第5話 襲撃(4)―天牢雪獄
「真窮流剣術・秘剣の弍――」
突然、白恋は糸を束ねて刀を作る。そのまま流れるかのように秘剣の構え。目の前の世界2位を相手に、唐突に斬りかかる。
「――燕返し!!」
大きく振り上げた刀を、力のままに振り下ろす。床に鋒が着く直前に切り返す。半歩だけ踏み込んで刃を上にして振り上げる。言葉にすればそれだけの雑な技だが、その技を完成させるには途方もない努力が必要となる。
そもそも、刀を大きく振り上げた時点で腹部はがら空き。そこに攻撃されては秘剣も何もない。
次に、振り下ろした刀の鋒が床に着く前に切り返して振り上げる。
床に着いてはダメなのだ。床から遠すぎてもダメなのだ。床と鋒との間は僅か1ミリにも満たないほど。そこまで耐えての切り返しとなると、ほぼ不可能に近い。刀とは細長い武器である。柄があり、刃があり鋒がある。振り回すとどうしたって遠心力が生じる。その力は手元から離れれば離れる程に強く大きくなる。つまり、己の武器で最も遠心力の働く箇所が、1ミリにも満たない程の隙間を残して切り返す。それは単なる腕力や膂力だけでは再現不可能。
――だがしかし。これらの課題をたった15歳で解決できる者がいる。それこそ白恋だ。
がら空きの胴体への攻撃――〈反射〉の呪いで無効。
ミオスタチン関連筋肉肥大症により、遠心力など問題にすらならない体。
そして師の1人に〈剣聖〉――真窮流の開祖がいること。
〈燕返し〉の習得にこれ以上ないほど恵まれた体と環境。
これで〈燕返し〉ができない方がおかしい。
「当たらないわよ」
白恋の剣は当たらない。その思い込みによって彼女は回避をする。
否、正確には。
回避しようとした。
僅かに剣が鼻を掠める。切り返した刃は顎を裂く。
「――っ!?」
思い込みが。固有魔法が通じない。それはつまり。
どんなに努力しても2位にはこの男の剣技を避けることはできないということ。
「急に攻撃して悪かった。――でも、俺の技は〈
2位――ジョージの固有魔法とて無敵ではない。
今現在の人類にできることに限り、その思い込みを現実にできる。
逆に、全世界の誰も実現していないことはできない。
あるいはジョージと相手の魔力量の差や体格や技術の差があまりに大きく〈思い込み〉ななどでは埋まらない場合。その場合には思い込みを現実にできない。
白恋のこの秘剣は師である〈剣聖〉や〈影〉には通じない。よって、誰もが回避不可能の必中の一撃ではない。
ならば、ジョージが白恋の剣をくらった理由はただ1つ。
白恋の剣技が、ジョージの固有魔法では回避できない程に圧倒的である、ということ。
ただし、そこには大きな誤算があった。
「いいわぁ――とっても良い!!このアタシより強いオトコを求めていたのよ!!」
ジョージを滾らせてしまったことである。
ジョージが2位にいるのは、偏にその固有魔法の強力さ故。
彼女の〈思い込み〉が通用しないのは――つまり、彼女より強いのは世界1位のオスカーのみ。
どう足掻いても勝てない絶対なる壁。それが彼女にとってはあまりにも巨大で絶大。
その〈壁〉しか彼女の乾きを満たしてくれない。
それが、今。目の前に、新たなる〈壁〉が現れた。
思い込みにより、自身の体を極限まで強化し硬化する。それを音速を超える速度で放つジョージ。
だが、それは悪手。ジョージは白恋の呪いを知らない。故の悪手。
彼女の一撃は。ダメージは。痛みは。傷は。全て彼女自身に返る。
ジョージは己の拳の力を己で受けて、口から血反吐を吐く。そのまま腹部を抑えて蹲る。
「分かっちゃいたが、この〈呪い〉も通じるみたいだな――〈十大魔皇〉レベル相手にも」
「う、美しくないわ。私が跪くなんて美しくない!!でも、この私に勝負を挑む貴方の美しさ!!アタシどうしたら良いの!?」
彼女の中の〈美〉という概念は、おおよそ他人が推し量れるものではない。理解することはできない。だからこそ魅力的なのだ。
