旅行ですか!

「久美さん、残ってくれてありがとね」


「いえ、大丈夫ですが……。えっとこれはいったい?」


 今朝、美香さんから「放課後、時間ある?」と聞かれました。わざわざ放課後に話すという事は、他の人に聞かれたくない事、例えばオタク趣味に関する事、を話すのかと思っていたのですが……。

 放課後になって教室で待っていると、美香さん含め6人に取り囲まれました。あれ? 私、何かやっちゃいましたか? ――いえ、ラノベの鈍感主人公の真似ではなく。ホントに何も心当たりがないんです。


「あのさ、前に話した時、修学旅行に行けなかったって言ってたよね。その、だ、だからさ。私達で修学旅行しない? だめ、かな?」


「えーっと? それってつまり、みんなで旅行って事です?」


「そう、そういう事」

「忙しいとは思うけど、せっかくの夏休み、一緒に遊びたいなーって!」

「もちろん、久美さんの予定に合わせますので、御一考願えればと」


 美香さん、彩芽さん、瀬奈さんが緊張した面持ちでそう言いました。他のみんなも緊張した面持ちで私の方をじっと見てきます。まるで私に断られるのを恐れているような……。

 もしかしなくても、皆さんからみた私って「学校行事よりも研究を優先する人」って思われてます……よね。だからこんな恐る恐る聞いているのでしょう。


「もちろんご一緒したいです! 是非参加させてください」


「「「ホント?!」」」「「「良かった~!」」」


 ご心配なく、私の中で優先順位は「魔法少女>>>>>海外旅行学会発表≧小中学校の行事」ですから! 魔法少女達の旅行イベントに同行させてもらえるなんて、私感激です!

 ああ、もちろん間に入ろうなんて思ってませんよ。一歩離れたところから、皆さんの楽しんでいる姿を見ておこうと思います。私は先生ですからね、カメラマンが最適なポジションでしょう。

 ふへへ、たっくさん写真を撮りましょう。


「何処へ行くかって決まってるんですか?」


「こんな感じの予定なんだけど……」

「それは、決定じゃないから~。先生が行きたいところに合わせるよ~」

「ぶっちゃけ、夏と言えばこんな感じじゃね?ってイベントを適当に詰め込んだだけだからな」

「あ……。このハンモック公園はイチオシだよ。絶対行くべき、だと、思ふぁぁ……」


 なるほど、なるほど。確かに「夏と言えば」なイベントが盛りだくさんです!


 例えば海! これってもしかしなくても皆さん水着を着るんですよね? 魔法少女美少女が水着姿でキャッキャと遊ぶ姿……。いい、凄くいい! はあ、はあ、はあ、じゅるり。


 そしてお祭り! これってもしかしなくても皆さん浴衣を着るんですよね? 魔法少女美少女が浴衣姿で歩く姿。ああ、もう想像するだけで昇天しちゃいそうです……! ふへ、ふへへへ。


 それらが終わればペンションで一泊! もちろん、みんな一緒の部屋のようです! これはもう、そういう事ですよね?! きゃー!

 ……冗談です。まだ未成年ですし、流石に「一線」は超えないでしょう。ですが「一緒に寝よ?」「うん、いいよ」くらいは当然あるでしょう。あぁ……もう最高!


 そしてハンモック公園! ……これはなんですか?

 よく分からないですが、きっとハンモックでゴロゴロする場所でしょう。


 とても楽しそうな計画ですが、そうはいっても高校生がたてたプランですからね、詰めが甘い部分もあります。例えばスケジュールの密度について。


「凄く楽しそうですね。ですが……これはちょっと予定を詰め込み過ぎではないでしょうか? 海で遊んでからお祭りに行くってだけでも結構大変なのに、その上、他にも細々としたイベントがあるようですし」


「あー確かにそうかも」

「言われてみたらそうだなあ。どれかは諦めるか?」


「諦めちゃうのはもったいないですし、日数を増やします? 親御さんが許してくれるなら、ですが」


 無理に予定を詰め込むよりかは、多少暇な時間がある方が、じっくり楽しめると思うんです。


「いいの、久美さん?」

「久美さんの都合さえ合うなら、私はいつでも大丈夫です」

「私もへーきだよ!」


 スケジュールに関しては何とかなりそうですね。しっかり見直せば他にもボロが出てきそうですし、ここはおとなが一肌脱ぎましょうか。

 この私が、魔法少女に最高のバケーションを提供しようではないですか!



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