第3話 襲撃(2)

颯らかな

歌をうたって


仄昏い

火を眺めて



***



玄鉄 白恋の持つ武器は糸である。主人公らしく剣を持っているわけではない。

確かに〈剣聖〉からは剣術を教わったが、それを武器として持ち歩くには些か不便である。

彼の糸は魔力によって生成されるため、時と場合に応じて太さや強度などを調整できる。


「1度でも通った道には、極細の透明な糸を通してある。これなら迷わないだろう。念の為通電もできるようになってるから、敵が来たら電気を通して攻撃できる。その時は頼むぞ」

空き部屋を出て、とりあえず講堂とは逆方向へ進む。

この学園の敷地は広大である。競技場や講堂、各教室。本校舎の後ろには実際の戦闘を想定した自然環境のフィールドが広がっている。森林や火山地帯、海辺や砂漠、氷河など――その種類は多岐に渡る。

敷地面積にして、北海道と同等。それだけの面積の学園がどこにあるのかというと。

かつて沖ノ鳥島があった場所。つまりは太平洋上に浮かんでいる、人工島である。

魔法がこの世に出現し始めた400年ほど前。各国は魔法士を用いて自国の領土や領海を広げようと画策した。中でも海に面した国は、洋上に島を作ることで領海を広げるのに必死であった。その最たる例が、日本の沖ノ鳥島拡大である。行き過ぎた拡大が世界の非難の対象となったが、時の日本国総理大臣が〈十大魔皇〉1位に座していたため強行。後の世で、国立の学園として活用されることとなった。


「ねぇ、白恋クン。どうやってアイツらはこの学園に来たのかな」

仄火の疑問に、解決らしいスッキリとした答えは返せない。分からない――というほかない。

「だよねぇ。じゃあさ。何でこの学園なのかな」

――それは白恋も気になっている。何故ここなのか。どうして日本最高峰の学園なのか。ここにしかない何かがあるのか。特別な事情があるからこそ、ここをターゲットにしたのには違いないだろう。

でも、それも。答えらしい答えは出てこない。

多くの疑問が浮かんでは、消えていく。

それらの全てが解決しないままに、消えていく。モヤモヤとした気持ちが溜まるだけで、釈然としない。それでも。


「もう、誰かを護れないなんてゴメンだ。相手の理由とか事情とか知らないが、俺は―――」

白恋は。

「戦うことしかできないんだ」

それしか、彼には残っていない。

残ったソレも、全ては復讐のための糧でしかない。

「虚しいな」

彼はそう呟いて、足を進めた。



***



「講堂に奴がいません、明姐」

「え?あぁ――そう。逃がしたんだね?逃がしちゃったんだね?逃げられちゃったんだね?全くもってしょうがない。良いよ良いよ。許してあげる。お前が死ねば、許してあげる。ワタシってば、やさしー!!〈死神の息吹〉」

放送室の椅子に座り、お菓子の袋を雑に広げている少女。彼女は固有魔法を発動し、報告に来た部下を殺す。

「ふふっ!ふふふっ!死んじゃった!!カイトくんお亡くなり〜!!ギャハハハハ!!!!」

自分が殺したばかりの部下を指さして下品な笑い声をあげる。そして1番のお気に入りであるマシュマロを頬張って手を叩く。

「――テメェらも死にたくなけりゃ探せ。見つけろ。奴をワタシの所へ連れてこい。見つからなかったら全員殺す。マジに殺す。本気で殺す。1人残らず殺す。確実に殺す。ぜってえに殺す。早く行け!!」

態度も表情も一変し、冷酷な殺意を剥き出しにする。早く誰かを見つけろと指示を出しながらも、ガムを開封する。

「リョウヤくん。残ってワタシとイイコトしようよ」

ガムの箱を眺めて男を1人、呼び止める。

リョウヤと呼ばれた彼以外は、放送室から飛び出す。その部下達が聞いたのは、またも下品な笑い声だった。


「当たりが出ねぇから、テメェを殺してストレス発散してやるよ!!ギャハハハハ!!!」


聞こえないふりをして、彼らは走り出した。



***



花火は、火薬を玉に詰めて打ち上げる。簡単に言えばそれだけだが、そこにはいくつもの工夫がある。火の色を変えるには炎色反応を利用していたり、火薬の配置を考えたりして、思い思いの柄を作っている。