独特な感性。それは社会を渡る上で不要なもの。ラーメン屋に入ればラーメンを食べるし、寿司屋に行けば寿司を食べる。それが普通の感性である。
だがジョージは。C・Jは違う。
ラーメン屋では何故かメニューの端っこに小さく書いてある唐揚げ定食を食べるし、寿司屋に行けばこれまた何故かあるステーキを食べる。
その理由は〈美しいから〉のただ1点。
こんな変人は社会において真っ先に排斥されるはず。輪を乱す者は徹底的に虐める。これこそ個性を認めぬ近現代の教育の賜物だ。故に大人は、個性を認めぬ。個性を認めぬ大人に育てられた子供も個性を認めない大人になる。
――だがしかし。その変な感性は。独特な感性は。異常な感性は。
時に、凡骨の無能な一般人からすれば羨望の対象となる。
何故か。そんなの簡単だ。
自分はまともでいたいけど、変わった人になりたい――そんな矛盾を己の内に抱えるからである。
だからこそ、SNSやメディアが発展したこの時代には、変な人が溢れている。
そしてそれに憧れる一般人も溢れ返っている。
〈自分は独特な感性を持つ憧れの人と同族なんだ。でも自分は普通に働いてるから隠してるだけなんだ〉と思い込み、矛盾を強引に解決しているだけ。
だから、本当に変な感性を持っている必要はない。そう思われるような演技さえ上手ければ、人々から憧れの目を向けてもらえる。
ジョージのいう〈美〉とは、その程度の、安っぽい哲学でしかない。
けれども。だけども。しかし。
安っぽい哲学ほど笑われくないのもまた事実。
「〈貴方は反射を使えない〉!!」
そう強く思い込み。
そう強く叫び。
ジョージは再び殴りかかってくる。
そのジョージの思い込みは。
いとも容易く打ち破られる。
魔法士如きの思い込みで、どうなかなるレベルではない。これは〈神〉の与えた力。
〈禍水巫龍神〉――何の神様かも知らんが、とにかく神である。人智を超えた究極の存在に、人間が敵うはずもない。
その結果に、白恋は納得しつつもガッカリする。
「お前の言うところの〈美〉ってやつこそ、俺の生きる意味なんだ」
相手を跪かせること。
最後に立っているのが己だけであること。
〈勝利〉と〈復讐〉こそが。
それこそ彼なりの〈美〉であり、白恋の全て。
愛?美?
――くだらない。
そんなものがあったって、メイリアには敵わなかった。刃が立たなかった。
役に立たなかった。
大切なあのひとを。
大好きなあのひとを。
護ることなどできなかった。
「俺はメイリア・ヴェスターを殺す。親父を見返す。それだけの為に生きてる。お前ごときに負けてたら、達成できない」
「――今、何て?メイリア・ヴェスターって言わなかった?」
ジョージの顔が、苦悶から絶望へと塗り替わる。
「あぁ。俺はかつてメイリアに負けている。大切な人を殺された」
「そうなのね。――貴方、名前は?」
「玄鉄 白恋だ」
「白恋――ハクちゃん。これは忠告よ。警告よ。今から私の言うことをしっかり聞いてちょうだい」
そこには、白恋の〈反射〉に戸惑い敗れた2位ではなく。
世界で2番目に強い実力者としての彼女がいた。
両の脚で立ち上がり、傷を抑えながらもその眼は白恋をしっかりと捉えている。
「はい」
白恋も思わず敬語になるほどだ。
「メイリア・ヴェスターは。彼女は―――」
〈
その彼女は、今。
「奇しくも世界の均衡を保つ役目を担っている。彼女が死ねば、世界は終わる。戦争が始まるとさえ言われているわ」
この世界には、大きな力を持った3つの派閥が存在する。
1つはWWO。魔法士は加入が義務付けられた世界最大の組織。
2つめは〈
〈魔法士と非魔法士の人数が均等であるべき〉という思想を掲げる国際犯罪組織。
ある地域において魔法士が増え過ぎれば魔法士を。非魔法士が増え過ぎれば非魔法士を。間引いている組織である。
そして3つめ。
〈
