第32夜【NEO part3】

○「空っぽの写真立てコレクション」について(前編)


①Aさんのメモに残されていたという取材の様子

※日時、場所、体験者のフルネームなどは省略しています。また一言一句正確に再現しているわけではありません。

 「写真立てがたくさん(食卓に)置いてあった廃屋の話」

 「誘われて行った」

「食卓のある部屋だけカーテンが閉め切られており窓に隙間が出来ないようにガムテープで貼り付けられていた」

「同じ写真は一つも無く老若男女さまざま」「記念撮影のようで、みんな表情が硬かった」「写真立ての種類もまちまち」「写真立てはみんな外向きに置かれていた」「写真自体は同じくらいの大きさ」「特に誰かの名前などの記載は無し」

「○○さん(体験者)的には『2(ふた)家族分』くらいあった」→「急に、どの写真がどちらの家族なのかと考えだして話が中断、特に似た顔は無かったという結論」

 「そのあと、特に変わったことは起きていない」


②Aさんの友人への聞き書き

 「いや、なんか趣味で集めてたらしいんですよね、実話怪談ってやつを。特に結末が無ければ無いほどリアルなんだって……そんなものなんですかね? そうでもないですか? ははは。

 いや、特にブログだの動画だの同人誌だの、何かしらの媒体で発表する気はなくて、本当に個人的な趣味だったみたいですね。どんな話があるのって聞かれた時に、すっごく嫌そうな顔をしてましたもん。

 確かね、言いたくない、どうせお前らはオチで大声を出して驚かすような、程度の低いバカ話で満足するんだからって言ってましたよ。こりゃ昔、何かあったんじゃないか、例えば、マナーの悪い聞き手にヤジられたとか、そんな苦い経験が学生時代なんぞにあって、色々と歪んじゃったんだろうな、って仲間内では思われていました。

 それで……そのメモは、手帳の破ったページが彼の席にちょこんと置いてある、正確にはクリップで雑に留めて机のビニールシートに挟んであったのを職場の女の子が見つけまして。あいつ、昨夜帰宅する時に置いて帰っちゃったのかなって、読んじゃったけど、多分嫌がるだろうから、この件については触れないでおこうねってことになって、メモはそのままにしておいたんです。

 だけど翌日から彼が……出社してこなっちゃって。そのまま、何日か経っちゃって、流石におかしいよねって話になりまして。

 一番仲が良いのが自分だったので、上司と様子を伺いに彼の家まで行ったんですよ。家賃の安いボロボロのマンションなんですけどね。そうしたら部屋の鍵もかけてなくて。玄関に靴が無かったんで本人は居ないんだろうとは思ったけど、折角来たからね。一応、室内に向かって「入るぞ」って声をかけたあと2人で靴を脱いで上がって、中扉を開けて部屋の中を覗いてみたら、ちゃぶ台があって、そこに写真立てが……その……百円ショップで売っているような安いやつね、あれが……2つ、向き合う形に置かれていました。

 2人ともメモに書かれてあった話は読んでいましたからね、ちょっとこれ以上はヤバいから踏み込まないでおこうって、ドアを閉めて退散して……だから、写真について詳しくは見ていません。誰が写っていたとか、そんなの、特に。ねぇ。

 それで結局、彼はそのまま出社せずに退職という形になって……社内では何か触れちゃいけない話題みたいになってるんで、実際に彼が見つかったのかどうなのかも分からないんですけどね。

 ああ、確かにあいつの行ってた通りかもしれない。明確なオチが無いっちゃあ、無いですね。現実の話は……」


③一言多い人との会話(再現)

「誘われて行った、って言うけど、このAさんが取材した体験者は、誰に誘われて廃屋に行ったんだろうね?」

「最初のメモのところ? たぶんアレだよ、悪友ってやつだよ。類型的過ぎて、メモに残さなくてもいいって判断したんだろうさ」

「普通はそうかな」

「君は相変わらず、怖いというか、含みのあること言うの好きだよね」


④Aさんの友人からのメール(一部読み易く改変しています)

 「お久しぶりです。あれから、Aの件に、ちょっと進展があったというか……いや彼が見つかったとかではなくて、本当に些細な、たぶん、関連付けなくてもいいかもしれないような事なんですが、一応。

 会社の男子更衣室にロッカーがあるんですけど、Aの使っていたやつが、居なくなってからは縁起が悪いってこともあって誰も使っていなかったんですが、最近になっていよいよボロくなっちゃって、廃棄することが決まったんですね。

 その時に、奥の方に紙の切れ端が挟まっていたのが見つかったんです。たぶん、以前机に置かれていたものと同じ手帳から破り取ったものだと思うんですけど。

 殴り書きと、何重線にもなった訂正の羅列で、殆ど読めなかったんですが、最後に、イコールのマークが付けられた単語だけ、何故かそこだけはキチンと読めるようになっていて、

『=およばれ』ってなってました。

 Aの失踪と何か関係があるんですかね。ちょっと気味が悪かったので、お伝えしておきます」


⑤廃墟に行くのが好きな人からのメール(一部抜粋)

「『空っぽの写真立てコレクション』って言う、一部でも本当だったら気持ち悪いなっ言う噂話があるんですけど関連してるんですかね、その話と。いや、こっちの話では写真立てには何も入ってないらしいんですけどね。

まぁ廃墟に写真立てがあったらそれだけで怖い人は怖いと思うんで、全く関係ないホラ話かもしれませんけどね。一応聞いときます?」


(後編へ続く)

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