「――なんて」

なぜこのタイミングで、実家のことを思い出したのか。

仄火の父親は花火師である。職人気質で寡黙な男だ。言葉を交わした記憶はほとんど無いが、父が家族に向ける目は、いつも優しさと慈愛に満ちていた。何でもない日にケーキを買ってきたり、レジャー施設のチケットをどこからか貰ってきたりと、家族に対する愛があった。

母親は主婦で、週3回のパート。父とは対照的ですごいお喋りな人だ。コミュニケーション力の化け物で、誰とでもすぐに仲良くなる。どんなに疲れていても笑顔を絶やさない。

愛のある家庭で育った仄火は、〈愛されない〉というのがどんなものなのか、全く想像できない。だから、愛されたことのない人を、自分が愛してあげようと思った。


愛してあげたい。それは、全うな欲望なのだろうか。

きっと、正しい欲求だ。

間違っていない。

――行き過ぎた愛だとしても。それでも彼女は、人を愛する。


「――ッ!?」

問題なく進んでいたはずの3人の足が止まる。それは、眼の前に敵がいるから。

仄火の前に現れたのは。

仄火と颯歌の前に現れたのは。

「久しぶりじゃねえか――颯歌ァ」

かつて颯歌を虐待していた父親。

当時から〈観察者グレゴリオ〉のメンバーでは、と噂はされていた。

何があったかなんて関係無い。

颯歌にとっては。そして。

敵だ。

「――死ね!」

仄火は問答無用で短剣を投げる。その全てに殺意を込めて。

電撃を用いて威力や速度をコントロールしながらも、絶え間なく短剣を投げる。その技術は並大抵の努力で身につくものでは無いだろう。

敵意と殺意を剥き出しにした彼女に、事情を知らない白恋は傍観することしかできない。

「おいおい。それが大人に対する態度か」

短剣も電撃も、全てが男を透過する。

白恋とはまた別の、絶対防御。それが男の固有魔法か。

「大人――?アンタみたいなクズは、大人なんて言わない」

颯歌の怒りを。言葉を。思いを。後悔を。全て仄火が代弁する。

「白恋クン。ここはボクが――だから、颯歌を連れて先に行って」

仄火は颯歌を白恋に託す。

それを、断ることなど彼にはできない。

なぜなら、白恋は知っているから。分かっているから。

大切な人を守りたいという気持ちを知っているから。分かっているから。

そして――守れない悔しさを、痛みを。知ってしまったから。分かってしまったから。


だから、無言で頷く。

そうすることで、彼女の覚悟を受け取った。


立ち去る二人を仄火は見送る。

残ったのは、無限とも思える長さの廊下に二人。


愛されないことを知らない女と。


愛の与え方を間違った男。


刹那の静寂の後。電撃が奔った。



***



アメリカ合衆国・ワシントンDC上空1000メートル。WWO本部。

陸路からの侵入は絶対に不可能。空島を球体状に覆う磁場と電気シールドによる防御。そして世界最高峰の防衛システム〈AEGISーX・Mark Ⅵ〉によって、魔法や物理のありとあらゆる攻撃を迎撃する。