魔法士こそ人間であり、非魔法士は魔法士の奴隷となるべき、という過激思想の宗教団体。教祖は昨年末に死に、その後を継いだ者こそメイリア・ヴェスターである。
このうちの1つでもボスがいなくなれば。その組織を徹底的に潰したり強力な魔法士を引き入れたり。ただその為に戦争が起きるとされている。
白恋が求めたメイリアの命。
それを奪った瞬間。
その瞬間に戦争が始まる。
「なんで、そんな―俺と戦った時には、どこにも属していなかったのに――」
「それはいつの話かしら?」
あれは、忘れもしない。
3年前の12月25日。
玄鉄 白恋が12歳のときである。
「そうなのね。メイリアが〈天与進権〉に加入したのは2年前の6月。つまり、ハクちゃんがメイリアと戦った約半年後よ」
メイリアに負け、呪いを身に宿し、父に捨てられ、大切な人が死んだ。
それから3年。国立・第九魔法学園に入学するまでの間、ただひたすらに師を求め教えを乞うてきた。様々なメイリアに繋がる情報を漁ってきたが、彼女が〈天与進権〉に加入したことなど、誰も教えてくれなかった。
「それはそうよ。WWOが箝口令を敷いたからね。――とにかく、ハクちゃん。貴方がメイリアを殺せば戦争になる。それでも貴方が復讐を遂げると言うのなら――〈十大魔皇〉だけでなく、WWOの〈
その言葉に。
瞳に。
嘘はない。一点の曇りもない、紛れもない事実。
だが、それでも白恋は。
「俺を拘束?2位でも勝てない俺を、どうやって拘束すんだよ」
復讐の為に生きることしかできない。
仄火が愛に。
ジョージが美に生きるように。
白恋には復讐しかないのだ。
「1位の言葉を借りれば、貴方は〈青い〉のよ。魔法士どうし戦いにおける勝敗なんて大した意味もないわ。魔法の相性次第では簡単にランキングの差なんて覆るわ」
とジョージは言ったものの。白恋にはそんな相性なんて関係ない話である。ありとあらゆる攻撃を反射する。
白恋はジョージに。そしてこの場にいる颯歌にも、自身の過去と呪いについて打ち明ける。
「そういう事情なのね。だとしても〈十大魔皇〉はあなたを止める。たった一人の例外もない。そうでなければ秩序は保たれない」
「そうか――そりゃあ残念だ。都合よくここに2位がいるし――まずはアンタを踏み越えていこうか」
白恋が再び糸を束ねて剣を作る。
それに対してジョージは。白恋に干渉するタイプの〈思い込み〉は全て反射される。それを踏まえて、固有魔法を発動する。
「相手の身体能力は倍になる」――と。
その思い込みは反射され、ジョージの身体能力が倍になる。
この、ありとあらゆる魔法や物理攻撃を反射する能力の弱点。それは、白恋に対するバフや回復も反射してしまうこと。
それをあえて白恋は説明しなかったのに、見抜いた。
さすがは2位というほかないだろう。相手の能力の弱点を的確に見抜くその観察眼。
だが、それでもジョージは誤っている。
己の固有魔法に頼って戦ってきたジョージ。その身体能力はあくまで一般人と同レベル。そんな彼女が身体能力を倍にしたところで、白恋に勝てるはずがないのだ。
刹那の睨み合いの後。白恋がしかけたその瞬間。
「―――ん!!」
間に颯歌が割り込んだ。
「ん――ん!」
何かを訴える彼女。言葉にならない言葉を発しながら、何かを必死に打ち込んでいる。そして、打ち込んだそれを機械音声で再生する。
「私たちは明 雨桐を倒すために動いてる。なのに、助っ人と戦ってどうするの?時間の無駄だよ」
「それはそう。それはそうなんだけどよ――颯歌。でも俺は、戦いたい。この人と心ゆくまで戦いたいんだ」
「だめ。そんなのだめ。私はここで戦って消耗するべきじゃないと思う。そんなに戦いたいなら、この件が片付いてからにして」
感情などないはずの機械音声でも。颯歌の強い気持ちが伝わって来る。
颯歌は引かない。二人の間に立って、動かない。
正直な話。
颯歌には全く理解できない。1ミリも理解できないし、理解したくない。
