episode #4

「はぁー、カッコよかったぁ」

 比奈子がアイスティーをゴクリと飲むと、それに勢い付いて大きな声を上げる。そして余韻を噛み締めるように目を瞑った。まるでお酒を呑んでいる時のお父さんみたい、と美鈴は思った。

「美鈴もそう思うでしょ?」

 身を乗り出すように言う比奈子に苦笑しながら頷いた。満足そうに頷く比奈子を見つめ、美鈴は冷たいミントティーをゆっくりと飲んだ。

 映画が終わった時、美鈴の喉はカラカラだった。手に汗握る展開の連続で、すっかり映画に見入っていた。その間中美鈴の口はポッカリと開けっ放しになっていたのだ。その事に気付いたのはエンドロールも終わりに差し掛かり、劇中曲の曲紹介が下から上に流れ去る直前だった。エンドロール中もしっかり映画の余韻に浸っていた美鈴は、突然喉からヒリリとした痛みを感じた。そこで初めて口が開いていた事を自覚したのだった。慌てて口を閉じると、余計に喉の渇きを感じる。一度意識が戻ってくると、どうしてもそちらにばかり集中してしまう。あれだけ食い入るように見ていた映画の画面が、今は全く頭に入らなくなっていた。エンドロールが終わると、スクリーンが真っ暗になった。そしてゆっくりとシアター内が明るくなる。その明暗の変化に美鈴は目を瞬いた。初めて映画館に通い始めた頃は映画館の音響に圧倒されて、見終わった後は暫く外界の音が小さく聞こえる程だった。だが、すっかり慣れた今はそんな変化など感じないようになっていた。それでもゆっくり明るくなる館内に、そしてそこを出た後の廊下の明るさに一瞬眩暈のような物を覚えるのだ。

「みぃーすずっ」

 腰を浮かし掛けていた美鈴の肩が不意に叩かれた。比奈子だ。美鈴は座り直すと、右隣に座る比奈子の方を見た。

「もうもう! 言いたい事いっぱいあるんだけど。早くどっか入ろっ!」

「うん、私も……」

 そう言いかけて自分は喉が渇いたのか、映画の感想が言いたいのか、どちらを言って良いのか分からなくなり美鈴は口を噤んだ。だが、比奈子はそんな美鈴の様子に自己解決をしたらしい。

「だよね。美鈴も喋りたいよね。いつものカフェで良い?」

「うん、私もそう思っていたの」

 カラカラに渇いた喉からはガサガサとした声が出た。美鈴は冷たい飲み物に思いを馳せた。

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