侵入は、絶対不可能。特権的に各国の要職や皇族は入れることとなっている。

その本部に、当然ながらアレクシアは入れる。瞬間移動で本会議場に飛んだ彼女。そして共にやってきた遠渡は。


「ガキが――何だ急に」

4位――〈天牢雪獄ニブルヘイム

ベトナム国籍―トラン・バオ


「……」

9位――〈隔絶者ラインマーカー

ロシア国籍―ディミトリ・イグナチェフ


「私のお酒はまだぁ?」

7位――〈泥酔龍ドランクドラゴン

ドイツ国籍―ララ・フォン・ヴィンケルマン


「オイ会議中だぞ」

10位――〈黒不死蜚蠊インモラル・イモータル

中国国籍―王 金龍


「飛び入り参加か!歓迎だぜ!!」

6位――〈紅蓮焔将ボルカノン

イギリス国籍―リチャード・ホフマン


「飛び入り参加って何だよ。〈十大魔皇〉に飛び入りできるかアホ」

3位――〈輝煌閃光アルベド

イタリア国籍―ベルナルド・カデロ


「――あぁもう!!ハイスコア更新まであと3点!!―課金しよ」

5位――〈凄惨隠遁カラミティ・エンド

アメリカ国籍―ミリア・ワトソン


「随分と可愛らしい二人ね」

2位――〈愛怨無尽エンドレス・ラヴァー

アメリカ国籍―ジョージ・ワトソン


「おや?ウチの生徒だね?」

8位――〈完全時計クロックワーク

日本国籍―草凪 咲良


「――アレクシア王女と西牙の倅か。何用で参った?」

1位――〈絶対勝者キング・オブ・ウィザード

アメリカ国籍―オスカー・グレイヴ


勢揃いした〈十大魔皇オーバーズ〉の放つ威圧感に、黙ることしかできなかった。


「え、えっと――」

並々ならぬ緊張感に潰されそうになりながらも、二人は説明を始める。それを真面目に聞く者もいれば、酒を飲んだりゲームをしたりして全く聞かない者もいる。


「わりぃけどよ」

説明を聞き終えて、真っ先に口を開いたのは4位のバオだった。

「お前らの話に信憑性が無いんだわ。全部が全部、お前らの作り話って可能性を否定できない」

「疑り深いにも程があるだろ。人間不信の権化め」

3位のベルナルドはバオに冷静なツッコミを入れる。

「――というか、その話がホントかウソか分からないけれどね。私たちもここを離れられないのよ」

何やら意味ありげな言葉を放つのは、2位のジョージ。

体は男。心は女。5位のミリアの姉(兄)である。

「そこを何とかならないですか?本当に、本当に観察者が来てるんです!!」


「だから、会議中で離れられねぇって言ってんだろうが!!」

バオの体から魔力が溢れ出す。彼を中心として一帯が凍結を始める。空気すら凍るほどの超低温。息は吐いたそばから凍り付き、口や鼻を覆い始める。

感情の昂りに呼応するかのように、その氷獄が広がっていく。


「めんどくさい男ね」

アレクシアが零す。その言葉が更にバオを刺激する。怒りに任せて自身の能力を暴走させる4位を前に、王女は嗤う。

「何笑ってんだ――テメェ!!王女だか何だか知らないが、ぶっ殺してやる!!」


「固有魔法――〈氷華千斬葬ダイアモンドダスト〉!!」

吸い込めば最後。体内に侵入した微細な氷の刃が全身をズタズタにしていく。傷口から更に氷の刃が入り込み、更に内側を引き裂く。これを無限に繰り返し、終いには内臓や骨、筋肉に至るまで。全ての体組織が微塵切りされてしまう。

そして――それを。

「〈氷華千斬葬ダイアモンドダスト〉」

アレクシアも、使った。


「―――はァ!?」

バオは驚き、目を見開く。その隙を逃さずにアレクシアは涙腺から氷の刃を侵入させる。それは眼球の周りの肉や筋肉を引き裂き、網膜と視神経を切断。一瞬の間に視力を奪われた彼は、痛みに耐えかねて固有魔法を解除してしまう。こうなればアレクシアの勝ちは揺るがない。

視神経から脳へと侵入。そのまま脊髄まで容赦なく犯していく。

「な――何なんだテメェはっ!!これは俺の固有魔法で――ぐぁぁぁっっ!!」

もはや打つ手なし。どうすることもできない。

「もう1度だけ聞くわ、4位。助けてくれるかしら?」

アレクシアは氷の刃を動脈に侵入させる。その気になればいつでもバオの動脈を切れる。

「――わ、分かった。分かったよ!」

「あらそう。最初から素直にそう言えば良くってよ」


アレクシア・レイルヴァイン。

レイルヴァイン王国第1王女。

その固有魔法は。

最高傑作ハイエンド〉という。

他者の固有魔法をコピーし、元の使い手よりも使いこなす能力。

――それは、

何を隠そう。アレクシアは世界でも稀な、複数の固有魔法を持つ者。

2色を纏うアレクシア。それは、色によって力が異なるから。蒼はコピー。そして赤は。

赤こそ、白恋が警戒した方の力。


――――である。



***



「オイオイ――もう息切れか?それとも、武器の短剣を全部出しつくしちまったか?あぁ――両方か」

男は、仄火の攻撃の全てを透過している。それが魔法によるものであるのには違いない。だが、魔力切れを起こす気配はない。対する仄火は、短剣を全て投擲している。そして、それら全てに、電撃を乗せている。

体力的にも、魔力的にも、限界が近い。


けれど、この男だけは。

この男だけは、何とかしなければならない。

なぜなら、コイツが生きているだけで、颯歌が不安になるから。

だから倒す。

愛を知らない颯歌のために。


「使えよ――お前の固有魔法」

男は仄火に、まるで悪戯っ子のような笑みを浮かべて唆す。


「使えないの知ってるくせに」

彼女もまた、理由あって固有魔法は使えない。

使わない。

それは、颯歌との約束。

颯歌を助けたあの日。颯歌を愛すると誓ったあの日。

颯歌が愛を知ったあの日。

何があっても使わないと、約束したから。

本当なら今頃、あの魔法を使った仄火は死んでいる。――死刑だ。

けれど、死んでいないのは、温情があったから。情けがあったから。

颯歌の家庭事情と、固有魔法の発動時の状況と、仄火の年齢とを考慮しての措置だ。


「俺の妻を殺したのは、その魔法だろ?なら、それで俺も殺してみろよ!!」

「断る!!ボクは汎用魔法だけで戦う。そう約束した。誓った。何があっても、使わないと。ここでその誓いに殉じることになっても、後悔はない」

「なら――そのまま死んで行け!!」

男は意趣返しのつもりか、汎用魔法の電撃を放つ。

それを防ぐだけの魔力も体力も気力も残っていない。


が、しかし。

それが仄火に命中することはなかった。


「――大した覚悟だわぁ。そういう人、大好きよ」

7位―〈泥酔龍ドランクドラゴン

ララ・フォン・ヴィンケルマンのお出ましである。

水でできた壁が電撃を吸収し、壁や床へと電気を逃がす。


「で――このむさ苦しい男が私の相手?」

ララは酒の缶を片手に、明らかに泥酔した顔で男をにらみ付ける。


「――ちっ!!」

男も勝ちの望めない戦いをするほど馬鹿ではない。

踵を返して逃げ出す。


「あらあら。急に逃げ出すなんて酷いわぁ」

ララは酒の缶を放り投げる。それは、ただ投げただけ。本当にただ投げただけの缶が。光速で飛んで行く。

この世界で最も早いのは、光速。それは魔法が現れてからも変わらない法則。光を上回る速さのものは存在しない。

光の速さに人間の反射速度が勝るわけがない。男が透過するより早く、缶が頭部に直撃。そのまま男の頭を消し飛ばしてしまった。


「つまらない男。酔いも興も冷めちゃった」

ララ・フォン・ヴィンケルマン。

ヨーロッパは魔法士による統治が最も早く始まった地域である。中でもドイツは魔法士が現れてから、国家の体制を全て入れ替えるのが早かった。

ドイツ魔法帝国。それが現在の正式な国家の名である。

そして、魔法王国の皇帝こそ彼女。

第十一代皇帝――ララ・フォン・ヴィンケルマン。歴代唯一の女帝である。

アル中だの愚帝だのと国民から言われているが、それも全ては国のため。

ドイツ魔法帝国を、世界最強にするため。

皇帝がだめなら家臣がまとまる。そして民も強くなる。

魔法社会のヨーロッパの覇権は、ドイツかイギリスか。

「あぁ――お酒が切れちゃった。早くアルコールを摂取しなきゃ死んじゃうわ」

震える手でどこからかお酒の缶を取り出す。そしてそれを1本。また1本。僅か30秒の間に5本を飲み干した。

「ヒック!うぃぃ――」

上体を大きく揺らしながら、おぼつかない足取りで彼女は座れる場所を探す。

「あ、あの――」

呆気に取られていた仄火は、礼をと思い声をかける。

「ありがとうございました」

「良いのよ。覚悟がある子は大好き。諦めない子も大好き。そのどちらも持っている貴女みたいな子も大好き。この礼は――貴女がおとなになったら一杯ね。一緒に飲む。それで良いわよ」

