瀬奈さんとお話
「ふぅ……」
今日も沢山百合を摂取出来ました!
時刻は16:30、授業は終わりです。今日は整備士の仕事も無いので……どうしましょうか。このまま帰って百合ラブコメアニメでも見ましょうか。それか、どこかの部活でも覗いてみましょうか。
そう思っていると「あの、久美さん」と声をかけられました。振り向くと、なんとそこには瀬奈さんがいました! ……せ、瀬奈さん?! どうして瀬奈さんが私なんかに声をかけてきたんでしょう?!
「どうかしましたか、瀬奈さん?」
「あ、えーっと。よく考えたら久美さんとあんまり喋ったことが無いなと思いまして。今日はお忙しいですか? 少しお話できたらと思って……」
「今日はバイトも無いので大丈夫ですよ」
冷静に対応しているように見えて、実は心臓がバクバク鳴ってます。
どうしましょう、何を話せば良いんでしょうか? そもそも、こんな美しいお方と話す権利が
「そっか、それなら良かったです。あ、えーっと……。いつも難しそうな本を読んでますよね?」
何を話せば良いか困っていると、向こうから話題を振ってくれました。難しそうな本っていうのは、私がいつも顔を隠すために使っているこの本ですね。
しかし困りました。これはかなり難しい専門書ですので、専門家以外の人とこの本を題材にお話なんて出来ません……。
……いえ。ひょっとしたらその方が好都合かもしれません。
「あ、はい! これですね『MSU病理学NEWS~タンパク322の意義とは~』。これはMSU病理学における最新の発見が載る雑誌なんですが、とてもとても大きな発見があったんですよ! あ、MSU病理学って言うのはMSUに生じた異常を顕微鏡を使って解析するって学問なのですが……」
くらえ、オタク特有の早口を! ……なんて。
私は
こんな風に話せば、きっと瀬奈さんは「何やこいつ、何言ってるか分からん」と思うはず。そしたら、私との会話を終わらせようとするでしょう。
「……って訳で、この発見は凄いんですよ! って、あ! ごめんなさい。私ったらつい……。つまらなかったですよね、あはは」
瀬奈さんはきょとんとした表情で私の方を見ています。訳の分からないことを話し始めた私を見てドン引きしているのでしょう。
うぅ……瀬奈さんから変な奴と思われるのは少し胸が痛みますが、どうせ私はモブであり傍観者です。距離を置かれて当然な人間なのです。
そう思っていると、瀬奈さんは驚くような事を言いました。
「いえ、そんなことは……! 正直に申しますと、私には難しすぎて半分も理解できませんでした。ですが、久美さんがとても興味を持っているって事が伝わってきて、私まで楽しくなりました」
「え?」
「熱意をもって一つの事を探究している久美さんはとっても素敵で……凄く魅力的です」
「ふぇ? あ、ありがとうございますぅ……」
瀬奈さんは性格まで美人でした……! なんて心優しい人なんでしょう。「オタクっぽいトークをしたら引くかな?」なんて思った私が愚かでした。
背後から夕日の光が差し込む中、笑顔で私を見ていた瀬奈さんはまるで女神のようでした。
◆ Side 瀬奈 ◆
私、瑞樹瀬奈は魔法少女を目指して養成学校に入ったごく普通の高校生です。そんな私が所属しているクラスには、普通とはかけ離れた物凄い人物がいます。
「このクラスの担当整備士の先生は、なんと白鷺久美さんが就いてくれることになりました! 白鷺さん、挨拶してくれる?」
「はい。白鷺久美と申します。整備士として働きつつ学生として高校に通う事も出来る事に魅力を感じ、この学園に入学しました。皆さんの整備士として、そしてクラスメイトとして仲良く出来たらと考えています。どうぞよろしくお願いします」
整備士とは魔法少女が使うロボットスーツの整備や調節を行う職業で、魔法少女の活動に欠かせない存在です。
白鷺久美さんは整備士の中でも「伝説」とまで噂される天才です。「20代で突破したら天才」と言われる整備士認定試験を僅か8歳で主席合格し、10歳の頃には名だたる整備士の方々と共に「MSU整備ガイドライン」を執筆し、それ以来様々な教科書や参考書を発行されているそうです。
そんな彼女がクラスメイトになって二か月が経とうとしています。その間、私は久美さんを観察していましたが、ほとんど笑わないという事以外何も分かりませんでした。
休み時間、クラスが和気あいあいと盛り上がっている中でも、久美さんはどのグループにも属さずいつも一人で難しそうな本を真剣に読んでいます。きっと、孤高の天才タイプなのでしょう。
さて。私は今、MSUに関する事で相談したいことがあって、久美さんに話しかけようと考えています。ですが、とてもとても緊張してしまいます。私なんかが話しかけてもいいのでしょうか……。
いえ、
「あの、久美さん」
「どうかしましたか、瀬奈さん?」
「あ、えーっと。よく考えたら久美さんとあんまり喋ったことが無いなと思いまして。今日はお忙しいですか? 少しお話できたらと思って……」
「今日はバイトも無いので大丈夫ですよ」
「そっか、それなら良かったです。あ、えーっと……。いつも難しそうな本を読んでますよね?」
私のバカ! 結局話をそらしてしまうなんて。ちょっと「相談したいことがあって」と言えばいいだけなのに……!
すると、久美さんはぱあっと笑顔になって話し始めました。
「あ、はい! これですね『MSU病理学NEWS~タンパク322の意義とは~』。これはMSU病理学における最新の発見が載る雑誌なんですが、とてもとても大きな発見があったんですよ! あ、MSU病理学って言うのはMSUに生じた異常を顕微鏡を使って解析するって学問なのですが……」
この時の私はどんな表情をしていたでしょうか。きっと驚きのあまり変な顔をしていたと思います。それほどまでに、彼女の笑顔が、今までに見た事が無い程の笑顔が眩しかったんです。
しかし、彼女ははっとした顔で口を押さえてこう言いました。
「……って訳で、この発見は凄いんですよ! って、あ! ごめんなさい。私ったらつい……。つまらなかったですよね、あはは」
そう自嘲気味に笑う彼女の顔は笑っていませんでした。何所か悲しそうで、でもすべてを諦めているようで……。ああ、「孤高の天才だ」なんて思った私は浅はかでした。きっと彼女は、天才過ぎて孤独になったのでしょう。周囲から「何言ってるか分からない」「イキってる」などと思われてきたのかもしれません。
ですが、私はそう思いません。「熱意をもって一つの事を探究している久美さんはとっても素敵で……凄く魅力的」、そう私は思います。
そう伝えると、久美さんは顔を真っ赤にしながら言いました。
「ふぇ? あ、ありがとうございますぅ……」
か、可愛い……。私はそう思いました。
久美さんは確かに天才整備士ですが、それ以前に一人の女の子です。こんなに魅力的な人なのに、どうして私は話しかけるのを躊躇していたのでしょう。
「あの、久美さん」
「は、はい。なんですか?」
「あの……実は相談したいことがあるんです」
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