。そして、その席は何処よりもお館様の警護をしやすいと判断しました」
そう言ってデビルレイはカルナを椅子に座らせると、一歩後ろに下がった所で真っ直ぐに姿勢良く立つ。もてなすハズの相手が食事に一切手をつけない為、一向に食事が開始されなかった。六英のケルトスは、胸を張ってデビルレイとカルナの前に来ると一礼して言った。
「勇者殿、私はこのセイレーン騎士団の団長を任せられているケルトスにございます。お食事は喉に通りませんか? セイレーンは水の国です。酒も自慢なのですが、どうしょうか?」
デビルレイに杯を渡すと、そこに茶色い酒を注いだ。その香りをかぐようにデビルレイは目を瞑って言った。
「成分解析完了。水分六十グラム、カリウム、ナトリウム、銅を主体としたアルコール。該当する物、主成分は不明。ブランデー。摂取する事で感覚が鈍る。高まる。多飲しなければ問題無い。お館様の身体値から摂取量を分析。完了。七十%をカット」
そう言うとデビルレイはグラスに注がれた物を口にした。
「異物侵入、排除開始。排除完了。お館様、こちらの量が適量となります」
自分の持っていた杯をカルナに渡した。
「ゆ、勇者様?」
人の使った。それも異性の使った杯を渡されカルナは動揺したが、デビルレイはそれを飲むように見つめた。カルナはデビルレイの強い瞳を見て頬を赤らめて頷いた。
「分かりました」
その様子を見て、ランカは拳を強く握りしめていた。目の前にあった果実のジュースをジョッキに入れるとそれを一気に飲んだ。
デビルレイは最初にブランデーを一口飲んだだけで、後は何も食べずにカルナが口にする物を見てはブツブツと喋りカルナの食事を見ていた。
宴の席が終わり、次々に六英達がデビルレイに跪き自己紹介をして行った。デビルレイは顔を見て名前を復唱していく。
「了解、各員確認を完了。一級警戒から外す」
イリアナはデビルレイの前で片膝をついて言った。
「この国は今、魔物の脅威が迫っております。我が国と、王であるカルナ様をどうかお守り下さい」
デビルレイは目を瞑って言った。
「サテライト、応答無し。ゲシュタルト研究所、応答無し。地形の確認が必要」
デビルレイはまわりを見渡し、外が見えるバルコニーに立った。
「ゆ……勇者」
カルナが名前を呼ぼうとした時にはデビルレイは浮かび上がっていた。
「ブースター1番、2番機動。続いて3番、4番機動。ガイスト安定推進システム機動。離陸」
デビルレイの鎧のような装甲の背中部分と太ももの部分が光輝いていた。これが悪の科学者ヒノキ・ゲシュタルトの作った新しい推進システム、大気を吸収してほぼ無尽蔵のエネルギーを生み出す物である事など誰も知るわけがない。
四つの光を放ち飛び立つデビルレイの姿を見たセイレーンの人々は口に揃えて言った。
「誠の光の勇者様だ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます