　いや、めっちゃ面白い怪談じゃないか！　というのが、悪皿に関して調べている私の偽らざる中間心境報告(いま作った単語)です。なので今回は、ガッツリとした妄想は次回以降の連載に譲るとして、八尺様のインパクトが強すぎて、その陰に隠れがちな不憫極まりない高身長お化け、悪皿について、もっとも基本的な部分を語っていこう、と考えています。ご了承ください。

　悪皿は、2008年に2ちゃんねるオカルト板の「ヤヴァイ奴に遭遇したかもしれん」スレッドで初投稿された現代妖怪です。「アクロバティックサラサラ」という元々の長い名称を略して「悪皿」と呼ばれている……という事になっています。

　はい、ここで(まだ具体的な特徴を紹介していないのに)疑問が湧いてきますね。単に略しただけなら、普通はカタカナ表記の「アクサラ」になると思うんですよ。何故、ここで悪い皿という漢字が充てられたのでしょうか。私の調べた限り、この漢字に関する説明は為されていません。

　悪い皿という字を眺めると、どうしても日本三大幽霊の一人である番町皿屋敷のお菊さんが思い浮かびます。皿屋敷の怪談は、家宝の皿を割った咎で、屋敷の井戸に突き落とされて死んだ召使が祟るという筋書きです。色々なバージョンがあるのですが、基本的にはお菊さんは「犯した罪に対して、重すぎる罰を受けて死んだ可哀想な女性が化けて出たもの」です。ひょっとすると悪皿誕生時の逸話を知っている何者かが、お菊さんに擬えてとある怪異を悪皿と名付けたのではないか。しかし、ある時期から、逸話そのものが継承されずに、悪皿という名前だけが伝わった。そして、逸話を知らない後世の人間たちの中で、悪皿という単語の説明として、半ば冗談で「アクロバティックな動きをする、髪の毛がサラサラなお化け」が産まれ、結果的に「アクロバティックサラサラ」という呼び名になったのではないか……と私は妄想してしまいます。

　おやおや、彼女の名前だけで800字近く使ってしまいました。私が悪皿という怪異に惹かれている証拠でしょう。では次に、彼女の誕生にまつわるエピソードを見ていきましょう。八尺様と違って、悪皿には明確なエピソード・ゼロが存在します。

投稿された2008年の段階で「すでに5年前に潰れて無い」(前掲スレより)福島県のとあるビルで「妊娠9ヶ月の時に相手の男性に逃げられた」(同)女性社員が、産んだ子どもを抱いて飛び降り自殺を図ります。亡くなった彼女の腕には常習的な自傷行為に及んでいたことを示す無数の傷があり、「何故か目玉が無くなっていた」(同)上に、「8ｍ程這ったような血液の痕があった」(同)そうです。

　しかし、この逸話で重要なのは、明らかに後から付け加えられた無用な尾ひれの類としか思えない目玉の消失や、這いずった痕の話ではありません。彼女の遺体は「無惨にもぐちゃぐちゃに」(同)なったそうですから、幾らでも素人の勘違いが産まれそうですよね。肝心な部分は、皆さんが読み飛ばした箇所にあるのです。

　元の投稿には、しれっと、自殺が決行される前のくだりで、次のような内容が書かれていました。「そんな中突然自殺をしようと考えている女性社員が居ると社内で噂になる」(同)。さらに続けて、「そんな中一人の女性社員の名前があがった」(同)。そして彼女の自殺へと話は続くわけですが、私は最初、この二つの文章の意味が良く分かりませんでした。ですから皆さんが気に留めずに読み飛ばしたのも理解できます。どうすれば、ウチの会社に自殺をしようとしている社員が居るかもしれない……と話題になる、なんて状況が発生するのでしょうか。しかし、ここを無理やりに想像で埋めていくことにしましょう。

　女子トイレなどで恨みがましい遺書めいた落書きが見つかった……というような小さな事件が幾つか発生して、やがて、すぐに犯人は彼女なのではないかという話になった、というような経緯があったとすれば「自殺しようとしている社員が居るらしい」となるでしょう。亡くなった女性社員は以前から精神のバランスを崩した言動が見受けられていたとすれば特定が可能なわけです。にも拘らず、最後の瞬間まで誰も彼女に救いの手を差し伸べなかったとは、何と残酷な話なのでしょうか。

　この悪皿の誕生物語は、皿屋敷伝承のバリエーションの一つである「皿を割る前段階で、お菊さんがひたすら屋敷の人間達からイジメられている」パターンを彷彿とさせます。更に、ビルから落下していく悪皿は、井戸へと落ちていくお菊さんのようです。少なくとも、このお化けを悪皿と名付けた最初の人物は、そのように思ったのではないでしょうか。私はその人物は彼女を助けられなかった事を悔やんでいる会社関係者だったのではないか……と妄想しているのですが。

　悪皿、すなわち、悪い皿、もともと割れているような皿と考えると、。割ったとされ周囲から責められた彼女には何の非も無いのだ、という思いが込められているのかもしれません。

　……っておいおい、まだ身体的特徴まで行ってないのに2000字を超えてしまいました。禍話の本放送を終えてから一時間も経っていないのですが(さっさと書け)、ここまで私にあれこれと妄想させる悪皿、恐るべしです。

　次回は彼女の外見の特徴、そしてスレッドでの目撃報告について妄想していきたいと思います。まさかの、続く。