「――ハイ!!」

「行きなさい。貴女にはまだ、やることがあるんでしょ?」

それに力強く頷いて、仄火は走りだした。



***



白恋に手を引かれ、颯歌は廊下を進む。

二人の間に言葉はない。

なぜだか、不思議と。沈黙に心地よさすら覚えていた。

それは、二人が似ているから。


「待て、颯歌」

「――?」

白恋は立ち止まり、周囲を警戒する。

何かいる。そんな気がした。

だが周りにはなにもない。背後に白恋が倒してきた敵の死体の山があるのみ。

「何かいる?いや――そんなはずない。俺の探知にひっかからない敵なんかいるはずない」

師の一人である〈影〉―天位漆聖。その忍者から教わった気配を辿る技。姿が見えなくても、どこに何がいるのか分かる。これを極めれば、東京都全域をその探知の範囲内に収めることすらできてしまう。


姿が見えなくても、呼吸の音がある。動けば空気が揺れる。こっそり動いたって、足音を厳密に0にすることはできない。心臓は絶え間なく動く。

とにかく、そういった絶対に消せない物音を、超感覚で捉える技術。

――その技が、一瞬だけなにかを捉えたような気がした。

気のせいか。

気のせい?

――

そんなはずはない。

「――ん?」

周囲を警戒する白恋の服を引っ張り、颯歌が何か言いたげな顔をする。

「どうしたの?――って聞きたそうな顔してんな。――何かいる。この廊下に、何かいる気がするんだ」

白恋の言葉を聞いた彼女は。

「――ん!」

どんと胸を張り、任せろという顔をする。


「固有魔法―」

機械音声。

あくまでも固有魔法の発動条件は、その名を告げること。

それが第三者でも機械音声でも、別に問題はない。

「固有魔法―〈地を這い消え逝く幻想の劫火カタリナ・ステーク〉」

その音声と同時に、背後の死体の山が一瞬で燃え尽きた。

その後も、近くの部屋の扉であったり、蛍光灯であったり。周囲のオブジェクトが瞬きよりも早く灰となる。

どこが燃えるかは白恋には想像つかない。

だが、次第に灰と化していない場所の方が少なくなる。

――なるほど。

この固有魔法は、超火力で局所的に、一瞬だけ燃やす力か。すぐに燃え尽き火は消える。故に延焼はせず大した火事にもならない。

「――ん」

そして、ついに。

「あっちぃぃなぁ!!!」

見つけた。

男が一人。颯歌の固有魔法で右腕が灰になっている。


「―――吹き飛べ!!」

すかさず白恋が距離を詰め、相手の胸に掌を当てる。そして気を撃ち出す。

「ゴヘェ!!」

情けない声を上げながら勢い良く後ろへ吹き飛んで行く。


「いてて。でも――残念だな、お二人さん」

彼は立ち上がる。

焼け落ちた右腕と、穴の空いた心臓で。

余裕の笑みを浮かべて立ち上がる。


「固有魔法―〈幸運なる不死者プラナリア〉。飯のときも風呂のときも寝てるときも。常に発動し続け、俺様の体を癒やしてくれるありがてぇ魔法さ」

彼の右腕と心臓が再生される。

「俺様は、簡単に死なねえぜェ。俺の殺し方なんて、俺でも知らねぇんだからな」


白恋の呪いでは防げない魔法がいくつか存在する。

その1つが、敵のバフと回復である。

敵の回復を防ぐことはできない。

――相性は最悪だ。


「そうかよ。じゃあ俺らが見つけてやるよ――お前の殺し方をな」

「――ん!!」

「あぁ。そりゃあ期待してるぜ」


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