戦いたいという気持ちが分からない。
魔法とは誰かを護るためのもの。力とは誰かを助けるためのもの。それをなぜ傷付けるために使うのかわからない。
虐待を受けて育った颯歌には、〈誰かを傷付けることが最大の悪〉と深く刻まれている。それは楔のように深く刺さっていて、決して抜けることはない。
仄火の電撃は自分を護るため。
自分の固有魔法で敵を攻撃したのは、自分を護るため。
白恋の技は颯歌を護ってくれるため。
ジョージの固有魔法は白恋と颯歌を助けるため。
―――だから良かった。
―――だから許せた。
でも、今は違う。
戦いたいから戦う。そんなの認められない。
と言いつつ。
使用者の思想が。心が。魂が。それらが色濃く反映されるはずの固有魔法。それがなぜ守りの力ではなくデタラメな超高火力なのか。
それだけが、颯歌自身にもわからない。
「颯歌ちゃんの言う通りね。ハクちゃん。この決着はまた後でつけましょう」
「ん。――ん」
颯歌が胸をなで下ろす。
魔法は人を傷付ける為のものではない。
誰かを護る為のもの。
白恋だって、そう思っていた。
けれど、護れなかった。
だから復讐の為に魔法を使う人生をえらんだ。
人の考えなど簡単に変わってしまう――それを分かっていても。否、分かっているからこそ白恋は颯歌に何も言えない。
「さぁ、行きましょう。まだ先は長いわよ」
ジョージは先頭をきって歩き出した。
***
「さて、1位として。WWO会長として。人類最強として聞いておこうか」
7位と6位。それから2位の不在。
9位と3位は退室済み。
残ったのは1位、4位、5位、8位、10位。それから魔力切れで学園に帰れないアレクシアと遠渡。合計7人である。
1位は〈十大魔皇〉を座らせ、アレクシアと遠渡を空いている席に着席を促した。
「聞くって、何をですか?」
8位――学園の理事長でもある草凪 咲良が尋ねる。
「此度の件の全てじゃよ。裏切り者から説明してもらおうかのう――4位よ」
唐突に、裏切り者として指名された4位。
〈
「な、何言って―――俺が裏切り者?」
「ワシが思うに、裏切り者をお主と仮定すれば全ての辻褄が合うんじゃ。トラン・バオ。否――偽物のトランバオ。〈観察者〉のガレス・サンチェスよ」
バオは偽物で、その正体は〈観察者〉のガレス・サンチェス。オスカーの口から告げられた言葉が、ウソではないとアレクシアは直感的に理解した。
「だから、あのとき――」
遠渡が察した。
WWOに飛ぶ前に危惧していたこと。それは会議に参加している者のなかに裏切り者がいて、急に攻撃して来るかもしれない、という可能性。
実際は、急ではないものの4位が攻撃してきた。
あれは、今思えば。アレクシアと遠渡を消すためのものだったのか。
「おいおい、俺が偽物のバオだとしてだ。固有魔法は偽れないぜ?バオの固有魔法は〈
たしかに、そうだ。それはアレクシアが固有魔法で模倣しているのだから間違いない。
「何をとぼけておる。ガレス。お主の固有魔法は〈
「なるほどね。分かったわ。これでスッキリしたわ」
アレクシアが声を上げる。
「私の固有魔法は、相手の固有魔法をコピーし、完全に使いこなすことができる。でも、あのときコピーした貴方の〈氷華千斬葬〉は、何だか違う気がしたのよ。使いこなせてる感覚がなかった」
「そんな感覚的な話じゃ根拠にならないだろ!!」
尚もガレスは反論する。
「それじゃあ、私の固有魔法を解説してあげるわ」
〈
つまり、この固有魔法には欠陥がある。
最初から相手が〈使いこなして〉いれば、そこから性能の向上は見込めない。コピーという魔法の性質上、単なる劣化版の魔法となってしまう。
「固有魔法で貴方が出した氷の刃は1200万枚。私が出したのも同じ数よ」
――さらに、と彼女は続ける。
「相手が使いこなしていた場合、ただのコピー魔法に成り下がる。つまり、劣化版の魔法を扱うことになる。それが私の固有魔法の欠陥。弱点」
