ジャンボ
「誘っておいてなんですが、このショッピングモールにどんなお店があるのか詳しくないんですよね。桃さん、どこか行きたい場所はあります?」
「私も詳しくは無いかな~。確か一階にレストラン街があったよね?」
「そうなんですね、それじゃあそこへ向かってみましょうか」
へえ、色々なお店があるんですね。お寿司屋、焼き肉屋、中華料理屋みたいな専門店もあれば、ファミリーレストランのような幅広く何でも食べられるお店もありますね。
どれも美味しそうで悩んでしまいます。桃さんは? さっきまで隣にいたはずなのに……。
「あれ、桃さん? あ、いました!」
「わぁ~、美味しそう~」
はぐれてしまったかと焦りましたが、幸いすぐにショーケースを覗き込む桃さんを見つける事が出来ました。イチゴのケーキをじーっと見ていますね。
「あ、ごめんね。可愛いケーキだな~って思ってつい」
「いえ、私こそどんどん進んじゃってごめんなさい。わあ! 確かに美味しそうですね」
ここはケーキ屋の専門店のようですね。ただ、イートインで普通のランチも提供しているみたいです。
「せっかくですし、ここにしましょうか?」
「いいの? ありがとうございます♪」
桃さん、とても嬉しそうです。甘いものが好きなんでしょうか。
さて、食後のデザートは楽しみですが、その前にメインディッシュを決めないとですね。えーっと。
「私はこの『モッツァレラチーズとトマトのスパゲッティー』ってのにしようと思います。桃さんはどうしますか?」
「う~ん、どれも美味しそうで悩むなあ~。あ! このジャンボパフェって言うの、美味しそう♪」
桃さんが指さしたのはバリエーション豊富な層にたっくさんのフルーツが入っている大きなパフェ。お値段なんと3900円!
「わあ、なかなかボリューミーですね。いくら『デザートは別腹』と言っても、食後にそれはお腹に入らないような……」
「え? ああ、違うよ~! これをメインで食べたいな~って。あ、でも、ちょっと高すぎるよね……」
「ああ、なんだそういう事ですか。お値段は気にしないで下さい!」
びっくりしました、メインディッシュも食べてこれも食べるつもりなのかと。流石にそれは無理ですよね。
「ほ、ほんとに良いの~? ありがとうございます!」
「もちろんです、それじゃあ注文しましょうか」
ピーンポーン。呼び鈴を鳴らすとウエイターさんが来てくれました。
「いらっしゃいませ、ご注文承ります」
「えっと、私はこの『モッツァレラチーズとトマトのスパゲッティー』と食後に『ベリーベリーケーキ』でお願いします」
「私はこの『ジャンボパフェ』と食後に『ベリーベリーケーキ』でお願いします~♪」
……あれ? 今、桃さん、変なこと言いませんでした?
「「え?」」
ウエイターさんもそう思ったようで、びっくりした表情で桃さんをみました。ちょ、ちょっと待ってください。桃さんの注文は何でしたかね。えーっと。
「ちょ、ちょっと桃さん? えーっと、ジャンボパフェ食べた上でベリーベリーケーキも食べるんですか? だ、大丈夫です?」
「あれ、ダメでした?」
「いえ、駄目ではないですけど。食べきれます? 口の中、甘々になっちゃいません?」
「? 甘々? あ、私、甘いの大好きなんで大丈夫ですよ~!」
「そ、そうなんですね。それなら良かったです(?) あ、ごめんなさい。そういう事みたいです」
「わ、分かりました。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「「はい」」
◆
「すごいです、まさかほんとに全部ペロッと食べるなんて……。美味しかったですか?」
「うん、と~っても美味しかったよ~♪」
お互い注文していた料理を食べ終わって、今はコーヒーを飲んでゆっくりしています。パフェを食べている最中の桃さんはとっても幸せそうにしてて、見ているこっちまで嬉しくなりました。
まったりした空気が流れる中、桃さんが何かを思い出したように「あ」とつぶやきました。そして私の方をじっと見て言いました。
「そういえば先生~。私、ずっとお礼を言いたいって思ったの~」
「えっと、お礼?」
「うん! 瀬奈ちゃんのMSUの不調を治したり、アヤメちゃんの事を叱ったりしてくれたり。それから翠さんの訓練にも付き合ったって聞いたよ~。他にもたくさん、私たちを助けてくれてるから。改めてお礼を言いたいなあ~って」
「あはは、お礼を言われるようなことじゃないですよ。私はただ職務をこなしただけですし」
「一部はそうかもしれない、けれど、職務以上の事もやっていると私は思うんだ~。例えばアヤメちゃん、今まで誰から注意されてもサボり癖が直らなかったのに、先生が叱ったあの日以来、しっかりメンテナンスしているの」
そうなんです、アヤメさんはあの日以来、きちんとメンテナンスをするようになりました。本当に良かったです。ですが、それは私がただキツく言ったからで、感謝されるどころか嫌われてもおかしく無い事なのでは?
「アヤメちゃんが変われたのって、先生が心からアヤメさんを叱ったからだと思うの~! 形式的に叱るんじゃなくて、本心から相手を心配して𠮟った。それだけじゃない、私を含めてクラスのみんなが先生の優しさに助けられてるんだよ?」
な、なんてできた人なんでしょう、桃さんは。こんなセリフ、人生2周目の私でも言えませんよ?!
私からしてみたら、私なんかより桃さんの方がよっぽど素晴らしい人です。桃さんは気配りが出来て、クラスみんなから慕われている、まさに聖母のような方です。そんな桃さんから感謝されるなんて、むず痒くって仕方ありません。
「だからね、私、先生に何かお礼をしたいなあ~って思ってるんだ。なにか出来る事、あるかな?」
「え、ええ?! そ、そう言われましても……」
「ちょっとしたことでもいいから、なんでも言って~」
こ、困りました。そんなこと言われても、私、なんにも思いつかないです。強いて言えば、いつも通り教室で百合百合する様子を見ていたいだけで……。は! それを言えばいいじゃないですか。
「その、それでしたら、一つお願いが」
「おお~! なあに?」
「あ、あの。教室でいつも瀬奈さんやアヤメさんをぎゅっーってしてるじゃないですか。あの、あれがすごくいいなーって思ってるんです!」
何度見ても飽きない、素晴らしい百合オーラがそこにはあるんです! キラキラオーラを幻視してしまう程に輝いているんです!
桃さんは一瞬きょとんとした後、席を立って私の隣に座りました。え、一体何を。
「はい、ぎゅー」
「ふえ?」
な、何故か急に抱きしめられました。え、なんでです? なんで私がぎゅってされてるんです?!
えっと、私のセリフを思い返してみましょう。えーっと『ぎゅっーってしてるの、すごくいいなーって思ってるんです』みたいに言いましたね。
……捉えようによっては、これって私もぎゅってされたいって聞こえますね!
「久美先生って大人だな~って思ってたけど、意外と子供っぽい面もあるんですね~」
「あ、あの。違うくて!」
「はっ! ごめんなさい、悪い意味じゃないの! 誰でも甘えたいときくらいあるよね~。今日は思う存分甘えていいよ~。よ~しよし」
「はわわわわ///」
わ、私! 桃さんのお胸に埋もれちゃってますぅ~! お、おっきいぃぃー!
ジャンボです、ジャンボ過ぎますう。
やっぱり桃さんは聖母……です。ガクッ(昇天)
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