episode #19

 美鈴はフッと息を吐いた。やっとこの椅子から解放される。どのくらい座っていたのか、気付いた時には縛られて椅子に座らせられていたのだから、中々の長時間だったのではないだろうか。ゆっくりと立ち上がる。もっと体が痛くなるかとも思ったが、何という事も無かった。この体で唯一良かった事は、並外れて頑丈な事だと美鈴は思った。

「ね、一緒に行きましょうよ」

 声を掛けられ、体を伸ばしていた美鈴は、慌てて居住まいを正した。声のした方を振り向くとライラが立っていた。

「改めてライラよ。よろしくね」

 人懐っこい笑顔でそう言うライラ。

「あ、あの、よろしくお願いしますっ!」

 美鈴が慌てて頭を下げる。

「そんなに畏まらなくても大丈夫」

 そう言って笑う彼女に美鈴は嬉しさで目頭が熱くなった。

「あらあら、今日は大変だったみたいだもんね。もう大丈夫だからね」

 優しい言葉に美鈴は何度も頷いた。

 美鈴が落ち着くのを待ってライラは声を掛けた。

「大丈夫? 行けそう?」

 美鈴が頷く。ライラに貰ったティッシュで目を押さえたが、もう涙は出なくなった。

「良さそうね。それじゃあ、行きましょうか」

「そうだね。早くしないとリチャードに文句言われるかも」

「ちょっと、アーサー? なんで貴方がまだここにいる訳?」

 ライラが怒ったようにジトリとした視線を向けるが、アーサーはどこ吹く風だ。

「僕だけ除け者なんて寂しいじゃないか。一緒に行ってもいいよね?」

 当然と言わんばかりの笑顔にライラは、

「お好きにドーゾ」

 と言ってため息を吐いた。

(アーサーって結構子供っぽい所があるのね)

 美鈴はそう思い、少しだけ安心した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る