「劣化。それは劣ってるという意味よ。1200万枚の氷の刃を出す魔法。それの劣化となれば、当然ながら1200万枚に届かないはずよね?でも、私と貴方の出したそれは、全く同じ数だった。私の氷の刃の方が鋭利だったとか、頑丈だったとかそんなこともなかった。魔力の燃費以外全て同じだったわ。つまり劣化ではなく本当にただのコピーだったのよ」
さて、彼女の固有魔法の詳しい能力と、オスカーの話。これらを合わせると見えてくるものがある。
「あのとき、なぜ魔力の燃費だけ上がったのか。答えはシンプル」
――アレクシアが〈
〈
故にアレクシアの固有魔法が干渉したのは〈氷華千斬葬〉ではなく〈完全擬態〉であった。
「貴方の本当の固有魔法を真似した。だから私は〈氷華千斬葬〉に違和感を覚えた。魔力の燃費が向上したのは、貴方の〈完全擬態〉をコピーしたからよ。――貴方は、固有魔法を燃費以外は完璧に使いこなしていた。完璧に近い性能であったが故の失態ね」
アレクシアがバオ――ガレスに対して2度めの嘲笑。
「ふざけんな!!」
その煽りを受けたガレスは武器の煙幕を張る。
煙に紛れて擬態する。これが彼のやり方か。
「固有魔法―〈
8位が固有魔法を発動し、〈任意の状況を作り出してときを止める〉ことに成功。
「煙が晴れ、ガレスは固有魔法を発動していない」
――その状況を作り、時間停止を解除。
止まったときの中で、何が起きたのかを知覚できるのは8位だけ。他の者からすれば、急に視界が晴れたことになる。それを8位のおかげだといち早く理解したのは、さすがの1位――オスカーである。
「――ふんっっ!!」
人類最強はすぐに攻勢に出る。
その拳が、ガレスを襲う。
なりふり構わなくなったガレスは、瞬時に固有魔法を発動。そして。
人類最強に擬態した。
ありとあらゆる要素を完璧にコピーする能力。
オスカーの拳をガレスは受け止める。
そのまま煙幕を張り、再び姿が見えなくなる。
8位――はまだインターバルの途中で固有魔法を発動できない。
時間停止なんて何でもありの魔法が、簡単に連続で使えるはずがない。
それを察したアレクシアが〈刹那の切り抜き〉をコピーし発動。
再び状況は振り出しに戻る。
固有魔法を解除してすぐさま遠渡に合図を出すアレクシア。
それを受けて、1位より先に遠渡が殴りかかる。
この場で最も弱い者が殴りかかる。
しかし忘れてはいけない。彼は軍人の家系。オスカーですら知っている西牙の家系だ。最も弱い者と言っても、並大抵の雑魚ではない。
アレクシアと遠渡が現れたあの瞬間。オスカーは〈西牙の倅〉と確かに言った。オスカーが知っている。なら油断はできない。
そう判断したガレスはさらに煙幕を張り、遠渡に擬態する。それを阻止しようと咲良が動くが、アレクシアは冷静にそれを制止する。
煙が晴れたとき――そこには。
二人の遠渡が立っていた。
「どうするつもりだ、アレクシア。これじゃあ――」
咲良はアレクシアに尋ねる。
だが、彼女だけはまだ余裕で笑っていた。
彼女だけは、勝ちを確信していた。
それは、まだ短い付き合いだが共に戦った遠渡がいるから。
人類最強がいるから。
きっと、人類最強なら。
1位のオスカー・グレイヴなら。
自分の考えを察してくれる。それが分かっているからこその勝利の確信。
「私は固有魔法が2つある。一つは〈
そして2つめは。
発動しようとして、オスカーを見る。彼はアレクシアがやろうとしていることを理解している。だから静かに頷き、目を閉じる。
「仕方あるまい。今回は特別じゃ。このワシが使用を許可しよう」
使用に許可がいる魔法。
―――それだけで、この場の全員が察した。
アレクシア・レイルヴァイン。その2つ目の固有魔法は。
「〈
――禁忌魔法。すなわち、即死攻撃である。
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