第7夜【ジェイソン村】その他

 今回も前回と同様、禍話もしくは個人キャスでの放送内で語っている内容を含むのだが、わざわざ文章に凝って一夜分使うこともない小ネタを集めた雑学コーナーとして気楽に読み飛ばして頂きたい。今後の更新では、この手の雑文と怪談が入り混じるカオスになる予定だ。


【はじめてのかていか】

 一時期、インターネットの掲示板でよく見かけた「怖い文章」の一つ。決して私の好みではないのだが、行く先々の掲示板やコンビニ本で見かけたので次第に愛着が湧いてしまった(問題のある表現)。

 内容はというと、ストレートなサイコホラーである。小学生の男の子が、両親の愛情が最近産まれた妹ばかりに注がれるようになり、耐えられなくなってしまう。ある日、男の子は家庭科で学んだカレーをせっせと一人で作るのだが、両親は妹の姿がないので慌てふためいている……という内容だ。以上のようなストーリーを、男の子のモノローグ形式で描いている。

 初めてインターネット上でこの話に出くわした時、非常に面食らったのを覚えている。というのもこの話、怪奇ゾーン特報班という名義の、複数のライター陣によつて執筆された『恐怖の痕跡』(青春出版社、2000年)に収録されている話と全く一緒だからである。誰かが、まんまネットの掲示板に書き写したわけだ。

 怪奇ゾーン特報班は、青春出版社の文庫でオカルト関連の中枢にいた集団で、十数冊の怪談本を編集している。当初はいわゆる既存の書籍やオカルト雑誌からの孫引き心霊体験談本を作っていたのだが、途中から露骨にフィクション性の強いサイコホラーや、ラストで主人公が惨死する小説然とした作品を取り混ぜて収録するようになった。恐らく執筆陣が変わったのだろう。しかし、従来のテイストを維持した心霊実話パートと比較すると、フィクションに振り切った話の方が明らかに恐怖の質が高く印象に残るという逆転現象が起きており、私は方向性の変化した後のシリーズは全て新刊で購入するほど愛好していた。そんなわけで、禍あつめで再び彼らを取り上げることがあるかもしれないよ、と予告しておく。

 しかし「はじめてのかていか」を書いたライターさんも、このショートストーリーが電子の海で長らく語り継がれるとは思っていなかっただろうなぁ……。


【黒いハンカチーフ】

 学校の怪談系列で定期的に語られている話。ずっと首にハンカチーフを巻いている女の子が居て、幼馴染の男の子に定期的に「なんで付けているの?」と聞かれるのだが、小学生の場合は「中学生になったら教える」、中学生になったら「高校生に~」という調子ではぐらかされ続ける。二人は最終的に結婚するのだが、「もうこれ以上は隠し切れない」と言って女の子がハンカチーフを外すと、首がポロリと取れて落ちたのでした……という話である。

 リアリティが無さすぎるだろ、と突っ込んではいけない。元々はヨーロッパの民話にあるお話で、映画化もされた「スケアリー・ストーリーズ」でお馴染みのAlvin Schwartzによる児童書「In A Dark,Dark Room AND OTHER SCARY STORIES」(HARPER、初版は1984年)の中で「The Green Ribbon」として翻案されている。恐らく、このバージョンで広まったのだろう。

 ちなみに同書では、結婚してもリボンを離さず、年を取ってお互い老人となり、病気でいよいよ明日をも知れぬ状態になってから緑のリボンを外すという良心的な(?)展開となっている。

 この本は英語圏だけでなく、英語の勉強にも使えるということで、日本国内でも昔から流通しているので(現に私はイラストを一新した改訂版を新刊で購入出来た)、英会話スクールなどに通っていた人から緑のリボンが黒いハンカチーフに変換されて広まったのではないだろうか。


【ゾンビ看護師】

 これは完全に屁理屈というかイチャモンなのだが、学校の怪談定番の「夜中の校舎に現れて、遭遇した子どもを追い回す」ゾンビ看護師という妖怪が居る。

 しかし、この看護師、別に捕まえた子供を食べるのが目的ではないようだ。「手術用の台車を押して登場する」もしくは「死人のような顔をした患者を運んでいる」のが登場時の基本パターンなので、コイツに捕まった場合は、治療もどきの方法で殺されてしまうのではないだろうか。

 ……じゃあ「ゾンビ看護師」じゃなくて「ゾンゲリア看護師」じゃん。


【ジェイソン村】

 色んな怖い村のまつわる都市伝説はあれど、話した際に相手が「え……マジで言ってんの? それ、海外の映画のキャラじゃん」的な、侮蔑の視線を向けてくるのがジェイソン村である。最も有名なパターンが「ジェイソンみたいな殺人鬼が出てくる村がある」というもので、40代の私からすると「それ、ジッチャンの名にかけて事件を解決する少年の手がけた6個目の事件やん!わし、直撃世代やから詳しいで!」と、見苦しい似非関西弁で突っ込まざるを得ない。

 しかし、ジェイソン村にまつわる都市伝説の中には「少女の霊がホッケーマスクを被って出てくる」という捻ったパターンもある。私はネット関係に疎いのだが、このパターンの話が書籍に初めて登場したのはナムコ・ナンジャタウン主催の怖い話コンテストに投稿された体験談をまとめた「あなたの隣の怖い話」シリーズの3冊目、『トイレに行けなくなる怖い話』(二見書房、1998年)だと思う。

 『「ジェイソン」のマスクをかぶった少女』として紹介されている、その話では、別荘地(廃……ではなく一応、現役)が舞台となっているものの、近隣住民からは過去に起きた不幸な事件から忌み嫌われているという設定で、何故か全く気にせずに夏休みを謳歌しに出向いた投稿者たちを王道の怪談ストーリーが待ち受ける。

 詳しくは該当書籍を読んで頂きたいが、別荘地にホッケーマスクを持ち込むのが投稿者の友人であり、少女の幽霊がそのマスクを気に入ったのか、物語の後半からキチンと被ってから現れる……という本家「13日の金曜日」シリーズをリスペクトした設定になっている点に特に好感を持った。ジェイソン村について深く語りたい方は、お見逃しなきように。

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