episode #63

 爆発音が狭い通路にこだまする。マットとバートが火の粉を物ともせずに狭い通路を走る。二人の前にナンバー五十九が立ち塞がった。だが、バートの目から発射された光線が、ナンバー五十九の眉間を正確に捉えた。叫び声も上げず倒れる巨体を避けて、二人は尚も走り続けた。

「本当に、君が来てくれて良かったよ」

 マットの言葉にバートが顔を顰めた。

「単独で乗り込むなんて……無茶は今回限りにしてくれよ」

「分かってるさ」

 そう気楽な声で答えたが、マットの右腕は酷く損傷していて時折火花を上げている。バートはそちらに目を向けて、小さく首を振った。

 その時だった。ガツンと言う硬質な音と共に、バートが横倒しになった。マットが足を止める。そこには血の付いた棍棒を持つナンバー五十九と、側頭部から血を流すバートの姿があった。

「バート!」

 マットが駆け寄る。バートは小さく呻き声を上げた。どうやら意識はあるらしい。だが、傷からは血が流れ続けている。マットが手当てしようと手を伸ばす。そのマットの頭に何かが押し付けられた。良く知っている感覚。これは銃口だ。マットは素早く辺りに目配せする。一体と思っていたナンバー五十九は七体にまで増えている。それぞれ手には武器を構え、明らかに敵位を顕にして二人を睨んでいる。対してこちらは満身創痍だ。なんとかこの場を切り抜けなくては。必死に解決の糸口を探るマットの耳に、知っている声が響いた。

「マットさん、私です。美鈴です」

 美鈴? マットがもう一度辺りを見回したが、美鈴の姿は何処にも無い。この状況では声も出せない。それは美鈴にも分かっているようだ。マットの返事を待たずに美鈴は続けた。

「私がナンバー五十九をなんとかします。直ぐにここから逃げてください」

 なんとかするって……そうマットが思った時だった。マットに銃を突き付けていたナンバー五十九が、突然苦しみだしたのだ。喉を掻きむしり、滅多矢鱈に銃の引き金を引く。だが、弾は発射される事は無く、ナンバー五十九は白目を剥いてその場に倒れた。それがまるで他のナンバー五十九にも伝播するように広がり、あっという間に七体全てが意識を失った。マットはそれを確認すると、美鈴に話しかけた。

「これは一体? こんな事どうやったんだい?」

「体を砂に変えて風に乗ってここまで来たんです」

「砂を風……そうか! 黄砂だね」

「はい」

「でも君の能力は天候を操る事だろ? 体を黄砂に変えるなんて力、いつ身に付けたんだい?」

 マットの質問に美鈴はやや間を開けてから答えた。

「……それは、この戦いが終わったら、ゆっくりお話しします。ここは私に任せて、今はとにかく逃げてください」

「そんな!……」

 そう言いかけて、マットは口を噤んだ。バートは依然危険な状態だ。自身も主力武器だった右腕が使い物にならない。これ以上ここにいても、お荷物になる事は明白だ。

「……分かったよ」

 マットはそう答えると、片手で器用にバートを抱き上げた。その瞬間、爆発音が響き、船体が大きく傾いだ。マットが体勢を崩し、取り落としそうになったバートを担ぎ直す。まだ地面はグラグラと、浅い揺れを繰り返している。

「機関部に先行していた砂が回路をショートさせたんです。ナンバー五十九はそこに集まる筈です。急いで逃げてください」

「ありがとう。君も気を付けて」

 マットが走り出す。美鈴からの返事は無かった。

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