episode #44

「全く、初っ端からやらかしてくれるわね」

 ベッキーのお小言が身に染みる。美鈴は小さくなって項垂れた。

「すみません。私のせいで……」

「美鈴のせいじゃないとは言わないけど、彼の場合は自業自得よ」

 そう言ってベッドで眠るデッドマンを指差した。ベッドに寝かされていると言うのに、仮面もマントも着けたままだ。

「外すなって言われてるのよ」

 ベッキーは医療班に運ばれて来たデッドマンを、ベッドに寝かせながら美鈴に教えてくれた。

「彼ね、素顔を見られるのを何より嫌がるの。だからヒーローの中でもデッドマンの素性を知っているのは極わずかよ」

「あの、ここでのヒーローは正体を明かすのが普通なんですか?」

「そんな事は無いわよ。完全に公表してスポーツマン感覚でヒーロー活動しているのもいるし、ヒーロー活動中は顔を隠して一般には知れないようにしているのもいるし。ただ、同じヒーロー間でも明かさないようにしているのは彼くらいなものね」

 ベッキーはそう云うとデッドマンを一瞥した。仮面で顔も呼吸も分からないが、胸が微かに上下している事で生きていると分かる。美鈴はベッドの脇に座ってデッドマンが目覚めるのを待った。ベッキーには放っておいて良いと言われていたが、美鈴はそれを断って代わりに椅子を置いて貰ったのだ。きっとデッドマン一人なら楽に勝てていた相手だ。自分がした事は足を引っ張るだけ……美鈴はデッドマンの見えない顔を見つめただ只管に自省した。

 そうして何時間もか経った時だった。

「……う……ん」

 デッドマンがくぐもった声を出した。

「デッドマンさん!」

 美鈴がデッドマンを覗き込む。暫くの沈黙の後、デッドマンが声を出した。

「……怪我は無かったか?」

「そんな! 私なんかよりデッドマンさんの方が……」

 美鈴がそう言うとデッドマンが首を振った。

「全ての人を守ると決めた時から私の命なんかどうでもいいと思っている。君が無事で良かった」

 相変わらず機械的な声の筈なのに、今はその声がとても優しく聞こえる。美鈴の目から涙が一筋流れた。

「そんな事、言わないでください。私はデッドマンさんに何かあったら、悲しいです」

 デッドマンが美鈴の顔を見ている。美鈴にはそう感じた。美鈴は涙で濡れた顔を拭った。

「……悪いが、少し一人で休みたい。席を外してくれ」

「あ、ご、ごめんなさい」

 美鈴は慌てて席を立つと、医務室から出ていこうとした。扉に手を掛ける。その時、美鈴の背中に言葉が投げかけられた。

「……ありがとう」

 驚いて美鈴が後ろを振り向く。デッドマンの表情は分からない。その胸は静かに上下していて寝ているように見えた。

「こちらこそ、ありがとうございます」

 美鈴は小さな声で礼を言うと、静かに医務室を後にした。少し歩いて美鈴はちゃんと謝れていない事に気付いた。明日、いや、デッドマンが本調子に戻ってから言おう。美鈴はそう考えて自室へと戻ったのだった。

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