episode #49
医務室に着くと、そこではベッキーがデスクに向かっていた。
「ベッキー先生、おはようございます」
「あら、おはよう」
ベッキーは書類から顔を上げて言った。
「あの、さっきジム室でデイヴィッド・チャンさんに会ったんです。それでこれを先生にお渡しするように言われて」
そう言って美鈴が手の中の金具を差し出すと、ベッキーは目を見開いた。
「アナタ、ジムに入ったの?」
「はい。立ち入り禁止の張り紙に気付かなくて」
そう言って笑う美鈴にベッキーは驚いたように、髪を掻き上げた。
「信じられないわ……」
「す、すみません! やっぱりいけない事でしたよね?」
「ああ、良いの。アナタはうっかりさんだけど、そこはそんなに問題じゃ無いの。まさか彼が素顔を見られて取り乱さないなんて……」
ベッキーはそう言うとニヤリと笑った。
「やっぱり思った通り美鈴は面白いわ」
「え?」
「ううん、良いの。こっちの事よ。それよりデイヴィッドには何を聞いても大した答えは得られなかったでしょう?」
美鈴が頷くと、ベッキーは楽しそうに笑った。
「アレはね、そう云う奴なの。自己肯定感が低くて自分が大嫌い」
「そうなんですか? 凄い社長さんでテレビにもいっぱい出てるのに……」
「そうね、〝デイヴィッド〟は会社を守る為なら何でもする男だから」
どこか含みのある言い方だと美鈴は思った。こういう時に美鈴は自分がこの世界の新参者だと思い知る。多分、この二人には美鈴の知らない過去がある。それを美鈴が知る事は無いのだろう。
「……ん? 待って。ジムにいたのよね? それにその金具は包帯止めね……あの男ぉー! 絶対安静って言ったのに!」
ベッキーの背後に般若が見えるようだ。美鈴は後退りすると、
「わ、私はこれで失礼します」
そう言って、医務室から抜け出した。
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